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嵐に舞う (1)

 次第に深くなっていく山は、桜が咲き誇っていた。

 砂糖菓子でできているかのような薄紅の光景に、むせ返るほどの花の香りが充満している。


 さすがは桜で有名な吉野だ。

 平安の貴族たちがこぞって和歌にしたためたのもうなずける。


「見事だにゃあ。にゃあ、そう思わにゃいか、少年?」


 くるりと振り返ってシロが話しかけるも、小太郎の目はただただ前にひたと据えられていた。

 血走った眼は、周囲の風雅な光景など映していないことは明白だった。

 小太郎の着物は土と血がこびりつき、ひどく血なまぐさい。鬼との戦いを終えたこの少年自体が修羅のようだった。


「――どうして、ついてきたんだにゃ」


 笑みをひっこめてシロが尋ねた。


「あんたたちは今まであたしの言うことにゃんか全く聞こうとしにゃかったじゃにゃいか。今回はどうして?」

「俺たちは利用されていると、そう言ったな」

「言ったにゃ」


 こくんとうなずくシロ。


「本当ならば、俺は今すぐ甲賀へ走らなければならない。それが俺の果たすべき任務だから。だが、俺は理由を知りたい。納得をしたい。何が起きているのか知らないで走れない」

「残酷にゃ結果かもしれにゃいにゃ」

「それでも、俺は知りたい」


 口にした小太郎は気づいていないだろうが、それは忍者として危険な思想だ。忍者は己を排することを求められる。自分が納得できないから使命を果たせないなど、たわごとにすぎない。


 己を捨てるからこそ、使命を果たすための的確な判断を下せるというものだ。

 頭領でなくとも、甲賀の里の者に聞かれでもしたら、激しい叱責を受けるに違いない発言を、だが、シロは薄い笑いを込めて迎え入れた。


 答える代わりに、シロは進む足をさらに速めた。桜の香に少しずつ焦げた匂いが混ざっていく。

 現場が近いのだ、と小太郎は感じた。


 牡丹の【赤花】が相手を蹂躙しつくしたその場所が――


「ついたにゃ」と、改めてシロに言われるまでもなく、そこが現場であることは明らかだった。


 今までの薄紅の景色と比して、目の前に広がる光景には圧倒的に色が足りなかった。水墨画のような無彩色の世界――

 すべてが焼け落ちて、炭と煤で覆いつくされていた。生焼けの肉のにおいが鼻をついて、小太郎は思わず口元を抑えた。


「恐ろしい力だにゃ」

「――赤花」


 彼女の能力を見慣れたはずの小太郎でさえも、目を瞠るほどの威力だった。


 小太郎は小さくつぶやいて、称賛すべき少女の姿を探す。

 その首を自らの手で埋めてきたばかりだというのに。


 円を描くように広がる焼け跡の中心地に、小太郎はふらつく足を進めた。


 いつだって、何か問題が起きた時の原因は中心は牡丹なのだ。

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