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千々に炎は (4)

 返答の言葉が消えるより前に、シロの姿が宙に消え、牡丹の放つ炎の渦が空間を埋め尽くした。


「ここを焼き払うつもりかにゃ? おっかにゃい力だにゃ」


 声は上から降ってきた。牡丹の【赤花】の到達する前に、頭上の太い枝へと飛び乗ったのだ。

 これまで何度も見てきてはいるものの、人間離れした跳躍だった。


「あんたらの兄貴分たちにゃら、あたしの腕がくっついていることにゃんて、見た瞬間に気づいただろうにゃ。だから、あたしは戻れと言ったんだ。あんたら二人にこの任務は荷が重すぎる」

「なめんなっ!」


 小太郎は地面を蹴った。

【風舞】で瞬きの間にシロの立つ場所へと駆けたが、すでにシロの姿はない。


「もっと早くに伝えておけばよかったにゃ。“あの方”の手の内で結局は転がされているだけだということをにゃ」


 シロはいつの間にか地面に降りていた。

 両手の指の間に一本ずつ、小さな竹筒を挟んでうっすらと笑う。


「うるせえっ!」「うるさいっ!」


 二人の声が重なり、牡丹の【赤花】と小太郎の短刀がシロへ向かって飛んだ。


「まったく仕方がにゃい子供たちだにゃ」


 攻撃した先にシロの姿はなく、再び別の場所から相変わらずののんびりした声が聞こえてきた。


「年長者のはにゃしをまじめに聞く気がにゃいにゃら、少し乱暴にゃ手を取らねばにゃらん」


 にゃあにゃあうるさいシロの言葉に呼応するようにして、地上と樹上で敵意を放つ二人の体にひも状のものが巻き付いてきた。小さく鳴き声を漏らすそれは、白色のふわふわした毛で体を包んだ管狐だった。

 竹筒から解放された細長い生き物たちは、嬉々として牡丹と小太郎二人の四肢に絡みつき、自由を奪っていく。


「……くっ、くそ、ふざけんな。放せ、畜生」


 樹上の小太郎は体の均衡を保つことができずに地面に落下した。どうにか体の位置を変えて、頭から地面に激突することは避けられたものの、背中をしたたかに打ち付けて小太郎はせき込んだ。


「言っておくけどにゃ」


 管狐に体をきりきりと締め付けられて、苦しさと悔しさをにじませる二人の前に、シロがふわりと降り立った。金色に光る瞳の奥の瞳孔は縦に伸びて、奇妙な美しさと威圧感を与えてくる。


「あの方に抗しようというにゃら、あたし程度で圧倒されている場合じゃにゃいぞ?」


 シロの目が細くなる。

 同時に、二人を締め上げる管狐の力も強くなっていく。


「どういうつもりよ!?」


 喘ぎつつも強気な態度を崩さない牡丹をシロは満足げに見つめて、それからにんまりと唇の端を上げた。


「はにゃしを聞いてほしいんだにゃ」

「あぐっ!!」


 牡丹の口から空気の塊があふれた。さらに締め付けを強くされたのだ。後ろ手の状態で締め付けられた牡丹の腕は不自然な形を強要されている。


「牡丹っ」


 思わず声を上げた小太郎の四肢にもさらに痛みと圧がかかる。

 自らを化け物と名のった奇妙な女に翻弄されているという事実がまた、二人に悔しさを与えてくる。


「こうでもしにゃいとあんたたちは聞く耳をもたにゃいだろう?」


 ごりっ、という音がした。

 差し込まれるような鋭い痛みに、二人は一瞬、息ができなくなった。


「骨を外しただけだ。元通りにはめさえすれば支障はにゃい」


 空気のほとんどない場所へ突如放り込まれたように、浅い呼吸を何度も何度も繰り返す二人に、シロはあくまでも飄々とした態度のまま続ける。二人の力量、管狐の力加減、すべてを完璧に把握しているようだった。


 確かに折られてはいないようだ。


 小太郎は茫洋とした意識の中でそう考えるが、だからといって、この状態でシロを相手に戦うことはもちろん、立ち上がることさえもできない。

 やはり、シロという女は自分たちをとらえて血をすするつもりなのか。殺意も敵意も、害意さえもかけらも見せないまま、自分たちは命を落としてしまうのか。


 いつの間にか、管狐はシロの持つ竹筒の中へと戻っていた。


 自由を奪われた二人の忍びは、殺意すら込めた視線を、自ら化け物と名のる奇妙な美女に注ぐ。

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