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闇を乞う水 (4)

白閃(はくせん)】というのが兵介の能力の名前である。


 またたきよりも速い居合抜き――斬られた相手は、斬られたことに気づかないまま命を落とすだろう、と言われるほどの高速抜刀の術はもちろん、兵介本人の剣術の腕も大きく関与している。


 兵介の【白閃】は果たして忍術なのか、あるいは剣術なのか、という問いはその神業を目の当たりにした者の胸に必ず浮かぶ疑問であり、剣術であると結論づけたあまたの者がどんなに修行したとて、その足元にすら、影にふれることさえもできなかった、という事実をもって、大多数からは忍術として認識されている。


 きちりと髷を結い、武者然とした佇まいを崩さない兵介からすると、剣術として認められた方が本望かもしれないが。


 ともあれ、襲い来る敵方を刀身のきらめく間に打ち果たしてしまえる兵介が迎撃の役目を負うというのも、納得できる話だった。


「――俺は?」


 口を挟んだ小太郎は、いつもよりも控えめな口調だった。

「お前は撹乱と、報告だ」

「報告?」

 小太郎の口がへの字に曲がる。

「なんだよそれ」


「不満か?」

「......俺だって、戦いたい」

「だからこその撹乱だ」

「わかってるけど」


 兵介は一切声の調子を変えないままで返す

 彼が冷静に平等な目で見た結果であることは、その怜悧な目を見ればわかる。


「俺たちが任務を果たすのに、情報が重要だっていうのはわかるよね? 情報をいちはやく、なによりも早く伝達できるのは小太郎、君だけなんだ」


 前線で戦う役割をもらえないと、小太郎が考えていることを察した喜平がすかさず兵介の言葉に補足を加えた。


 小太郎は【風舞(かぜまい)】という能力を使う。


 その能力を使った途端、小太郎は誰よりも疾くなる。忍者たちでさえも、その動きを追うだけで精一杯になるほどなのだから、一般人の目にすれば、残像すらも残らないかもしれない。速度重視の能力と成長過程の小柄な体格から、小太郎は太刀などの大型の武器は使わず、多数の短刀を使い捨てる。殺傷能力は低いものの、兵介の告げた通り、撹乱にはうってつけの役回りだった。


 兄貴分の兵介、喜平の意見に頭の中では納得していても、それでも自分の力を見せたい、自分が役に立つと認めてもらいたい、と小太郎が思っているであろうことは明白だった。


「人には向き不向きがある。適していないことを無理にでも行うのは、非効率である以上に危険でもある」

「俺たちには、小太郎の速さが必要なんだよ? それはなによりも貴重で重要なんだ」

「……うん」


 一方は冷静かつ厳格に、もう一方は穏やかになだめるように、二人から同時に説得を受けて、小太郎の勢いは失っているものの、それでもどこか言いたいことがまだ残っているように見える。


 兵介が眉間にしわを寄せ、喜平が下がり気味の眉をさらに下げたその時、「なに? あたしを除け者にして何しているのよ?」


 髪の先から水を滴らせながら、牡丹が姿を見せた。

 冷たい水に浸かってかえって赤みを増した唇は、その年齢に似合わないほどの艶やかさを漂わせる一方、子どもじみたあからさまな不平不満の表情を浮かべている。


「作戦会議にあたしは必須でしょ?」


 暴走しかねない、という兵介の心配を自ら裏付けるように、牡丹は揺るぎない自信を三人に見せつける。

 牡丹には気づかれない程度に、兵介が顔をさらに渋くして、小さくため息をついた。


「ごめんね、なんか手持ち無沙汰だったから」

「ふうん」


 喜平の穏やかな笑顔をじろりとにらんで、牡丹は口を尖らせた。


「で? あたしの役割は?」

「――殲滅だ」

 渋い顔を崩さないまま、兵介はぽつりと返す。


「まかせといてっ!」


 まるで大輪の花がほころぶように、牡丹は輝くような笑顔を見せた。

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