揺らぐ光輝 (14)
街道を巨大な影が走っている。
全力疾走を続けるその影からは、ゆらゆらと湯気が立ち上り荒れた呼吸の音が大きく響く。
後ろから二つの小さな足音が聞こえてくるのに気づき、影はわずかに首をねじむけた。
「どこへ行くつもりだ?」
「……さすがに速えな」
大きな影は則繁、あとについてきた二つの小さな影は牡丹と小太郎のものだ。息を弾ませている則繁とは対象に、二人の忍者は汗をかいた様子もない。
幼いとはいえさすがに甲賀の里で忍者としての修行を積み重ねてきただけのことはある。
「止めるなよ。今度は手加減できる気がしねえ」
「逃げるつもり?」
「ちがう」
「なら、どうして」
「さむれえのにいちゃんが危ねえんだ」
三人の前に一人の山伏が現れた。
白装束のところどころに血痕らしき飛沫が見える。山伏は赤い目をにんまりと吊り上げて、錫杖を振り上げる――
その両足を則繁の薙刀が断ち切った。耳障りな悲鳴を上げながら崩れ落ちていく山伏の顔を、則繁は力いっぱいに踏みつけた。
めこり、と山伏の顔がへこみ細かな痙攣を繰り返すだけになる。
躊躇も容赦もない則繁の攻撃を目の前にして、小太郎と牡丹は則繁が自分たちに対して手加減をしていたことを改めて実感した。文字通りの子ども扱いである。
地面と木に叩きつけられはしたが、それでも手加減した結果なのだろう。
山伏を倒した後も則繁は必死の表情を崩さないまま駆け続ける。
時折、山伏たちが姿を現すものの、ほんの一閃で彼らは地面に崩れ落ちた。
圧倒的なまでの強さだった。
人外ともいえる忍術を身に着けた牡丹と小太郎ではあるが、それでも則繁の前では児戯に等しかった。
「どうして」
並走しながら牡丹が尋ねる。
「宝玉を取ったの? やっぱり、あたしたちに渡したくなくなったの?」
牡丹と小太郎の脳裏には、彼に護符など不要ではないかという思いがあった。護符にできる程度の守りなど、則繁の強さの前では無意味に等しいのではないかと。
「……そうじゃない」
則繁の息は荒い。荒い中、なぜだか泣きそうな口調で答える。
「そこにないのを確かめたかったんだ。悪い夢だと忘れたかったんだ。だから、丑三つに忍び込んだ」
「あ――」
二人は顔を見合わせた。
昼間、シロがした忠告――忍び込むならば子四つか丑一つがいいという助言、それは則繁も耳にしていたはずだ。忠告を耳にした則繁は、三人の忍者は言葉通りの時刻に忍び込むに違いないと考えたのだろう。
であれば、則繁が忍び込んだ時刻に、宝玉はすでにない。
則繁は宝玉を取りに侵入したのではなく、宝玉がそこにないのを確認するために侵入したということか。
彼らがシロの忠告を無視したところから、歯車が狂い始めていたのだ。
「山名持豊の首にまだ残っていた宝玉を取ったのは、出来心だ」
「……未練があった?」
則繁は小さく笑う。
自嘲気味な笑いは、なぜか二人の心を締め付けた。
「そうかもしれねえ。だが、それ以上に、俺はさむれえのにいちゃん――兵介だったかな? 彼とつながりがまだ持てたことがうれしかったんだ。これを持っていれば、もう一度会えるかもしれねえ。手合わせをできるかもしれねえ」
「…………」
まるで愛の告白だ。
二人は子供のように目を輝かせる則繁を見つめた。
「俺は、あいつに斬ってもらいたい」
それは、死に損ねた男の心からの叫びだった。




