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揺らぐ光輝 (11)

「今度は俺か」


 小さくつぶやいた兵介の言葉は、地面を叩くたくさんの高下駄の音でかき消された。


「こいつらっ!!」


 牡丹が声を上げた。

 ――そこには、屈強な体に毒々しいまでの敵意をたたえた十数人の山伏たちが立っていた。

 人の姿でありながら、人らしからぬ獰猛な笑みを満面に浮かべて、山伏は錫杖の端で地面を叩く。


 しゃん、と不気味なほどに澄んだ音が闇に響いた。

 しゃん、しゃん、しゃん――


 それは何かの儀式のような。いや、これはきっと殺戮の合図だ。喜平を待つ間に味わった彼らとの激しい戦いを思い出して、牡丹と小太郎が体を固くしている間に、一閃。

 兵介の刀が軌跡を描いた。


【白閃】である。


 問答無用で山伏の一人を斬り捨てた兵介は、次なる攻撃への体勢を整えながら、振り返りもせずに怒鳴った。


「牡丹、小太郎、向こうを追え! ここは俺が引き受けた」

「ええっ!? で、でもこいつらを倒してからじゃないと」


 言いながら印を結ぶ牡丹の目の前を、一人の山伏のふるった錫杖が軌跡を描いた。

 とっさに小太郎が牡丹を突き飛ばさなければ、その両手は手首から斬り落とされていたに違いない。


「仕込み杖かよ」


 小太郎がぼやいた。


 彼らの持つ物騒極まりない武器は、とうてい修験道に身を置く者の持ち物とは考えらえれない。

 殺意たっぷりの武器と、化け物じみた身体能力を持った戦闘集団だった。


「 【赤花】を発動できない」


 牡丹が悔しそうにつぶやいた。


 牡丹の忍術【赤花】はとてつもない破壊力があり、周囲を取り囲む山伏たちなどは一瞬のうちに消し炭とすることができる。だが、ごく一瞬、発動させるまでに時間がかかるのだ。


 印を結び、念を込める――ただ数秒のことだ。

 だが、牡丹が印を組んだその瞬間を山伏は見逃さなかった。


 発動する直前、牡丹が無防備になるその一瞬を山伏たちは狙ってきた


「牡丹の能力を知っている?」


 小太郎は驚愕の声をあげた。この間にも襲ってくる山伏たちの動きを少しでも奪うために、両足の腱を斬っていくが、次々に襲い掛かる山伏を相手にあまり意味をなしていない。

 それに、山伏たちの動きはまるで痛みを感じていないように見えて、ぞっとする。


「一番厄介なのが、牡丹の【赤花】なのだということを知っているのだろう。若狭の奴等の仲間か」


 すでに兵介の刀は血にまみれている。


 兵介の【白閃】も、小太郎の【風舞】も確かに恐ろしい能力だが、数を頼んで押しつぶすことは可能である。対して、牡丹の【赤花】は敵の数がどれほど多かろうが、一度に殲滅できるほどの威力を持った唯一の能力だ。

 三人の能力を熟知した上で、もっとも警戒すべきは誰かを考えたとき、牡丹が真っ先に上がることは間違いない。


「でも、若狭では全員倒したわ」

「ああ――そうしたつもりだったが」


 印を組もうとすればすかさず山伏の錫杖が襲ってくる。

 そんな状態であるので、牡丹は忍術を使うことをあきらめ、苦無で応戦しているが、もちろん、兵介の【白閃】と小太郎の【風舞】に匹敵するほどの戦果をもたらすことはできない。


「相手は俺たちの考えているよりもずっと大きいのやもしれぬ」


 少なくとも、若狭とここ播磨で忍者たちに襲い掛かってきた山伏たちは結託している。

 十中八九、あの美青年を核として――


「とにかく、俺たちが最優先すべきは宝玉だ」


 戸惑う二人をさらに叱咤激励する間にも、兵介はさらに山伏に刃を浴びせる。「追え!」


 最後は半ば叫びだった。

 今までに見たことのない兵介の取り乱した様子に、二人はのっぴきならない状況に追い込まれているのだと理解した。


「行こう、小太郎」

「……う、うん」


 兵介をおいて駆けだす途中で、牡丹はくるりと振り返った。


「宝玉を手にして待っているから、とっとと来てよ?」

「無論」


 短い兵介の返答。返答に合わせた一閃が二人のための道を作る。

 牡丹と小太郎は闇の中へと消えていった影を追いかけて、再び走り出した。

 一人も逃すまじと、数人の山伏が二人を追いかけようとするが、兵介の【白閃】に阻まれる。


「貴様らの相手は俺だ」


 兵介の構える刀からは、すでに鮮血を滴らせている。


「一人たりとも、あいつらのもとへは行かさぬ」


 遠ざかっていく二人の足音を耳朶の奥でとらえて、兵介は小さく「すまぬな」とつぶやいた。

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