揺らぐ光輝 (8)
あまりにとてつもない則繁の言葉に、三人の忍者は言葉を失った。
前代将軍の暗殺どころではない。
幕府そのもの、室町幕府の作り上げた体制そのものの破壊を意味していた。
「選びなおしだ」と、なんてことのないように則繁は話すが、小太郎にとって、三人の忍者たちにとってそれはあまりにも罪深い話だった。
「貴殿は」
兵介がことさらに感情を抑えた声で尋ねた。
「その中で貴殿は何の役割を果たすおつもりか?」
「なんもねえ」
けらけらと笑うような則繁の声には気負いも何も感じられない。
「俺はただただ壊していけばいいだけさ。小悪党どもを生み出したこの仕組みをすべて叩き潰していく――そのためにも、宝玉が必要なんだ。俺たちにとっての護符だ」
『……小太郎、牡丹、何も言うな』
特有の周波数で兵介は唖然とする二人の忍者を制した。
釘を刺されずとも、二人には目の前の狂気を宿した男に投げかけるべき言葉は持っていなかった。二人の想像をはるかに超える発言、思想――それを実行することで、世間にどれほどの影響が出るのか、どれほどの犠牲が出るのか、この男は分かっているのだろうか。
いいや、わかっていて、なおも己の意見に固執しているに違いない。
己の意見こそが正義と信じているに違いない。
曲がりなりにも成立した平安。
則繁はそれをすべて崩し去ろうとしていた。
その先にあるのは、群雄割拠し、相争い合う凄惨な戦いの世。
戦国の世だ。
自分自身では気づいているかは分からないが、四年前の事件で命を捨てそこなった男は、新たな死に場所を求めていた。
命を賭するに足る、華やかな死地を――
「宝玉が貴殿にとってどれほどの価値を持とうとも、我らには関わりのないこと」
突き放すように兵介は告げる。
「我らの目的もまた、あの宝玉にござりまする。貴殿に渡すわけにはいきませぬ」
言葉こそ丁寧なものの、鋭い視線に鋭い声だ。
兵介の覚悟が詰まった言葉は、無邪気な笑みを浮かべる則繁の表情を真剣なものに返すのに十分足りた。
「何のために?」
「答えることはできませぬ」
「そうか」
則繁が破顔した。
「使命とあっちゃあ仕方ねえなあ。さむれえのにいちゃんと立ち会ったところで、到底勝ち目はねえ。まあ、俺のほうは潮時だったってことかな」
「……では失礼いたす。貴重な話を感謝いたしまする」
ぺこりと頭を下げると、兵介は年少組二人についてくるように促した。
唐突な幕切れに、牡丹とと小太郎は慌てて立ち上がり、年長者の後を追った。
「なあ、にいちゃん、足をどうした?」
「どうもしてござらん」
背に向けて投げられた問いを、兵介は足を止めずに返す。
素っ気のない返答だが、則繁には面白がっている気配があった。
「にいちゃん、気に入ったぜ。俺たち武士は、強くて美しい若武者に首を落とされることを一度は夢見るものだ。俺はできることならあんたに斬られてえなあ」
「貴殿の自死に付き合うつもりは毛頭ござらん。死にたくば、一人で死ね」
則繁は今度こそ、大声で笑った。




