闇を乞う水 (21)
屋敷の堀が見える場所で、年少組二人がたたずんでいた。
そわそわとふたつの小さな背中が小刻みに揺れている。兵介の許可をもらえたら、今すぐにでも屋敷に飛び込んでいきそうだ。
それほどに焦れていてもやみくもに突っ込んでいかないのは、さすがの甲賀の里での修行の成果だろうか。
「あっ、兵介っ」
苛立ちのあまりにかみつくような口調で牡丹が声を上げた。
忍者用の周波数でもわかる、甲高い声だ。
「喜平遅すぎない? あたしたちが行って、助太刀したほうがいいと思うんだけど」
「なあ、俺見に行っていいか?」
落ち着け、と兵介ははやる年少二人をなだめて、背後のシロに目をやった。軽薄な表情が消えていた。
「にゃかに行っても無駄だにゃ」
短く、小さくシロが口にした。
「なぜだ?」
シロは答えない。
雨が次第に強くなっていく。
地面にはすでに水たまりがあちこちに作られ、その範囲を今も広げつつある。
四人は木々の中に立っているが、時折、雨粒の重さに耐えきれなくなった葉がこぼす水滴に、彼らの髪も服もぐっしょりと濡れていた。
一面が【水鏡】だった。
喜平が独壇場になれる場所――
小太郎と牡丹は喜平の姿を探した。【水鏡】になりうる場所ならば、喜平はどこからでも姿を現せるのだ。前後左右に体を、頭を、目を回して、年少者二人は落ち着きなく兄貴分を探す。
「――あっ」
小さく叫んで牡丹が駆けだした。
雨にけぶる暗闇の中、地面よりぼんやりと何かが盛り上がっていた。
その盛り上がりに牡丹は手を伸ばし、あっけなくしりもちをついた。何やってんだよ、と憎まれ口をたたこうと見下ろした小太郎は、牡丹の手にあるものを見て、目を見開いた。
「ねえ、喜平が……これしかいないよ?」
震える声で牡丹は言って、右手につかんだ“それ”を掲げる。
腕だった。
肘から先を斬り落とされた腕が、雨と血の混じった水滴を切断面から滴らせていた。
あとからやってきた兵介が、ほとんど無表情に牡丹から腕を取り上げた。
「これだけか」
兵介はこの腕を見た瞬間に、喜平が何をしたのかを理解した。
喜平が死んだのだということも。
何らかの理由で腕を斬り落とされ、死を覚悟した喜平はこの腕だけでも仲間のもとへ届けようと【水鏡】をやってのけたのだ。
――腕のみで。
もちろん文字通りの離れ業で、成功するかどうかの確証などあるはずもない。
だが、それはおそらく喜平の執念だったのだろう。穏やかで誰に対しても優しさを忘れない喜平が、その実、小さな体の中に激しい感情を燃やしていたことを知るのは、兵介くらいだろう。
「投げたんだな。これだけでも俺たちに託そうと」
兵介はこぶしを作った喜平の指を一本一本丁寧に開いていく。
「まずはひとつめだ」
喜平の手から現れたのは、黒く濡れた輝きを持つ珠だった。




