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女神大戦 ‐The Splendid Venus‐  作者: 灰原康弘
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『危険区域』②

 ガラリと扉を開けると、広い玄関に出迎えられた。

 床には赤い絨毯が敷かれ、家具、調度品ともに高級感のあるその部屋は、高級ホテルの一室を連想させる。娯楽室、バスルームなども完備しているのだが、一番大きな部屋ともなると目をみはる広さだ。上の階をくりぬかれて造られた部屋。白を基調とした天井にシャンデリア、日が暮れているため、大きな窓はカーテンで仕切られている。天井まで届く大きな本棚にはびっしりと本がつめられ、部屋のあちこちには人形が置かれており、まるでファンタジー世界のようである。

 その部屋の中で、オルゴールの音に耳をかたむけている華麗な少女がいた。

 長いすべらかな黒髪と、透き通るような白い肌をもつ少女だった。

 触れれば消え入りそうな、不安すら感じさせるほどの細くきゃしゃな体。長いまつ毛にアーモンド形の大きな瞳。首からは尊がかけているものとおなじロケットが下がっており、白いネグリジェを着ている姿は、一国の姫のようだ。

 まるで完成された美術品のような、ここにこうしていることが奇跡とさえ感じるような、そんな不思議な少女だった。

 客人の存在に気づいたのか、少女はふと顔をあげ、

「兄さん。来てくださったんですね」

 妖精のようにやわらかくほほ笑む。

「すまない、唯。すこし遅くなってしまった」

 最愛の妹の姿を見て、尊の口元も自然にほころぶ。

「いいんです。お気になさらないでください。兄さんもお忙しいでしょうから」

 そう言うと、唯はオルゴールをパタンと閉じた。

「俺はもうすこしはやく来ようとしていたんだが、律子のバカに捕まってしまってね。こんな時間になってしまった。本当にごめんよ」

「ダメですよ、兄さん。律子さんを悪く言ったら。わたしたちは、とてもお世話になっているんですから」

 尊は一瞬不機嫌な表情になるも、すぐに笑顔を取り戻し、

「唯。今日もたくさんお土産を買ってきたんだ」

 と言って、紙袋の中のものを取りだした。

 唯の好きな果物から、本やぬいぐるみ、オルゴールなどすでにいくつも持っているものや、髪留めなど、様々なものが出てくる。

「ありがとうございます。でも兄さん、ちょっとムリしていませんか?」

「そんなことはない。お金のことなら心配しなくていい。兄さんにまかせなさい」

 そう言って、尊は唯の頬を愛おしげになでる。

「おやつにしよう。リンゴを切ってくるよ」

 どこかウキウキとした様子で台所に向かうと、慣れた手つきでうさぎ型にリンゴを切り、笑みをうかべながら戻ってくる。

「さあ、たくさんお食べ」

 と言ってリンゴを刺したフォークをさしだす。

 唯は黒髪をおさえながらそれを口にする。

 三個ほど口にしたところで、ふきんで口をふきつつ、ごめんなさい、と言った。

「もうすぐお夕食なので、あまり食べられないんです。よろしければ、兄さんいかがですか?」

 尊が握っていたフォークを持つと、口元にさしだす。

 残念そうな顔をする尊だが、

「そういうことなら仕方がない。ありがたくいただくよ」

 笑顔でリンゴを咀嚼し、

「うん。とてもおいしいよ、唯」

 にこりと笑って見せる。

 まるで夢見心地のような、至福の時を過ごしていた尊だが、

「うわ、相変わらずキモいわね、あんた」

 背後から聞こえてきた声によって、一気に現実へと引きもどされた。

「……吹き出物め。貴様、いったいどこから湧いて出た?」

 さきほどまでの甘い声から一転、不機嫌さを隠そうともしない、聞きようによっては傲慢ともいえる声で尊は言った。

「ずいぶんないいようね。まったく……」

 思わず諦めたような声になる。もはやため息すら出なかった。

「こんばんは、律子さん」

 兄の無礼を詫びるかのように、唯が声をかけた。

「お仕事のほうは大丈夫なんですか? 最近、大変みたいですけれど……」

「すべてコイツの不手際だよ。律子が無能なのが悪いんだ。唯はなにも心配しなくていい」

「あんたちょっと黙ってて」

 ジロリと尊をにらむと、唯に優しく微笑みかける。

「たしかに最近、いろいろあったけど……でも、大丈夫よ。心配しないで」

「俺のおかげでな」

「はいはい、どうもありがとう」

 たしかに、さきほど尊が提案した『一時的な打開策』は、即興で考えたにしてはなかなか優秀な案だし、すでに官房室にも伝えてあるが、こうも恩着せがましく言われると腹が立つ。

「律子さん、兄さんの学校での様子はどうですか? ちゃんと溶け込めているか心配で……」

 母親のような心配をする唯。

 尊の性格は唯も知っている。とぼけてもムダだと思った律子は、素直に答えることにした。

「ま、溶け込んでいるとはいいがたいかな。なにせ性根がねじ曲がってるんだもの」

「当然だ。なぜ俺が、連中に合わせてやらねばならん。俺の生きかた、己の道は己で決める」

「いいわね、そんな生き方ができて。私もしてみたいわ」

「ならすればいいだろう」

 やはりというか、この程度の皮肉はこの少年にはつうじない。

「言ってもムダだと思うから、もうあまり言わないけどね、さっきの態度は度が過ぎると思うわよ」

 自分の居場所、家族同然の存在を失ったばかりの少女に対して、尊の態度は不謹慎すぎた。

「やつがなにか言いたそうな顔をしていたから訊いただけだ。それに、俺はああいうやつが嫌いでね」

「だからって、あそこまで言わなくてもいいでしょ!」

「そう怒るな。あまり怒ると小じわが増えるぞ。朝から言おうとしていたんだが、目元に新しいのができているしな。これ以上老けてどうする」

「えっ」

 と短く声をあげると、わざわざ洗面所まで行って鏡で確認してくる。

「ウソでしょ……まだ二十八なのに……」

 信じられないと言った様子でうなだれる律子。

 たいして、尊はもうそんなことなどどうでもいいとばかりに言う。

「そんなことより、貴様いつまでここにいるつもりだ? さっきの女からは、話を訊き終えたのか?」

「……ひと通りはね。まだ気持ちが落ちついていないだろうから、全部ではないけど」

「フン、ならばさっさと出ていけ。俺は忙しいんだ」

 口元を緩ませながら、唯にリンゴを食べさせてもらっているその姿は、どこからどう見ても忙しそうには見えない。

 相変わらずだなと律子は思う。この少年はここに来るといつもこうだ。キモいとは思うものの、尊が心からの笑顔を見せるのは、唯に対してだけだ。

 唯一の、たった二人きりの兄妹の団欒を邪魔するのも忍びない。

 少々癪だが、ここは尊の言うとおり引き下がることにした。

「分かったわ。帰るわよ。またね、唯ちゃん」

「はい、また。わざわざありがとうございました」

 ぺこりと頭をさげると、首から下がっているロケットが小さく揺れる。

「尊、明日こそはなにも問題を起こさないようにね。唯ちゃんに心配かけないように、大人しくしててちょうだい」

 この釘をもう何度打ちこんだが、分かったものではない。

 もっとも、当事者たる少年は律子のことなど見ていないわけだが。

 律子が退室しても、それに気づいた様子すらない。彼はいま、唯との時間を過ごすのに夢中なのだ。

 そんな兄の様子を見て、唯はクスリと笑う。

「もう、兄さん、あんまり食べるとお腹いっぱいになっちゃいますよ?」

「大丈夫だよ。唯が作ってくれたものは別腹なんだ」

 唯は農家の娘などではないし、切ったのは自分自身のはずだが。

「でも、お家では律子さんがお夕食を作ってくれていると思いますよ?」

 尊が一人暮らしを始めてからというもの、なにかと律子が世話を焼いている。

 それは彼女の姉御肌がなせるわざであり、それゆえにしなくてもいい苦労をするハメになっている。さきほどの小じわも、間違いなくこの少年のせいでできたものだろう。

「べつに構わないよ。そんなものより、唯が食べさせてくれるリンゴのほうがずっとおいしいからね」

 この言葉を律子が聞けば、また小じわを増やすに違いない。

「ところで」

 と尊は唯の髪を優しくなでる。

「なにか欲しいものはないかい? 足りないものがあったら、なんでも言ってくれ」

 唯はすこしくすぐったそうにしながら、

「大丈夫です。いつもいろいろなものを買っていただいていますし、よく連絡もくださるので、退屈もしていませんから」

 でも兄さん、と唯はすこし怒ったように言った。

「せっかく、律子さんがいらしているのに、携帯電話ばかりいじっていては失礼ですよ」

「いいんだよ。律子よりも、唯と過ごす時間のほうが大切だ」

 大まじめに言う尊は、今朝スマートフォンで唯とやり取りをしていた際、律子が「ニヤニヤしていて気持ちが悪いので話しかけたくない」と思ったことを知る由もない。

 もっとも、知ったところで、だからどうした、としか言わないので始末におえないのだが。

 ベッドの隣にある小さなたんすの引き出しからブラシを取りだすと、

「唯、きれいな髪が痛んでは大変だ」

 コクリとうなづくと、唯は尊に体を預けるかのように目を閉じる。

 ブラッシングは、もう何年もまえから尊の日課になっている。ひざ裏まで伸びた長くつややかな黒髪はもう何年も切っていない。

 こうしていることが、尊にとって唯一にして最上の楽しみとなっていた。

 自分たちには親がいない。

 だから決めたのだ。自分が唯の父親になると。

 そのためにやることは、いままでも、これからも変わらない。

 命よりも大切な妹のために、戦い続けるだけだ。


 十五年前、とあるウイルスが蔓延したことにより、人々の暮らしは一変した。

 しかし、目に見えて変わったのは『危険区域』と呼ばれる場所で過ごす人々だけだ。

 五年前、『危険区域』で生活していた尊もまた、そのなかの一人であった。

 ウイルス蔓延によって誕生した怪物、『フレイアX』。それが跋扈する、常に危険と隣り合わせの場所。そこで生きていくため、唯を守るため、来る日も来る日も“敵”と戦う毎日。それが、柊尊の“日常”だった。

 あの日もまた、そんな“日常”を過ごしていた。

 襲い来る『フレイアX』から逃げ回り、撒けたと思った。

 ほんの一瞬、気を抜いた瞬間、それを見計らったかのように、じつに十体の『フレイアX』が、死体に群がるハイエナのように、尊と唯を取り囲んだ。

 狩る側と狩られる側、どちらがどちらなのか、傍目には火を見るより明らかだった。

 まるで、なにかに怯えているかのようにうなり声をあげ、『フレイアX』が飛びかかってくる。

 そして――。


 ぱちりと目を開けると、見なれた天井があった。

 どうやら夢を見ていたらしい。五年前の夢はいまでもたまに見ていたが、二日連続で見てしまったのは、やはりあの少女が関係しているのだろうか。

 昨日律子に言ったとおり、尊はあの少女が嫌いだ。

 だからこそ、あの夢を見てしまったのだろう。

 むくりと上体を起こすと、昨日とおなじようにすべきことをして、リビングへ向かう。ドアを開けたとたん、朝食のシャケの匂いが鼻孔をくすぐる。

「あら、めずらしい。今日は自分で起きたのね」

 いつもどおり、『騎士団』の団服にエプロンという奇妙な格好で朝食をつくっていた律子が、ツチノコでも見つけたかのような顔をつくる。

 低血圧である尊は、朝が弱い。たいてい、律子がしつこく体をゆすり、止めの一撃を加えることでようやく目を覚ますのだが、こうして一人で起きてくることはめったにない。

 律子には取り合わず、フンと鼻をならすと、テレビを一瞥する。

 ニュースでは、昨日尊が提案した『一時的な打開策』が報道されていた。

「どうやら、首尾は上々のようだな」

「ええ、おかげ様でね」

 律子は皮肉っぽく返すも、尊は特に気にした様子はない。

 昨日、尊が考案した策とは、『フレイアX』が侵入した一連の事件を、警保局が行った『限りなく本物に近い避難訓練、及び、騎士団の実戦訓練』とするものだった。

 昨今、”『騎士団』の活躍”により『フレイアX』への警戒心が薄れていると思われる『安全地帯』の住民に、今一度『フレイアX』の存在を認識してもらい、『騎士団』という”栄誉ある仕事”のアピール、というのが、その理由だった。

 侵入した『フレイアX』は、中央省が『ダークマター』で造った『限りなく本物に近いフレイアX』ということになっている。

 そういった実験――『ダークマター』をさらなる軍事利用はできないか――が行われているのは事実な為、完全な嘘ともいえないのだが。

 死者、けが人が一切出ていないという奇跡ともいえる状況が、この理屈に説得力を持たせていた。

 もっとも、

「栄誉云々は言った覚えはないがな」

 と肩をすくめて律子を見る。

「そういう下心もあったほうが、よりリアルでしょ? じっさい、宣伝にもなると思うしね」

 そう言って、切れ長の瞳をいたずらっぽく細める。

 結果として、騒ぎは沈静化したものの、尊が最初に言ったとおり、これは一時的なものだ。『安全地帯』の住民たちは、いずれこれが嘘であることに気づくだろう。

 なぜなら――。

「三度も侵入され、あれだけ暴れたにもかかわらず、死人はおろか、けが人すら出ていないのは、どう考えても不自然だ。これをすべて『訓練』と言い張るのは簡単だが、すこしでも勘の働くやつならば、すぐにでも気づく。こんなくだらん訓練を、三度も行う必要はない、とな」

 尊はイスに腰かけ、なんでもないことのように言った。

 ――『安全地帯』は高い城壁に囲まれ、二十四時間体制で『騎士団』が門番を勤め、侵入者を固く阻んでいる。

 三度にわたる侵入で、城壁が壊されたことはない。一度目は、要人用に作られた避難経路を通った形跡が見つかっている。

 二度目はそこにも監視を置いた。にもかかわらず侵入を許した。では、その監視が、たまたま全員内通者だったのか? 万が一の可能性を考え、それ以降は監視を全員替え、また、同じメンバーにならないよう、いくつものグループを作った。甲斐なく、侵入を許してしまった。

 侵入した『フレイアX』は、いずれも突如として出現した。地下に潜んでいる可能性も考え、下水道なども徹底的に調査した。だが、発見することはできなかった。

 では……

「連中はどこから侵入したのか、目下の論点はこれだろう。一部の人間しか知らない……例えば、緊急用の避難経路などを通ったか……だが、そこにも見張りはいた。加えて、知性のない獣が、秘密の通路を通り適度に騒ぎを起こす、などということができるはずがない。裏で糸を引いている者がいるのは明らかだな」

「たしかに、あんたの言うとおり、この事件を引き起こした黒幕は……いるでしょうね。考えたくはないけれど、中央省か、あるいは『騎士団』内に……」

「つまり、俺も貴様も容疑者というわけだ」

 吐きすてるかのように言ったあと、つまらなそうに、フンと鼻をならす。

「もっとも、俺はそんな内輪もめに興味はない。せいぜい騒ぎが沈静化している間に、探偵ごっこに勤しんで、犯人を吊るし上げるんだな」

「そんな他人事ですめばいいけどね」

 ポツリと独り言のように言う律子。

 しかし、尊はそれを聞き逃さなかった。

「なに? どういう意味だ、まさかまた面倒事を持ち込む気じゃないだろうな?」

「さあ、どうかしら」

「俺はおまえたちの尻拭いをするためにいるんじゃないんだ。これ以上、くだらんことで唯との時間が減るなど冗談じゃない」

「安心して。くだらないことではないと思うわ」

「なに?」

「ま、放課後を楽しみに待っておいてちょうだい。あと、冷めるからはやく食べて」

 尊は怪訝そうな顔で、生ぬるくなった味噌汁をすするのだった。


 騎士団養成学園が中世の城のような造りになっているのには、三つの理由がある。

 一つ目は、学園長の趣味。

 二つ目は、興味を引く見た目にすることで、入学希望者を募るため。

 そして三つ目は、大仰な見た目にすることで、この『安全地帯』における『騎士団』の存在意義と、利権の大きさを分かりやすくするためだ。

『騎士団』には大きな権限が与えられているが、その分、メンバーにはその名を背負うに足る、知性、高潔さが求められる。

 というのが、中央省が作りたがっている『騎士団』のイメージだ。

 にもかかわらず――。

「おい、あの話きいたか?」「ああ、『フレイアX』侵入事件のやつだろ?」「あれ中央省がやった訓練だったんだってな!」「私すっかり騙されちゃった」「私も」

 士官候補生たちは、今朝のニュースで報道されたことを、事実としていとも簡単に受け入れていた。見せかけの情報にまんまと踊らされている候補生たちを横目に見ながら、尊はどうでもよさそうに鼻をならす。

 騎士団養成学園は、その内部も中世の城を思わせる洋装になっている。廊下に敷かれた赤絨毯、ところどころに置かれた上品な絵画と調度品。

 これらもすべて、学園長の趣味によるものだ。

 自分のクラスに入って席に座る。クラスメイトたちは会話に興じているが、尊はもちろんその輪に入ることはない。足を組むと静かに目をつむる。なんともムダな時間だ、と思う。こんなことをしているひまがあるなら、唯と一緒に過ごしたいものだ。

「柊ッ‼」

 突然名前を呼ばれ、面倒そうに瞼を開ける。

 目のまえに、一人の女子生徒が立っていた。

 背筋がピンと伸びた、凛とした印象を受ける少女だ。

「だれだ貴様」

「っ! 華京院凛香だ! 昨日名乗っただろう!」

「……で、なんの用だ?」

「私と決闘しろ!」

「なに?」

「私と決闘しろと言ったのだ! もう、昨日のような不覚はとらん!」

 血気盛んに息巻く凛香に、尊は冷めた視線をむける。

「断る。何度やってもおなじこと。時間のムダだ」

 そう言ってもう一度目をふせる尊。

 凛香は威圧するように、バンと両手で机をたたいた。

「バカにするなッ! つぎは……つぎは私が勝つ!」

「あれほど力の差を見せつけてやっても、吠えることができる図太さは褒めてやる。だが、言ったはずだ。時間のムダだとな」

「そんなこと、やってみなければ分からないだろう!」

「やらずとも分かる。なぜなら、俺より優れた人間など存在しないからだ」

「この……!」

「はい、そこまで」

 凛香がさらに食い下がろうとしたところで、二人は頭を叩かれた。

「いっ……!」

 凛香は頭をおさえ、

「貴様、いったいなんの真似だ」

 尊は不愉快そうな視線をむける。

 そこには、『騎士団』副団長であり、騎士団養成学園実技最高責任者を務める鬼柳律子が立っていた。

「それはこちらのセリフです。いったい、なにをしてるのかしら」

「俺は被害者だ。この女にからまれていたんだからな」

 俺は悪くないとでも言いたげに、尊はふんぞり返っている。

 逆に凛香は、バツが悪そうに目をそらす。

「華京院さん、あなたの声廊下まで聞こえてたわよ? 分かってると思うけど、生徒同士の私闘は禁止だからね」

 律子の諭すような口調に、凛香はうつむきがちに答えた。

「……はい。申しわけありません」

「よろしい。じゃあ、席について。HRをはじめます」

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