第二部 プロローグ
――それは、いつかの記憶。
きらびやかな空間で、私はきれいに着飾った女性たちと、騎士のような恰好をした男性に囲まれていた。
私が座っているのは、ほかの人たちがいるところよりも、数段高いところに置かれている豪華な装飾がされたイス。たぶん、これは玉座だ。ということは、ここはどこかの王宮だろうか。
騎士の格好をした男性が恭しく一礼すると、私の顔を覆っていたヴェールをゆっくりとめくりあげる。
とても優しい顔だった。初めて見る顔だったが、心から信頼できるような、私のことを想ってくれているような、変な確信がある。
「お顔を」
そう言われ、どういう意味か分からなかったのに、顔を動かして下をむくことができた。
頭にとてもきれいな、金の装飾が施された王冠がかぶせられ、男性は私の手の甲にそっとキスをした。
待ちかねたように、広間は拍手に包まれた。
そのときの私は笑っていたように思う。
ただ、その笑いが、作られた、偽物の笑顔であることも、分かっていた。
アレは夢だったのだろうか。
いまとなっては分からない。
ただ、あのとき見た光景は、いまも鮮明に思い出すことのできるものだ。




