はじめての隠密
能力「忍者」を発動する。
使おうと意識すれば自然と力が強化する事は実証済みだ。
前に剣術士を発動しながら、NAGINATAを振るったら、三段払いや薙ぎ払い、スラッシュなどが面白いほど決まった。
どうやるのか「ダンデライオン」の剣士のバーンに聞かれたので教えてあげたらめちゃくちゃ喜ばれた。
私からの依頼が『レベルあげ』だった為、後半は魔物に手心をかけるのに苦心していたくらいだ。
どうやら反復練習したり師匠について学んだりするとスキルは習得しやすいらしい、
まぁあっちの世界でもそれは一緒だけど。
スキルポイントの操作。能力の万能性、はっきり言って召喚された勇者はこの世界では反則といえる存在だ。
そんな勇者の能力をただの飯屋の看板娘が持っても普通は持てあますだけだ。
でも、ゲームの知識がある私なら、その力を利用できる。
有効にだ。
ぜったい!ぜったい!ぜったい。私の家族に手出しはさせない!
それが国単位であろうと、例え魔王であろうと。
私の家族を害そうだなんて、誰が考えたか知らないけど、絶対に許さないんだから。
絶対後悔させてやる。
王都までレオと一緒に走り抜ける。
『忍者』のスキル俊足に『魔法使い』のスキルの肉体強化、二つを重ねがけをしている。
ここまで来るまでも、普通の旅人だったら避ける道なき道を難なく走破できた。
これは勇者の力でこの世界では反則だ
私はそのことを絶対に忘れない。
日が暮れるのを待って王都に忍び込む。スキル:潜入の発動だ。
発動して思ったけど、これって忍者とか隠密が活躍し放題なんじゃない?
そういう目で見ると自分の国の王都がやけに脆弱に見える。
「今までそういう目で警備を考えた人があまりいなかったのかもしれない」
マップを見ると王城の中にも敵の光点が見える。
「…この国、…本編より3年も前から侵略されてるじゃん。こっちも何とかしないと。てか私にそんな手段はないけれど。しっかりしてくださいよ。この国の偉い人」
私の目的は、この国の王都に私がいると敵に思わせて、カモメ亭までその手がのびるのを阻止すること。
私の行方を割り出してきた手腕から行って、相手を侮らない方がいい。
相当の組織力と統率力を持ったバックボーンがあるはずだ。
てか隣国なんですけどね!
「違うか。魔物の脅威に対応するだけで精いっぱいって事なんだ」
後発の「魔物討伐隊」の壮行会で賑わう町を見て、考えを変える。
今回は将軍閣下が王子殿下と出陣された。
この国の守護神であり最高警備担当者だ。
「鬼のいない間に、そりゃ間者も暗躍するってものね」
さて、たくさんの敵に私の姿を目撃してもらわないと。
「レオ、行くわよ」
レオには、人型で私を守る第三勢力の手のものを演じてもらう。
「せいぜい疑心暗鬼になって踊って」
私は光点が3つほど集まっているところへ足を踏み出した。
姉の持ち物の中から、町娘は絶対着ないようなドレスを引き出してきて着ている。
ちょっと胸は盛ったけど赦して欲しい。
さて、ここで目立つ騒ぎを起こして…とそう力んでいたんだけど。
「くそっ!!!手練れだ!!」
「若様を守れ!!」
すでに騒ぎの只中でした。
馬車が路地に追い詰められていて、いかにもって感じのあやしい黒服の奴らが3人、貴族の坊ちゃんを襲撃している最中でした。
3つの光点はこいつらの事だったみたい。
「ジュニア???」
さらにびっくりしたのは襲われていたのが男爵ジュニアと知らない貴族のお嬢様だった事。
「くそっ新手か!!?」
男爵家の護衛騎士達が私達を見て気色ばむ。
「いいえ?『敵』ではないわ。助太刀します」
私は装備の『扇子』を出す。
「さぁ踊りなさい」
ちょっと恥ずかしいけど、『平凡な飯屋の看板娘』である私とは別人を演出するために考えたキャラ立ちだ。今度、スキルを取ったら『踊り子』のスキルを取ろう。うんそうしよう。
いや、相手を躍らせたいのだから『楽師』だろうか。
私の扇子は盾でもあり、飛び道具でもある。王都の知る人ぞ知るという伝説のドワーフが亡き親友の錬金術士と共に作った逸品だ。
勇者の仲間になる「高飛車令嬢」に装備させると凄い威力を発揮するというアイテムである。
今さら思ったんだけどこのドワーフの親友の錬金術士ってレオにポチリンヌという名前をつけた元の主人じゃなかろうか。
そう、その最強の人物がタッグを組んで作ったこの武器の威力はいっそ卑怯です。中世風の『剣と魔法の世界』に飛び道具。
さすが、高飛車高慢令嬢。ルール違反上等!
まぁたしかに魔法が『飛び道具』と言えるのかもしれないけど。
『剣と魔法の世界』に銃器!
3年後に出てくるんだよなぁ。
今は14歳くらいのはず。男爵ジュニアと同じくらいの年齢だろう。
扇子を閉じた状態での発砲。扇子を開いた状態で盾。攻守ともにソツなくこなす憎い奴です。
「お前は…」
「しっ!黙って」
まぁこいつの威力が通用するのは第二エリアまで、ですね。
せまいダンジョンの中でこいつはフレンドリーファイヤいたします。使えないの。
跳弾って怖いんだよ。ぶるぶる。
「………」
レオは基本しゃべりません。苦手なので!話すのが。
でも、華麗な剣捌きで暗殺者達を屠っていく。
『ダンデライオン』の皆さまの戦い方と私のスキルを完璧に模倣しています。
けっこうそういうの、好きなようです。
前の主人のボディガードもしていたらしいので対人戦も大丈夫なようです。
気が付くとマップに第4の光点がけっこうな速さで接近していました。
「っつ!増援?」
私が第4の光点にむけて扇子の照準をむけた瞬間。
私達にむけて何かが投げ込まれました。
ちなみに第1~3までの光点、いやジュニア達を襲っていた敵の暗殺者はすでに無力化しています。
ピカッ!!
目もくらむような光がはなたれ、どぉぉぉーんという音、そして煙があたりに立ち込めました。
「くっ目つぶしに煙幕か」
それいいな。今度どこかで手にいれよう。
レオがジュニアを、ご令嬢を私が背負って、その場を離れました。
男爵家の護衛騎士もそれに続きます。
マップの光点がどんどん集まってきます。
私はマップを見ながら光点のない方へ光点のない方へと路地を逃げていきました。
お荷物をしょってでの遭遇戦は想定していませんでした。
さすが、相手は敵国の手練れのようです。早く安心な男爵家へ戻りたいのですけど、なんかうまく遠ざけられていくような気がします。
うーん。私の忍びのレベルがまだ低いって事?
さすがに人を背負った状態では「肉体強化」をかけていても長時間の酷使は疲労を呼びます。
それは護衛の騎士達も同じようでお嬢様を交代で担いでもらうが、息があらい。
「さすがに…ちょっとまずいかしら」
私達は息を整えるために建物の影に身をひそめた。
私達のいる通りの向こうではまだ壮行会のにぎわいが続いている。
ちょっとの距離なのにすごく遠く感じられた。
そんな時に私の手をひくものが現れた。
「こっち」
敵を示す光点ばかりに集中していたので、傍に寄られて手を取られるまで、私は気がつかなかった。