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モバイルバッテリー

作者: へんさ34

学生において「忘れ物」とは、人との親密度が測られるイベントである。


八口宗谷は教室で呻いていた。

「充電が…ない…」

画面には、残り5%と表示されている。理由は至って簡単、ゲームのやり過ぎだ。いつもならモバイルバッテリーを持っているのだが、今日に限ってバッグに入っていなかった。

弱々しい声で向かいでゲームしている友人に聞いてみる。

「広司、モバイルバッテリーかしてくれないか…?」

広司と呼ばれた男子は、画面から顔を上げずに応じる。

「いいけど、お前機種違うから使えないだろ。」

「あ。」

「この教室でお前と同じ機種使ってるやつ、珍しいんじゃないか?」

「うう…」

「まぁ、色んな人に聞いてみるんだな。」

隣で本を読む友人に聞く。

「優斗、モバイルバッテリーを貸し…

「悪い、今使ってる。」

食い気味に返事がくる。

「そんなぁ…」


その後教室中をあたってみたが、皆持っていないか使用中だった。

「くぅ…今日は乙女座3位だったのに…」

テレビの占いに恨み言をいう。

「筋違いもいいところだな。」

優斗からの鋭い突っ込み。うなだれるしかない。

「それに、その占いはあながち間違いじゃないとおもうぞ。」

「え?」

優斗の含みのあるセリフ。

「そういや、あいつ持ってるんじゃないか?」

そういうと、広司は教室の隅でノートに何やら書き込んでいる女子を指した。

「いや、でもあいつは…」

彼女、串田さんは、宗谷が苦手としている人だった。以前はよくゲームの話をしていたのだが、いつからか、目を合わせるのが恥ずかしくなり、変に意識してしまうようになっていた。

「仕方ない…聞いてみるか…」

――――――――――――――――――――――――――――――――

「串田さん。」

名前を呼ばれ、顔をあげる。

「な、何?八口くん。」

少し声がうわずってしまっただろうか。前はよく話していたのに、最近は何となく恥ずかしくてあまり話していなかった。

「あのさ、モバイルバッテリー…かしてくれない?」

「いいよ。」

なんだそんなことか、と落胆した自分に驚く。なら、私は彼と何が話したいのだろう。

モバイルバッテリーを手渡す。

「串田さんさ、あの…マリスマ5買った?」

「あぁ、買ったよ。八口くんも買ったの?」

八口くんの顔が明るくなる。彼はわかりやすくてかわいい。

「うん!それでさ荒野ステージの…」


――――――――――――――――――――――――――――――――

「宗谷と串田、 上手くいったみたいだ。」

廊下でガッツポーズをする二つの影。広司と優斗である。

「あいつら、どう考えても両想いだもんな。」

「二人の幸せのために、必要なことだ。」

二人は、訳知り顔でうんうん、とうなずく。

真実はこうだ。広司と優斗がバッテリーを隠し、串田に借りさせることで会話の糸口とする。

「クラス中に、宗谷にバッテリー貸さないでくれって頼んだ俺らを褒めて欲しいものだね、まったく。」

「まぁいいじゃんよ、優斗。あいつらあんなに楽しそうだぜ。」

「最近、妙に意識しあって話してなかったもんな。」

「おまけに自覚なしときた。」

「ところで広司くん、このモバイルバッテリー、どうします?」

優斗がおどけた口調でたずねる。

「リア充ウザいし、ちょっとからかってやるか。」

「ほう。具体的にどうするので?」

「串田のバッグに突っ込む。」

ニヤリとする二人。一揉め起きそうな予感である。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 周りの目線なんて気にしないで!2人の仲が深まってほしい! [一言] やっぱり何かのきっかけでお互いの関係って深まっていくものなのですね!一揉め起きそうなのはちょっと怖いですが…どうか負けず…
[一言]  友達優しい!甘酸っぱい青春ですね!小さなキッカケから始まるのって素敵だと思います。  宗谷君と串田さん、良い関係になれますように……。
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