酒場のアイドルリーゼ
組合ズーハーでの一件が終わり、数日が経った頃。
酒場グリッツェンは、リーゼのパンツで得た報酬により、経営の軌道修正に成功した。
グリッツェンは今日も大盛況である。
リーゼも汗水流しながら、給仕としての役目を全うしていた。
「ねえリーゼ、五番テーブルに持っていくの代わってくれない?」
お人好しのリーゼは、給仕の女の子に頼まれて断りきれず、彼女の分まで配膳を受け持った。
本音を言うと、リーゼも五番テーブルにいる客を好ましく思っていないのだが、リーゼにしかできない接客でもあった。
五番テーブルに向かうと、すっかりグリッツェンではお馴染みとなった五人の客が、品のない笑みで、リーゼに意味深な視線を送る。
「ご注文お伺いします」
注文票と羽ペンを手に持ったまま、応対した。
「リーゼたんマジ天使!」
「世界一可愛いよ!」
五人は、注文をしようとはせず、リーゼのことをただただ褒め称える。
その五人とは言わずもがな、組合ズーハーの面々である。
「あの~、ご注文は……」
埒が明かないまま困り果ててしまうリーゼ。
この光景も今ではグリッツェンの名物と化していた。
また別の日のある時。
カールはリーゼにこんなことを質問された。
「あの~、お聞きしたいことがあるのですが?」
無垢な表情で上目遣いに彼女はこちらを見てきた。
リーゼがここに来て間もない頃は、彼女からたくさん質問を受けたものだ。
懐かしさに目を細めながら、「なんだい?」とカールが応えると、
「男の娘って、一体何ですかねぇ~?」
「おうふっ」
カールは動揺を隠せないまま、視線を泳がす。
返答に窮しながらも、どうにか突破口を探す。
「そ、そうだな……俺もよくは知らない……かな?」
「そうですか。カールさんもご存知ないですか。私のファンを名乗る五人のお客様が言っていらしたので、世間に精通しているカールさんなら知ってるかと思ったのですが」
一旦は切り抜けることに成功したカールだったが、リーゼ自身に伝わる日もそう遠い日ではないようだ。