パンツ×パンツ
時間になり、グリッツェンを開店させた。
雨天時の客入りは晴れの日より心許ない。
カールがカウンターにいると、来店してきた客が、カールの目の前の席に座ってきた。
「やあ、また来たよ旦那」
「あなたはこの間の……」
美しい女性のパンツを買い取ってくれる情報を提供した、商人風の青年だ。
「例の組合にはもう行ったかい?」
「いえ、どうにも当てがなくて」
当てというのはもちろんパンツのことだ。本当はすでに実行済みなのだが。
「まあ確かに、盗むのも一苦労だし、ご麗人自体お目にかかれない」
青年は、客入りの少ない店内を見回し、リーゼの姿を目で捉える。
「あの子なんて上玉じゃないか。きっと例の組合に持っていけば、これくらいは下らないね」
ジャラジャラ音を鳴らして懐を探る。手のひらを埋め尽くす金貨を束にすると、カウンターテーブルにタワーを作った。
「こ、こんなにもらえるのか」
一週間分の売上くらいあるぞ。
「ふふ、興味が出てきたかい? 旦那。旦那の立場なら盗むのも容易いんじゃない?」
青年は、カールの心中を見透かしたような薄笑いをした。
営業時間を終え、店内の清掃が片づくと、リーゼを含め給仕や調理人は帰宅した。
残ったのは弟であるフランツ。フランツは、カールに話しかけた。
「そういえば兄さん、アタシのパンツ知らない?」
「知るわけねーだろ。おちょくってんなら殴るぞ」
淡々と返答したカールだったが、内心動揺していた。リーゼにバレてなかったので、油断していた。
「おかしいわね……二枚もなくなってるのよ。タンスにあるのと、洗ったばかりの。さっき見たら洗濯籠は空だったわ」
二枚ねえ。
一枚はタンスの中から奪ったリーゼが履いている奴だろう。もう一枚の手がかりなんて――
――ないと確信する直前に、最悪の想像をしてしまう。
さっき浴室にあった籠。あれは洗濯籠としても活用している。
もしや、同じ種類のパンツを二人が履いていて、置きっ放しにしてあったフランツのパンツの上からリーゼが衣類を置いたせいで、二つが混ざったのか。
と、言葉にしてみると複雑怪奇で、そんな偶然あり得るとは到底思えない。
一方で、二枚のパンツが籠にあった理由を説明する手立てや情報も、他にない。
カールは、盗んだことを怪しまれないよう、慎重な言葉選びで探りを入れてみる。
「もしかしたら俺のやつと混ざった可能性もあるから、一応後で確認しておいてやる。ちなみにどんな見た目なんだ?」
「タンスにあった方は黄色の無地よ。もう一つも色合いは似ているのだけれど、小さいリボンが飾り付けされているわ」
カールは、ガクッと崩れそうになるのをどうにか持ちこたえる。
盗んだ二枚のパンツと特徴が一致したことにより、あのパンツのどちらか一方はフランツの物である可能性が大いに高まった。消去法でもう一方はリーゼの物だろう。結局のところ最初の考察に回帰したわけだ。
フランツとの会話を切り上げたカールは、自室へと向かう。
チェストに隠してあった同種のパンツを両手に掲げ、見比べる。
「片や天国、片や地獄。こんな危ない橋渡りたくないないな」
オカマのパンツを組合に持って行ったりなんかしたら、一体どうなるんだろうか。
それに今更だが、パンツ単体で、どうやって美女の物かどうか判断するのか。本人を連れて行かないのなら、いくらでもごまかしが効いてしまう。
やはりもう一度あの商人に詳しい話を聞こう。
カールはそう考え、二枚のパンツをチェストに仕舞い込んだ。
一度は罪悪感に胸を痛めたカール。しかし今や大金への期待感で頭を埋め尽くしており、リーゼに対する反省など、忘却の彼方だった。
商人風の青年が再びグリッツェンに顔を出した際、組合について仔細に質問した。酒を対価として支払うと、快く話してくれた。
彼によると――
組合の正式名称は、ズーハー。五人の役員を中心に、頻繁に会合が開かれている。場所は自由交易都市ミステルの近隣にある姉妹都市グラナト。
組合の役員である五人は、全員異なる種族で構成されている。鳥人族、竜人族、水人族、人族の四人と、リーダー格である魔人族。
リーダー格の魔人族は魔術を使いこなす。その魔術を利用すれば、パンツの使用者を特定することができる。そのため、彼らを欺くことは不可能なようだ。
そして、もし仮に男のパンツを持って行った場合…………世にも恐ろしい報復が待っているらしい。
その話を聞いた日の夜。営業時間を終え自室にいたカールは、真剣な面持ちで二枚のパンツを見比べていた。
「オカマの履いたパンツなんて持って行った日には即死どころか、末代まで祟られそうだ。子供いないけど」
文字通りの命懸け。二分の一で死が待っているとなると、釣り合わない気もする。
どこかにリーゼが履いていた形跡は残されていないだろうか。あるいはフランツの物と判別できれば……
いろんな角度からパンツを凝視していたカールは、不意に何かを発見をする。
「あれ……ここに窪みがある」
視線をパンツと平行にして片眼を瞑ると、股間部分だけわずかに浮き出ているのがわかる。
「もしやこの窪みは、フランツのアレが収納されていた証拠では!?」
本人を特定する決定的な証拠に、高揚感が湧き上がってきた。
片方のパンツの所有者が確信したところで、窪みのあるパンツは即刻ゴミ箱に投擲。
よもや大金と同価値であるリーゼのパンツを手に持ち、チェストに向かう。箱を開けて中に仕舞い込む前に、念のため窪みをチェックした。
「あれ……? こっちじゃなかったっけ」
嫌な汗が額に滲み出てくる。
急いでゴミ箱に捨ててあるパンツを取り戻し、窪みを見る。
「おかしい。なぜ二枚とももっこりしてるんだよ」
さっきまで舞い上がっていたのがあほらしい。結局振り出しに戻ったということか。
カールはガックリと落胆した。




