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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
路傍の欠片-The game is afoot-
97/346

A.人目も憚らず街中で騒ぐから



『いやぁ傑作じゃったな。"恋に生きる為に家を捨てた!恋に恋するのだ!私は!"』

「黙っていろ!それもこれも貴様が頭の中で喚き散らすからではないか!」


くそ!いつもこうだ。

何か思考を巡らせようとすると頭の中を縦横無尽に憎き狐が『テンコじゃ』テンコが囃し立てる。

『鈴の音の様に品の有る音じゃ』

何が鈴だ。先程の店主の顔を見たか。

『引き攣っておったな』

「何もかも貴様のせいだ、全く……」


2度とあの店には行けないが、まぁいい。

先程のダイナーで集金は終わり。行きよりも嵩張る荷物を両手に抱え、一番街を目指す。


『しかし、簡単じゃったのう』

「楽に越したことは無い」

『そういう意味では無い』


全部で41軒。途中無駄に時間を取られたものの全て回るのに4時間も掛からなかった。

そんな最中、暇を持て余したテンコが頭の中で疑問を投げる。


『"自警団"の件での』

「何が気に食わん」


三番街の南端から、北へ。

今朝思った通り、陽の登りきったこの時間は日差しがキツい。全身から染み出す汗の感触に眉を顰めながら、足を止めずに通りを抜ける。


『ベレンツにおいて、彼奴らの持つ力というのがここまで絶対的じゃとはのぅ。ククク、何処ぞの"阿呆連中"と見紛うてしまうわい』


本日回った41軒、そこで出会った全ての人間が"カフゥの遣い"という文言だけで金を差し出した。疑う素振り等欠片も無く、だ。

ベレンツの民が皆往々に平和ボケしているという訳でも無いだろう。コリエタとの小競り合い、昨年起こった鳥人族の殺害事件。日夜その様な事がありながら、あの反応だ。

自衛の意識に欠けている様に思えないでもない、か。


『そうそう、そこの辺りじゃ』

「街の人間で組織しているんだ。支持があって当然と言うものだろう。何しろそういったものが無ければ上には立てない」

『そうかそうか、"ピヴワーヌ"』

「…………ふむ」

『この集金を、自警団の。それこそあの娘が行ったとあれば、今日回った者達の反応も頷ける。じゃが今日集金の仕事を請け負って店を訪れたのは、顔も名前もよく知らん女。訝しむ素振りなんてこれっぽっちも無かったではないか』


加えて、と。

テンコはそのまま言葉を続ける。

自警団の詰所までは、あと1時間弱といった所か。


『元々どうじゃったかは知らんが、ベレンツの民の目は内側にしか向いておらん筈じゃ。"にも関わらず"、じゃからのぅ』

「どういう意味だ」

『いくらここが"ベレンツだ"と声を上げようとも、それが"コリエタ国ベレンツ"である事に変わりは無い。ぬしが額に汗して集めた金は、何に使うんじゃったか』

「収穫祭の……ふむ成程」


どうしてそうまで遠回りを好むのかは置いておくとして、テンコの言はこうだ。

ベレンツ民は、先のコリエタとの騒動をよく思っている節は無い。それは、カフゥや街の人間の言葉を聞くに明らかであり、加えて先に控えた収穫祭。その運営費までをベレンツの人間だけで賄おうとしている。

ベレンツの収穫祭と言えば年によって差は有るものの、私の様な帝国デュボネの人間でさえ耳にする程名の知れた祭。豊作を祝っての催しだが、規模が大きければ大きい程出費も嵩む。

国外からも参加者が集まり、自らの国に取り込んで尚忌み嫌われているコリエタ民達であってもきっと金銭的援助は行いたい所だろう。

これはつまり、他国への体裁上そうであって然るべき。

何故ならここは、"コリエタ国ベレンツ"であるからだ。


『ベレンツの長はよくコリエタに折れたな』

「"西の狂王"の噂が幻影では無いとすれば、やむを得まい」

『ほう。ぬしを持ってしてそこまで言わせしめるとな。それ程か?』

「立地上、それから外交上殆ど顔を合わせる機会は無かったが、噂だけはな。これはエトワールの言だが"あれを殺すなら自国を焼け野原にする覚悟が比喩抜きで必要で有り、奴の前では人の命は吹いて消える。勿論こちらも比喩抜きで。"と言う事らしい」

『名前は、なんじゃったか』

「ハンス・リンデマン」

『ふむぅ……』


話が逸れた。

そうまでして"ベレンツ"という街に拘る民達が、どうして顔も名も知らない私の言葉を疑う事無く信じ得るのか、という所だった。


『あの娘が余程恐れられている。自警団を愛して止まない。後は……』

「ふむ。簡単な話ではないか」

『お?』


フッ!馬鹿め。

貴様は一体誰に使役されているのだ。

フハハッ!!


『ククっ!すまんのぅ、妾にはさっぱりじゃ。教えてたもれ』

「なに、難しい話では無い。"本来はそうなのだろう"。だが、本日店を回った人間は、私、両家の跡取りことピヴワーヌなのだ!」

『ク……クク。つ、続けよ……クククっ!』

「疑う余地などあるものか!私は常、清廉に生きた!……分かってしまうだろう、自然と隣り合わせに生きるこの街の民は。どうやっても隠し切れない、私の潔白さという者をなッ!!」

『ククっ!アーッハハハハハ!!ダメじゃ、笑わせんでくれ!ぬしよ……アハハハハハハ!!』



……な、何を笑う。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「済まない。カフゥに会いたい、集金を終えた」

「あ、では貴方がピヴワーヌさんですね。少々お待ちを」


詰所と聞いていたが、些か豪勢過ぎやせんかこれは。

煉瓦を積み上げ出来上がった荘厳でいて絢爛な造り。この街にあるどの建物よりも大きく、じゃが反対に人の出入りは多くない。


「はい、お待たせしました。着いてきてください」

「うむ」


木組みの大きな戸を開け、正面の受付に控えていた少年。

鳥の娘が腕に巻いていた模様入りの布を首に巻いている所を見るに、これが自警団を自警団たらしめる証の1つじゃな。

いやはやいよいよ街の人間の自衛意識の低さに嘆かわしさを覚えんといかんのう。


「かなり大きな建物だな。自警団は全部で何人だ」

「50ちょっとって所ですね。立ち上げの頃と比べると色々あって減っちゃいまして、この建物はその名残です。初めは何処に何が有るか分からず苦労しましたよ」

「立ち上げ時の一員では無いのか?」

「えぇ。コリエタとのいざこざが合って、1年後くらいですかね。あ、申し遅れました。ユーリ・バルドリーニと申します。お気軽にユーリとお呼びください」

「うむ」


明るい金の毛に、細い体躯。声も高く、子供にしか見えん。自警団とやらも余程人材不足なんじゃろうな。

ユーリはそのまま度々こちらを振り返り、慣れた様子で歩を進める。


「ピヴワーヌさんはどちらから?カフゥのご友人とお聞きしてますが……」

「あ、あぁ……。ゴホン、あぁーここより北東の街から、その、だな『恋に生きる為に』ええい喧しい!!──ハッ!!」

「あはは、カフゥの言っていた通りだ。すみません、"あまり立ち入った事を聞くと赤面して口篭り、それを過ぎると脈絡の無い罵声が飛ぶ女"とお聞きしおりまして。少し、気になっちゃって。あははは」

「ぐ、ぐぬぬぬ………ま、まだ着かんのか………」


おぉおぉ、こんな子供にまで揶揄われるなぞ中々無い経験じゃろうて。クク、肌が上気しておるのが手に取る様に分かる。


「いいえ、突き当たってここを……はい着きました。カフゥ、ピヴワーヌさんをお連れしました」


階段を登り、南へ向けて進んだ先にある突き当りを右へ。白を基調とした壁紙同様、真っ白な扉をユーリが2度3度ノックする。


「はーいどうぞー」

「失礼します。では、私はこれで」

「ありがとうユーリ。ピヴワーヌ、お疲れ様」

「途中時間を取られたが、フフッ!この程度の仕事私からすればどうということはないさ」


部屋の奥にデスクを置き、窓を背にしている為今日の様に陽の照った1日であれば部屋の灯りを灯す必要も無い。

立派造りのこの室内でで何やら書き仕事を行っていた様子、妾達が部屋に入ってスグに大きく伸びを。普段そこら辺りを飛び回って生きる鳥には窮屈な仕事じゃろうな。


「お昼は何処で取ったの?ペリドット?」

「いや、カトリーヌ・ボアモルティエに世話になった」

「あら。キティと仲良くなったの?良かったじゃない、友達が出来て」

「半ば強制的にでは合ったがな」

「あの子そういう所有るから。あ、そこに座って。紅茶でいい?」

「頂こう」


ほんとはお酒を開けたい所なんだけどねーと小言を零しながら、紅茶をカップに注ぎ、カフゥもそのままデスクの手前にあるソファに座った。

テーブルを挟み向かい合う様に、冷めちゃってるけど美味しいから、と。ピヴワーヌの前に丁寧に差し出した。


「街はどうだった?なんだかんだ初めてだったでしょ、ゆっくりベレンツを回ったのは。正直な感想を聞きたいわ」

「特段意見する様な事は無い。自然と共に有り、未だ発展途上だ。もう少し上手く開発出来る気がするが、内政に携わっている者は考えが足りないのだろう。私であれば2年でコリエタを凌ぐ都市にしてみせる」

「貴方、部屋住みの割にバシバシ来るわね……」


歯に衣着せぬとは正にこの事。

思いやりの欠片などひとつも無く、やはり人付き合いが下手じゃなぬしは。

世話になっとる手前もう少しこう、言い様が有るじゃろうが。


「すまん……」

「因みに3年前から街の政に携わっているのは貴方に冷めた紅茶を馳走した女よ」

「す、すまん…………」

「いいのよ。私も引き継いだだけだし。元々向いてないのよ、こういうの」


そうすりゃここまで綺麗に藪蛇をやってのける事も無いじゃろうて。今更オラオロしても遅いぞ阿呆。

と、まぁだからと言って見捨ててしまっても面白味に欠ける。

話を変えよう。助け舟じゃ。


『ぬしよ、"自警団の件"を』

「あ、あぁ……。自警団の事で1ついいか」

「何かしら。待って、メモの準備をしなきゃ。何しろ考えが足りない上に記憶力も乏しくって」

「い、いやそうではなくてだな……そのすまない……」

「あはは!貴方揶揄い甲斐が有るわ!人に言われない?」

「言われん!」

「ごめんね。で、なに?何か問題でもあった?」


ふむ。この娘、たった数日でぬしの遊び方を理解しているようじゃ。クク、そうムキになるでない。より一層揶揄いとうなってしまうでは無いか。

いいのぅ、妾もここに参戦したいのぅ。


「本日の集金、恙無く終わらせ、問題が有るとすればボアモルティエの店で多分に時間を取られたくらいだ。寧ろその、"何の問題も無く終わってしまった事"が少しな。カフゥの名を聞いた者達は私の存在に疑問を持つ事をしなかった」

「あぁ、そういう事ね。貴方が言いたいのはつまり、"ベレンツにおいて自警団や他国者がどういった存在なのか"ってとこでしょ?」

「うむ」

「かなりの馬鹿に見えたでしょうね、"賢い貴方からすれば"」

「だからすまないと言っているだろう……」


その様を眺めけらけらと笑い。

カップを傾け口内を濡らしてから娘は言葉を発する。

かなり多くの音階を、その時その時で上手い事鳴らす。聞き取りやすく、通りも良い。

流石は鳥じゃな。似た様なのと昔何処かで会ったな。なんじゃったかな、馬?蝙蝠?

ふむぅ……定かでは無いのう……。


「先ずは、自警団の方から説明するわね。話したと思うけど、元々はコリエタの脅威に対抗する為に組織した義勇兵。私が言うのもなんだけど、あの時かなりの功績が合ったの。最終的にベレンツはコリエタに折れた形になったけど、だからと言って屈した訳では無い。そこはもう説明しなくてもいいわよね」


当時を思い返しておるんじゃろうか、音は少々強さを増した。

だが瞳には、言葉とは裏腹に弱さが見え隠れし。翠の瞳は水気を含んだが、そこから零れる物は無かった。


「元々街の人間で組織した物だし、私達の剣はコリエタのみに向いた。コリエタに取り込まれて尚、私達は私達の力で生きる事を証明している。その姿は、そうね。剣を持たない街の人間からすれば、英雄の様で、同時に"都合が良い"。だから私達は疑われ無い、嫌われる事も無い」

「"都合が良い"?」


ほー。中々分り易い言葉を使うではないか。

じゃがそこの辺りをぬしは疑問に思ったのか、そのままそれを口にした。ほんとにぬしは内政得意なんか?


「分からない?んとね、簡単に言えば……うん、それだけ"何かの変化"をみんな嫌っているのよ」

「そんな物か」

「そんな物よ。変化ある日々は刺激的だけど、同時に面倒なんだから。一部そういった生き方を好き好んでる人も居るし、そういう知り合いに当たりが無いわけじゃ無いけど、現状に不満が無ければそんな物無い方がいいでしょ?」

「ふむ……」

「貴方が理解出来ないのも無理はないわ。変化を求め、家を捨てたんでしょ」


皆往々に、恐れている。

財を為す者も、人を愛す者も、命を壊す者も、誰も彼も。

皆一様に、変化を恐れる。

平穏な日々は尊く、同時にそれは退屈で。

じゃがだからこそ、皆それを手放す事を良しとせん。

後ろ盾が欲しい、保証された生。

色の少ない、そんな生き様。


「それと、他国者の扱いだけれど、決して良くは無いわね。エリプセにも寄ったでしょ?あの子は数年前にやって来た……あ、貴方ときっと近くの出身よ」

「……あぁ」


もごもごしながら今日何度目かも分からん赤面を披露するピヴワーヌ。覚えておるぞ、ぬしが雄弁に恋を語った繁盛しとらん女性店主の店じゃな、クク。


「コリエタとの抗争があった後、色々な事が合ったわ。良い事も、悪い事も。けれどその殆どが、国外者の齎した物が発端だった。さっき話した通り変化を嫌うこの街では、風当たりは強くなってしまう」


田舎特有の物でも有るじゃろうな。

善し悪しで語る事は無いが、頭の硬い集団である事に変わりはない。

と言うよりも、それに気付く術を持たん。


「私はそれを感じなかったが」


そう、再び疑問を口にしたピヴワーヌ。

快活に回りの良い音はそこで、出来るだけ低く鳴った。

目線をこちらに向けたまま、瞳の奥を、覗かせようとは決してせずに。


「それは。……"私の名前"を出したからよ」


痛々しい、これ程に痛々しい音も無い。


「?それ程カフゥの地位は──」

「さ、もういいでしょう。先に家に戻っておいて、仕事が終わって、今日は外でご飯を食べましょう」

「お、おい──」


何故言葉を切り捨てられたのかを、童のぬしは分からぬままに部屋を追い出された。

釈然としないと言葉を零し、受付のユーリの挨拶も耳に届く事は無く、意味の無い思考を繰り返す。


クク。

然もありなん。

しかし応用が効かんのぅ、ぬしは。





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