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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
路傍の欠片-Love's not Time's fool-
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聖天使師匠



「えぇと……。あぁ、そうだ。注文を取ろうか、何がいいかな」


「すけこましが不全になる毒を」


「アビィ早まるな。それだとお前も後悔する」


「……あぁー、そうだね。ボクは席を外そうか」


「いえ、マスターさんはそのままで結構です」


「ん、じゃあ俺だな!俺が席を外してみるってのはあるな!」


「シーナ君」


「はい!」


「そのまま座って黙ってなさい」


「はいッ!!!」



▲▼▲▼▲▼▲▼



先日フーバー様から頂いたお話。

いつの間にやら財布の中身がすっからかんになってしまった私達には絶好の、それこそ飛び付いてでもこなしたくなるお話でしたが。


「アビゲイルー!ちょっとこっち来てー!」

「……はぁ」


目線だけで、有り金全てぶちまけておいてこれからを楽観視する行き当たりばったり君へ別れを告げ、壇上のミリアちゃんの元へ。

ですがまさかあそこまでセリフが多いなんて。演技の覚えなんて欠片も無い私ですし、てっきり小さい端役だと高を括っていたのが間違いでした。

こんな事だと分かっていれば……いえ。

私の行いはシーナ君の。そしてシーナ君の為した行いは私、アビゲイル・ウィットビーの為した事と同義なのです。


「ねぇ、あんたちゃんと寝てる?」

「しっかり休んでいますよ。先程もシーナ君に担がれて小屋に入りましたから」

「それをちゃんと寝てないって言うのよ。はぁ、あのね?アビゲイル、あんたに言われりゃ金くらい貸してやるよ。私らあんまり使う事無いし」

「いえいえミリアちゃん御心配無く。彼がいつの間にやら失ってしまった私達の旅の路銀、私が取り戻してあげなければ」


とは言うものの、えぇ。

これ程私が役者に向いていないだなんて。見ている限りは楽しいのですが、自分でやってみるとなると。

どうしてこのセリフの後にこんな間が必要なのか、どうしてこのセリフを告げた後にあんなセリフが返ってくるのか。

そのまま迷走、頭の中はこんがらがって、次いでセリフが口を付かないのです。


「アビゲイルはダメな男に尽くしちゃうタイプだね」

「シーナ君がダメかどうかは一旦置いておくとして……えと、どうなんでしょう?」

「今まさに証明してるでしょうよ」

「でも、優しい一面もあるんですよ?この間お昼寝をしてた私をなでなでしてくれまして、えぇ。ふふ、起きた時には髪の毛がぺっちゃんこでした。ふふふっ。しっかり愛して貰っているんです、彼の為に私も頑張らないといけません」

「うわーダメだこりゃ」

「???」

「あー………。えとね、確かアビィみたいなのに丁度いい言葉があんのよ。なんてったっけ、ペシミスト?」


ふむ、知らない言葉ですね。

後でシーナ君に聞いてみましょう。あれであの人結構賢い方ですし。


「違うわミリア。ミュンヒハウゼン症候群の事を言っているのでしょう。ペシミストなのはシーナの方、それも、筋金入りのね」

「それだ!丁度いいルィンヘン、あのバカをここに呼んでくれよ。こんないい子になすりつけてあのバカはどこほっつき歩いてんのよ」

「さぁ?団長が呼んでいたから外じゃないかしら」


何処からとも無くトコトコとやって来たルィンヘンちゃん。これまた知らない言葉が飛び交いまして、話の半分も分かりません。


「団長のとこなら安心か。え、というか何だって?シーナがペシミスト?有り金全部失ったのに煙咥えて仕事をサボってるあのシーナの事言ってんの?」

「そうよ。アビゲイルならばよく分かると思うわ」

「あの、実はそのペシミストという言葉が分からなくて」

「悲観主義者という事よ」

「ふむ」


シーナ君が、悲観主義者ですか。

うーん。別段楽天家である様には感じませんが、だからと言って反対に世を悲観して眺めている様にも思えません。

むしろそう言った二分する様な考え自体に否定的である様に思えますが、どうなんでしょう。


「あら、さしものアビゲイルもあの男を理解出来ていないようね。最近冷たく当たっている様だし、そんな事だとあの男は違う女性に尻尾を振るわよ?くすくす」

「むっ。聞き捨てなりませんよルィンヘンちゃん。勿論彼の全てを知っている訳では有りませんが、それでも2人で過ごした時間は嘘を付きません」


ミリアちゃんは静観を決め込み、得意気に私を見上げるルィンヘンちゃんと、少女相手にムキになって食い下がる私を交互に眺めます。

なんだか最近シーナ君に似てきましたかね、私。


「そう。では貴女、あの男の口癖を知っているかしら?」

「えぇしかと。"思考を止めるな、頭を廻せ"と口を酸っぱくして仰ってますね。みみたこです。みみがたこさんになる程聞いてますとも」

「アビゲイル、横槍で悪いけどあのタコはタコじゃないよ」

「!?」


……知りませんでした。

てっきりこう、"耳にし過ぎて飽き飽きし、これ以上は聞くに耐えないのでたこさんに張り付いて貰い蓋をするそんな様"を表す言葉だと。


「……こほん。で、ルィンヘンちゃん。彼のあの口癖が、どうして悲観主義者である事と関係が有るのでしょう」

「彼があの言葉を零すのは、全て決まって"考えなければ死ぬ可能性が有る"時のみよ。死期を悟り、故に聡い。それは、厭世観という名のフィルターを通して世界を見ている事の証明に他ならない」

「…………」

「あの男は"誰よりもペシミストである事に執着し、オプティミストが見落とした余地"を見逃さない。たからこそシーナ・ラーゼンは私達ちぇりーぶろっさむの面々を相手取って連勝し……最後にとんでもない間抜けをやってのけはしたけれどね」


悲観主義である事に執着している。

確かにあの人なら……いえですが。

そんな風にあーでもないこーでもないと頭を捻っている私を尻目に、今度はミリアちゃんが言葉を発します。


「臆病なだけじゃないの?私にはあんたの言ってる事がさっぱりだよ」

「くすくす。ミリア、貴方が1番その辺りを知っているんではなくて?」

「どういう事?」

「どうして臆病者が貴方の胸を鷲掴むのよ」

「それはまぁ…………馬鹿で変態だからじゃない?」

「……否めないわ」


今迄の記憶を辿り、彼と出会って以降、何度も聞いた彼の口癖。私に初めて会った時もボソボソと小さく零していた様に思います。


「じゃあこれはどう?どうしてペシミストのシーナは今回の件でお得意の頭を使わない訳?」

「この件が"死に直結しない"と答えを出しているからよ」

「金が無くてどうやって生きるって言うのさ」

「さぁ?私の物と違ってアレは"愉快な廻り方"を好む様に見えるわ。想像するだけなら例えば、誰かが金を貸してくれる、そもそも金に執着しない、と。最後にそうね。アビゲイルに任せておけば心配は無い、こんな所かしら」

「それを楽観主義って言うんでしょう?」

「ここに行き着くまでの道程が違うのよ」

「そんなもんかなぁ?」


ルィンヘンちゃんの言が何処まで正しい性格分析に基づく物なのかは彼に問わなければ定かでは有りませんし、問い詰めた所でもくもくと煙に巻くのが目に見えていますが。

客観的に見ると、即している様に思えてなりません。

うむむ、凄い。ルィンヘンちゃん凄い。

一緒に旅をしていた私さえ考えもしなかった事を、たった一月足らずで言葉にしてしまうんですから。


「ルィンヘン師匠……」

「……よして頂戴。アレに一過言あると、アレに知られてしまう事が癪だわ」


師匠。うむ、そうです。師匠ですよこの子は。

シーナ・ラーゼンというペシミスト兼サボり魔兼私の契約相手をここまで深く理解しているとは。

と、そんな所でここにやって来たそもそもの要因が頭を掠め、師匠へ向けていた羨望を一旦ストップ。ミリアちゃんに向き直ります。


「あの、ところでミリアちゃん。どういったご要件でしょうか」


こうして女の子だけでお喋りをしたのも彼と旅を始め、更に言えばこの劇団の皆様とお会いしてから。変え難い時間に代わりは有りませんが、今はとにかく時間が惜しいのです。

1分1秒でも台本と向き合う時間が欲しい。

アビゲイルは今、切羽詰まっているのです。


「あぁ!そういや私が呼んだんだった!あのね、実は──」

「あんんの腐れ野郎がァァアアアアア!!!!!」


ミリアちゃんが口を開いて数瞬後、ミリアちゃんの通りの良い快活なお声は。


「野郎共ッ!!あのボケナスをオイラの元へ連れて来い!!散れッ!街を駆けて血眼になって探して来いッ!!!」


怒号、轟音。いえ、ドゴーンの方が正しいですね、この場合。

蹴破る様に舞台小屋の戸を破壊し、烈火の如く燃え上がる団長様によって掻き消されるのでした。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「あの、団長様。シーナ君がまた何か?」


「アァンッ!!??」


「ぴゃっ!!」


「……お、おぉ嬢ちゃんか、済まねェよィ。脅かすつもりはね無ェんだ、泣かないでくれ」


「ひゃい、ぐすんっ。全然大丈夫れす」


「あぁーあー団長サイテー」


「いつも言っているじゃない。貴方は生きているだけで人に死の恐怖を与える様な出で立ちをしているのだから笑顔を保ちなさいと」


「おぉ、ミリアとルィンヘンも一緒か。いやはや済まねえ。と、それどころじゃァねぇ。アイツだ、あのアホンダラをオイラん所まで連れて来い」


「今度は何?私達の分の有り金までスったなんて言わないよね」


「"唾吐いてトンズラこきやがった"」


「「「は?」」」


「言葉の通りだあのクソッタレタダじゃァおかねェ。おめェらもアイツ探してここに連れて来い!」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「なぁルィンヘン、やっぱりアイツはタダの馬鹿なんだよ」


「否めないわ」




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