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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
路傍の欠片-Love's not Time's fool-
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死にたい女



「過る者へ向け祈りを、自らの敵を愛しなさい。依木様の御心は、清き魂を望んでおられます。ゆとりある心を持ち、謀る心を捨てなさい。全ての者へ、平等な赦しを」


「与える事を、依木が成そう。報いる事を、依木が成そう」


「然すれば後、裁きの場に於いて皆各々の魂は、悪を祓う事が出来るのです」


「飢えているのなら食べさせなさい。乾いたのならば飲ませなさい」


「然すれば後、依木の御心を持ち」


「愛すべき皆にはきっと」


「安らかなる平穏を与えましょう」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「待て、待ってくれ!金が必要だったんだ!息子が病を患って……天照(てんしょう)様!頼む慈悲を!」

「祭壇の意思は、コリエタの意思。コリエタの意思は、今世随一の愛」

「……ふ、ふざけるな!先月息子を治してくれとあんたに祈った時あんたは言ったじゃねぇか!"祭壇の言葉に従え"と!だから俺は待ったんだ!でもあいつは痩せ細っていくばっかりだった!だから……だから俺は!」


そんな風に、恨む心を持つべきでは無い。

そんな風に、憎しむ心を持つべきでは無い。

憎悪が埋めたその心では、依木の求める清き魂を持ち合わせる事は無いのです。


「き、聞こえてんのかよオイ!俺はアンタに従った!それでも息子は治らなかったんだ!医者に見せる為に金がいるんだ!」

「貴様ッ!この御方を何方と心得る!」

「えぇ、良いのです。下がりなさい」

「し、しかし……」

「天照の意思は、依木の意思。祭壇の意思は、世界の意思」

「……はッ!」


こうして一歩踏み出せば、社に満ちる依木の息吹が肌身を撫ぜる。

隙間風に乗り揺蕩うそれは、心地好い歌の様で。

四方を彷徨う寄る辺無きそれは、心地好いせせらぎの様で。


「其の方、名をもう一度告げなさい。其の方の言葉は、この天照と祭壇が聞き届けます」

「ハロルド……ハロルド・ドミニッチ」

「左様ですか。ハロルドよ」

「天照様おやめ下さい!名を呼ぶなど!」

「其の方に再度、依木の意思を授けましょう」


あぁ、なんと世界は煩雑で。

斯様な世では、導かれた先を見通す事さえ儘ならない。

にも関わらず、依木は斯様に煩雑な世であったとしても。それを生きる為に必要な術を伝え続ける。

生を受けた皆各々の心には、困者蔓延る世界にも似たその心には必要なのです。



▲▼▲▼▲▼▲▼



其の方は皆、依木を軽蔑する。

其の方は皆、恐れている。

依木とは、理性の隣り合わせに佇まいを持つ物であるという真実を恐れている。


其の方を皆、導いてやらねばなりません。

其の方を皆、正してやらねばなりません。

信仰とは、思惟や行為では無く感情であり、故に天照は感情を、全て一重に愛を唱える。


あぁ、平穏とは。

愛とはこれ程に、美しい。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「其の方に、愛を」


それは、時に心地好い歌の様で。


「其の方に、赦しを」


それは、時に心地好いせせらぎの様で。


「其の方に、清き魂を」


あぁ、"平穏"とは。


「"安らかなる平穏を"」


"死"とはこれ程に、美しい。



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