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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
路傍の欠片-Love's not Time's fool-
87/346

No way



「ねぇーあとどんくらい?」


「2日、といった所かな。向こうに着いてからは?」


「んーまだ特に」


「折角なんだ、僕らの舞台見て行きなよ」


「つってもしこたま稽古見ちゃったしな、新鮮味無いと言うか」


「本来その時間君達は見廻りだったと思うが……」


「何を今更な事言ってんだ兄弟。ま、呑みにでも行こうぜ」


「あぁ勿論だよ、ラーゼン君」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「ねぇねぇシーナ君」

「はいなんでしょうアビィちゃん」

「べレンツってどんな所なんですか?」


邪神率いる移動劇団ちぇりーぶろっさむとの、長過ぎて騒がし過ぎる旅路も残すところ約2日となった。

まぁなに、俺にしてはよく働いて、それでいて俺にしてはよく"持った"方だ。

いつだったか雇われたどっかの金持ちとその部下との護衛の旅路は2、3時間でストレスに起因する癇癪の箍が外れ、暴れに暴れて即解雇となった。

思い返してもみても、だがあの時の行動は正常であり正当で、それによって再び訪れた平穏と、街をふらつく俺に声を掛けてきた女とを一緒に抱いて安らかにベッドで眠る事が出来たわけだ。


「べレンツはー…… まず暑くてー、酒が美味くてー」

「ふむ」

「あぁー後はあれだ、"脳無し連中"が鬱陶しい」

「"脳無し連中"?」


今回の旅路だってストレスフリーなんてモンとは程遠かったが、まぁそれでも今こうして荷馬車から足を伸ばして煙を咥え、隣に座す吸血鬼と身を寄せあってのんびり穏やかにお喋り出来る程度には落ち着けてる。

それもこれも、俺の精神が歳を経て落ち着きを見せた証か、アビィのお陰か。


「そのままの意味さ。奴らにはこれっぽっちも脳ミソが無ぇのさ」

「先の、オーク達の様な生き物がいるんですか?」


そんな事、考えるだけ野暮ってもんで。


「"決まりが無い"だけアイツらの方がマシだ」

「どういう事です?」


咥えた煙を深く吸い込み、ガタガタと揺れる視界の端でチラつくアビィを眺め言葉を流す。


「元々べレンツは独立した国でね。小さくて、それでいて厄介な思想も蔓延ってなかったそんな国。あぁー。さてアビィ、思想の薄い連中ってのは"よそから見れば"どう見えると思う?」

「ふむ………」


頤に指を添え、丁度燻んだ紫煙を目で追うのを止め新たにもう一吸いしようとした頃に、聡明な吸血鬼が声を発する。


「"染めやすい"」

「ビンゴだ」

満足そうに息を吐くアビィをひとしきり撫で、言葉を続ける。

「べレンツの隣にはコリエタって国があってね。今はそこがべレンツを地酒と一緒に飲み込んでんだけど、"脳無し連中"ってのはそいつらの事だ」

「と言うと?」


コリエタとべレンツは、何も敵対関係にあった訳じゃない。だがどういう訳か10年程前、べレンツは仲良しこよしだったお隣さんからの侵略を受けた。


「争い事がお好きなんですか?」

「さぁ?だが争い事が大好きな奴がコリエタを扇動したって噂は今も囁かれてる」

「どなたです?」

「"西のナッツ"だ」

「ほほう」


確証や裏付けは無いが、あの"変態ジジイ"が絡んでるんだとしたら何が起きても不思議じゃない。

突如としてべレンツへ侵略の牙を向いたコリエタの真の所の解答は無く、今尚方々で憶測が飛び交ってる。


「んでまぁ今もそのコリエタの兵の一部がべレンツに詰めてるんだけど、これが中々どうして厄介でね」

「厳粛、という事でしょうか」

「いやどうだろう、別にそいつら自体はそこまででも無いんだけど。面倒なのは奴らが愛して止まない"祭壇"の方だ」

「"祭壇"?」


べレンツと同じくしてコリエタも、というか女傑よりも南に位置する平和主義国家は西の方に行かない限りは何処も似た様に森に包まれている。

カントリーめいたその国々は様々な思想に溢れかえり、中には"1人に1人神がいる"なんて言う、アマレットが聞いたら卒倒しかねない様な物まで存在する。


「で、コリエタにもその土地由来の信仰があってね。祭壇ってのはその事だ」

「ほう」


コリエタ都心、と言っても別にそこまでデカい国でも無いんだが。その都心部中央にある王家の敷地内に、人が10人で囲っても囲いきれないバカでか過ぎる大木が有る。

国を起こしてからこっち、彼らはその大木を自分達民を見守る象徴とし、その"大木自体"を祭壇として奉った。

祭り上げられたそれにはいつしか意志が宿り、それが告げる神の意志の代弁者の巫女の家系がコリエタの王家と別に名を馳せ、実権を握っている。


「そんな事出来るんですか?不思議です」

「人の血がぶがぶ飲んで満たされてる誰かさんもよっぽどだけどね」


んで、厄介なのはここからだ。

コリエタで罪を犯した連中は一人残らず祭壇まで、というかその神のお告げの代弁者の元まで連行される。

数々の天災や魔を退けたとされるその神を心より崇拝する彼らは、そのお告げを持って犯罪者に罰則を与える。それが例えどれ程小さな盗みだろうが、なんだろうが。


「すると、どうなるんです?」

「大体死ぬ」

「なんともはや……」

「だろ?べレンツには他に先住民で組織された自警団がいるんだけど、捕まるならそっちだ。覚えておけ」

「悪事を働かなければいいだけです」

「聡いなアビィは」

「いえいえ」


馬鹿らしい話だと思うが、だがまぁ自分達が愛してやまない神様がそう言うんじゃしょうがない。今までそれに従って、1度だって自分達が損を被った事が無いんだ。

そうしていつしか彼らは自分達の頭で物の善悪を考える事を止め、自らの意志は"神の意志によって操作された物だ"という事さえ忘れてしまった。


「なるほど。故に脳無しという事ですか」

「そゆこと」


やに長い事話してしまった。気付けば咥えようとした煙もそのほとんどが灰になってる。

指で弾き、荷馬車から転がってどんどんと小さくなっていくそれを眺め、ふと。


「あぁ、そう言えば」

「なんですか?」


"チラつく2つの"昔馴染みの顔に思いを馳せる。


「知り合いがいるんだ、その自警団に」

「あら、いいですね。シーナ君のお友達ですか、挨拶に行かなくてはなりませんね」

「おぉー行っといで行っといで。ただまぁ──」


……はて。


「どっかに"飛んでいって無きゃ"だけどね」

「?」


何年ぶりになるだろうか。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「ミリアってあれなの?俺の事、やっぱあれなの?嫌いなの?」

「いや、別段好きでも嫌いでも無いけど、なに?」

「旦那、ガキ臭い事言ってないでかっ込んじまいなよ」

「グルゴ君、お前本来肉食じゃねぇか。味方しろよ」

「出された物は残さず食べなさい。それと、食事時くらい"それ"やめなさいと言っているでしょう」

「アビィ、ちょっと皿寄越せ」

「はいはい。ねぇティベリオさん、到着はいつ頃ですか?」


晩御飯です。

見慣れた光景、見慣れた会話。

それらに触れられるのもあと数回、ですがそれでも尚彼は劇団の囲いを蹴飛ばして回り、お野菜を私のお皿に投げ寄越します。


「早ければ明日の夜と言った所じゃないかな。団長、どうするんだい?」

「今更ちんたらしてたって仕方無ェよい。"報せも無い"んだ、明日にはべレンツに入るぜ」

「"報せ"?」


耳を付いた疑問を口にし、シーナ君の分のお野菜もはみはみ。

もごもごしている私に答えをくれたのはラエルノアさん。


「ほら、1週間前に居なくなった猫が居たでしょ?アンタ達とはあんまり関わり無かったと思うけど、コッコって猫」

「そんな奴居たか?」


次いでシーナ君が頭を捻り、煙を咥え。

うーん……猫のコッコさん……。確かにちぇりーぶろっさむの皆さんと初めて出会った時に猫耳の女の子が居たように思いますが、定かでは有りませんね。


「"前と後ろ"、どっちにいた?」

「前だよ。ほら、ラーゼン君とは少し離れた所で短刀を振り回してた」

「あぁ!あのスーパー"トんでる"奴か!マップタツちゃん!」

「そうそう、あの子も裏方でさ。私達より先に街に入って問題がある様なら報せをくれるの。私らはほら、"こんな感じ"でしょ?だから本隊より先に入って、そこの支配人に話を通したり、まぁそんな所」


移動劇団ちぇりーぶろっさむが何処で発足したかは知りませんが、彼らはその名の通り移動劇団。決まった舞台小屋を持たない彼らの、所謂営業周りと言ったところでしょうか。


「あんな"イカレてる"奴でいいわけ?そんなに人材不足なの?お前らは」

「馬鹿言うなあんちゃん、アイツはあれで礼儀作法に長けてんだ。オイラんとこで一等出が良いんだよ。着いたらあんちゃんも礼のひとつくらい教わったらどうだ」

「馬鹿はテメェだ。余裕だそんくらい」


煙を吐いて、そう捲し立てたシーナ君。

思い返せば旅を始めた頃よりも、柔和……は違いますね。まぁ軽口を叩く余裕が出来たといいますか。

心底怯えていたフーバー様にも御覧の態度です。


「シーナ君とは縁遠そうな言葉ですけど」

「アビィ、お前だけは俺の味方でいてくれないとどうしようも無いぞ」


ふふ、勿論いつまでも貴方の味方ですよ。

しかし嘘はいけません。


「ホゥ?そいつァ丁度いいぜ。向こうに着いてテメェらにも宣伝を手伝って貰うとするか」

「しゃらくせぇな。俺らが受けた仕事は護衛、これ以上は勘弁だ。適当に進路取って西にでも向かうさ」


心底面倒そうに団長様に相対し、ヒラヒラ手を振りこれ以上の会話を望んでいない事をアピールします。

そんな事を知ってか知らずか、ですがこちらも心底、本当に心の底から不思議そうにして、団長様が口を開きます。


「冗談よせよあんちゃん!ンな事言ったって路銀が無ェじゃねェか!!ガハハハ!!!」

「給料払わねぇつもりかオイ、泣き寝入りなんてしてやらねぇぞ俺は」

「……ハァ?違ェだろ、そもそも今回の給料丸ごと"スっちまった"じゃねェか、あんちゃんは」


…………。



………………ん?



▲▼▲▼▲▼▲▼



「向こう着いたって無一文だぜ?まぁ、あんちゃんは別にそれでも構わねェがよォ、嬢ちゃんが忍び無ェ」


「ハハ、何を言ってんだよ。なんの話してんだ」


「あんちゃんはこないだ"賭け"に負けたじゃねェか」


「……………………」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「……………………ハッ!!」


「……シーナ君?」


「アビィ、違う。違うんだよこれは」




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