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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
ベイル君珍道中
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山無し、オチ無し、一文無し



「いやぁごめんなぁ!あはは、ちょっとうちのんが乳無さ過ぎて取り乱してたわ。何処まで?」


「ほんまに覚えとけよちんこボケコラ」


「べレンツへ行きたい。いくらだ」


「金500や、なんやええおべべ着てんねやから金持ってるんやろ」


「貧乳は黙っといてな。んーとなー、"何にも無い"て言うなら金20てとこや」


「……また"それかい"粗チン。目ェと一緒で細長いんか」


「ちんこちんこうるさいねんお前めっちゃちんこ好きやな!なんや付いてんのかちんこ!それやったら乳無いんも頷けるわ!男やったんか!」


「殺す!殺したんねんお前ボケェエエエ!!!」


「いい加減にしないか馬鹿共がああああああ!!!!!」




▲▼▲▼▲▼▲▼



いやぁ、しかし本当に喧しい連中じゃな。

妾は好きじゃぞ、退屈せんというのは素晴らしい。


「貴様達次は無いぞ」

「いやぁごめんなぁ!まぁちょっとええわ取り敢えず乗って、んでちゃっちゃと行こ」


やや短めな頭髪は赤黒く、相方に糸目糸目と揶揄される瞳は蛇の類もので無い事は見て取れる。整った顔立ちではあるチコと呼ばれるこの男は、恐らくベイルよりも数個歳上と言った所か。


「待て、20は高い」

「はよ乗れや、だるいねん」

「お、おい馬鹿押すな!」


ベイルの言には耳を貸さず、尻を蹴飛ばすようにして小舟に押し込む女はレナータ。

こちらはベイルと同じくらいの歳頃で、真っ青で長い頭髪を1本に纏め、切れ長な瞳は髪よりも濃い紺碧。

でもって確かに乳が張っておらん。そこだけ何かに抉り取られた様になっておる。


「はいほんなら出発ー」

「馬鹿おいちょっと待て!」

「どっち側やっけ?今の時間やと南回り?」

「あぁーせやな、南から上がって行くんがええやろな」

「貴様達は私の声が聞こえないのか!」


クク、いやはや苦労が絶えんなうちの童は。


「お嬢ちゃん名前聞いてたっけ?何ちゃん?」

「"ナンパ"とか縁起でも無いからやめろ、沈めたんぞお前諸共」

「ほんならお前も死ぬやろがい、浮く乳付いてないねんからアホ」

「はい殺ーす、チコだけまず殺ーす」

「だから!話を!聞け!……ておい馬鹿!櫂を離す奴があるか!」


一言喋れば二言返し、いやぁ本当に飽きが来ん。

じゃがベイルの言う通り櫂を離してこんな不安定な場で取っ組み合いは控えるべきじゃな。冗談抜きに沈むぞこのボロ舟。


「あ?……あぁ、ほんまや。なんや細いとこでギャーギャー言う女やな。で、自分確かになんて名前や」

「馬鹿に名乗る名など無い」

「レナータ言われてんで、この子の言う通りや。で、なんて名前なん?僕には聞かせてくれるんやんな?」

「馬鹿に名乗る名など無い」

「うーわチコだっさー!ちんこちっちゃいからかなー!……おいちょっと待て誰が馬鹿やゴルァ!!」

「ちんこ関係あれへんやろ!……えっ!僕もアレなん!?やめてやこんな貧乳と一緒にせんといて!」

「殺すぞ貴様ら!」

『いやぁ仲良しじゃのう……』


べレンツか、知らんな。

帝都を抜け、一路南西へ。その先っちょから南回りで海を渡り、また西へ。

と、言う事はじゃ。……今はアインベッカーじゃったかな、あの足元の辺りか。

ふむぅ、そこで酒を買い、タンカレーへ。

妾のせいでは有るんじゃろうが馬鹿程遠回りじゃな。いやしかしまぁ美味い酒じゃった。


「で?もうええやろ、名前は?」

「ピヴワーヌだ、姓は無い」

「"そんなもん持って"、姓は無いて?あはは、おもろい子やなぁ」

「……斬れ味が知りたいのなら貴様の身体で証明するぞ」

「怖い事言いなや、ええねん。"僕らみたいなの"と船旅するんやから。色んな事情に首突っ込む事はせぇへんよ」

「…………ふんっ!」


国が噛んでない、非合法の渡し。

恐らくは位置関係上、"他種族"に向けての商売か。

あまり詳しく聞かされておらんが、それでもこの旅の道中目にする生き物からは生気を感じるのが難しかった。


「で、や。ピヴワーヌちゃん、さっきの代金の話やねんけどな」

「なんだ」

「僕ら2人ともな、面白い話が好きやねやんか」

「ん?」


妾達と向かい合わせに、進行方向に背中を向けて座すチコ。そして妾達の背後では、乳の無いレナータが櫂を操る。

細っこい身体では有るが、まぁ仕事にするくらいじゃからな。

時間よりも距離は出ている。


「聞かせてくれへんかな、おもろい話。その話聞いて実際おもろかったら安くしたる、今まで1番安なった人は金1枚やった」

「あれは傑作やったな。ピヴワーヌ、ウチらみたいなんと船旅するくらいの自分や。なんかあるやろ、おもろい話。安心せぃ、長い事こんな仕事してるんや、口は固いで。スベるん怖いんやったら黙って20出し」


とんでもないフリじゃな。


「…………フッ!貴様達の様な馬鹿がお気に召すような話か!フッ!」

「何わろてんねんきっしょいわぁ。なぁチコ、やっぱこいつ落とさへんか?」

「まぁまぁ僕らが悪かったんやからしゃーないて」


じゃがそんな地獄のフリであったとしても、妾のぬし様は自信たっぷりに胸を張る。

こいつは見物じゃ、妾も楽しみじゃぞ。


『期待しておるからの、ぬしよ。ククク!』

「良かろう!例えどれだけ貴様達の知能が欠落していようとも!私は聡明なのだ!心しておけ馬鹿者共よ!」


あぁ、ダメじゃ。

もう笑ってしまう。

ククク。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「これは私の友の話なのだがな。男、聡明でいて美麗な男だ」

「男は誰からも敬愛され、そして誰よりも徳を積んだ」

「そんな男だったが、彼はそれでも他者への思いやりを忘れる事は無く、そんな姿にまた皆から羨望の眼差しを向けられた」


『「「………………」」』


「その背中はかつて、マシュー・カーリアンを討った勇者と見紛う程に輝いていたと言う」

「照り付ける太陽が輝くある日、屋敷住まいであった彼は給仕の皆を自室に招いた。煌びやかな装飾よりも、質実剛健なその男を表したようにその部屋は簡素にも見え、だが細やかに気遣われた部屋の内装は質素などとは程遠い」


『「「………………」」』


「給仕の一人が言った。"ご主人様、どういった御用向きでしょうか。私共の様な者を集め、何か粗相でもありましたでしょうか。"と」

「皆一様に伏し目がちに、まぁ無理もないだろう。自らの主人に目的を告げられる事も無いまま呼び出され、その中で1番の年長者である給仕がその様な言葉を吐いたのだ。今思えば彼らには悪い事をしたかも知れないな。フッ!……あぁ、いやいや。友人の話だ。友人の、男」


『「「………………」」』


「更に、その給仕達の中に一際青白い顔を浮かべている女がいた」

「主人に仕えて1番日の浅い少女は、今朝。あろう事かその主人のティーカップを手から滑らせ、粉々に割ってしまったのだ」

「高貴であるその家に於いて、茶器の一つ取っても給仕の貯蓄では賄えない。……いや、給金はしっかり払っていたぞ!それでもあの茶器は高かったのだ!」


『「「………………」」』


「……と、友人が言っていたのだがまぁ置いておこう。そんな事があっての今、誅されるべき給仕が声を上げようとしたまさにその時だった!」

「男は給仕の皆を順々に眺め、慈愛の篭った眼差しで眺め。……こう言ったのだ」



「"どうした、愛すべき我が家族達よ。何故そう不安げな顔を浮かべるのだ"」

「"私は悲しい。どうして自らの家族達にその様な顔を向けられねねばならんのだ"」

「"皆よく聞け、近頃は暑い日が続いているだろう。どうも喉の乾きが潤わんのだ"」

「"あのティーカップでは、どうやっても事足りん。故に、皆に探してきてもらおうと思ってな"」



「"私に似合う、屈強で大きなティーカップを"」



「とな!!!」

『「「………………」」』




▲▼▲▼▲▼▲▼




「フッ!いやはやあれは傑作だったな、フハハ!あの時のあの娘の顔と言ったら……フハハハハッ!なに、愛しい我が家族の成した事だ。誅する様な真似はせんよ……。あ、いやいやいけない、そう男は言っていたのだ」



『「「………………」」』



「どうした、今ので終わりだが……。あぁ!……フッ!全く仕方の無い連中だな。あまりに面白過ぎて放心と来たか……フハハハハ!!!」



「……あぁ、ピヴワーヌ……あれや、うん。あかんよう言わんわ、レナータ、多分君と同じや。言ってやってくれ」

「チコと話合うなんていつ以来やろうな。いや、ほんまにな」



「うん?……フッ、いくら値引こうと私は構わんぞ。だが銅貨となれば話は別だ。なにぶん銅の持ち合わせが無くてな!金1枚でも10枚でも好きに持っていくといい!」



「あ、あかんちょっとアレや。僕も言いたい。言いたなってきた俄然」

「うん、こいつアレや。余程のアレやわ。ピヴワーヌ」



「どうした?」

「今の話やと───」




▲▼▲▼▲▼▲▼




『「「金500」」じゃな』




「なん……だと…………!?」




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