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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
ベイル君珍道中
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立て板に暴風雨



「──……んー?命の総数という事かえ?」

「だから違うと言っているだろう。"血液量の閾値"だ。予め世界が取り決め、それを器とした所から零れ落ちた物を"吸い取った"だけだ」

「血を命として考えれば、その総数云々という事じゃろう」

「……貴様、出身はアマレットか?」

「頼まれてもあんな堅苦しい所住んでやらんわい」


いつになったら辿り着くのか。

粗方の方向とそこまでの所要時間だけは給仕達から伝えられたが、果たしてこのルートで合っているのかどうかが分からない。

見渡す限りの森。

レイピアの刃先で木に印を付けている為迷う事は無いだろうが、もうそろそろ目的の船着き場が見えてきても良い頃合だと思うのだが。


「んー、では属性は?」

「地の属性だ」

「イメージは?」

「少し黙って歩けないのか……」

「気になるんじゃからいいじゃろ少しくらい。ほれ、勿体つけるでない」


加えて先程の顛末を根掘り葉掘り聞き出そうとするテンコを相手にしているせいで集中が保てない。


「"零れた水を吸う大地"。イメージはそれだけだ」

「ふむぅ?……いやしかし、だとして"さっきのあれ"は史実の改竄じゃろう。いかにぬしの魔法の才が秀でていたとして、些か横暴過ぎやせんか?」

「魔術を使い、私は決められた中でそれらが齎した結果の辻褄合わせを行った。閾値の設定をし直した訳では無い」

「それも、魔術か?」

「これを世に出回った"魔術"と同等の物と捉えるのかと言われれば、突き詰めれば否だ。魔力は使ったがな、五属性の同時使用。私は聖を除いた全属性の魔術を練り合わせイメージを保ち、尚且つそれを放つ事が出来る。テンコを呼び出した際、そこに聖属性の血を加え六属性の魔力を使用した召喚を行った」

「……んー?頼むぬしよ、分かり易くじゃ」


魔力とは数式だ。

答えを先に創り上げ、そこに必要な物を当て嵌めていく。

あくまでこれは私の解答だが、恐らく現在のタンカレーでも似た様な考え方を伝えているのでは無いだろうか。


「阿呆は貴様では無いか」

「阿呆の妾にも分かるよう説明せいと言っておるんじゃ阿呆」

「くっ……。簡単に言えば、そうだな……。"それ程大きく異質な魔力を持ってすれば、そのくらいの結果は付いてくる"。これ以上は不可能だ」

「つまりはあれか、滅茶苦茶やったんじゃから滅茶苦茶な事が起こっても良いじゃろうとそんな話か」

「貴様の言葉だと馬鹿らしく聞こえてしまうが、まぁそういった理解で概ねは則している」


未だ頭を捻る事を止めず、私の言葉を咀嚼し続けるテンコ。

夜であるにも関わらず、やはりこの女は輝いて見える。

髪の毛、服、瞳。それら全てが自立して輝いている様にしか見えないが、だがそれら全てから魔力は感じない。


「不思議なものだ」

「ぬしの頭がか?」

「2度と口を開くな馬鹿狐め」

「カリカリすると女にモテんぞ。それと馬鹿狐では無い、テンコじゃ」


生きて死ぬ迄に必要の無いこんな問答。

これを続けていかなければならないと思うだけで辟易する。

えぇいやめだやめだ、捨て置けばいい。


「ぬしよ」


しかし、船着き場はまだか。

大体あの給仕達は何故この様な非合法のルートを知っている。我が家で長く寝食を共にした給仕達ではあるが、私の預かり知らない所で一体何をしていたのだ。


「ぬしよ、聞こえんのか」

「えぇい喧しい!黙る事も出来ないのか!」


くいくいとローブを引っ張られ、振り返ればやはり人を見下した様にほくそ笑むテンコ。


「これ以上無駄口を叩くというのならば容赦しないぞ貴様」

「無駄かどうかはぬしが聞いてからにせい」

「何をだ!」

「そこそこに同化しておいた方がいいと思うてな。臭いがするぞ、"2つ"かのう、これは。オスとメス」

「…………距離は」


血の臭いも下衆の臭いも消え、今私の鼻腔を付くのは花の香り。墓前に備える花をと言っていたが、これの事だろうか。


「そこを抜けて、もうすぐじゃぞ。音もする、波の音」

「ハァ……。分かった、同化しよう」


波の音も、潮の香りも感じない。

狐の五感とは、それ程までに優れているのだろうか。

目線を合わせる為に屈んで、前髪を避け、でこを合わせる。


「──何度やっても、慣れんな。私からすればこの能力の方が滅茶苦茶だ」

『ククッ!ぬし程の魔術師に羨んで貰えるのなら、わざわざ呼び出された甲斐もあったというもんじゃて』


別に羨んでいる訳では無いが。まぁ、今はいい。

確かに何か、臭いがする。先程は全く感じる事が出来なかった物が、新たに私の鼻腔を擽った。


「種族は?」

『んー、妾も知らんのぅ……。人では無い、という事のみじゃな』

「それだけ分かれば充分だ」


立ち上がり、大きく伸びを。

先程よりも少し視界の落ちた森を西へ。


段々と濃くなっていく臭いへ向け。

一路、西へ。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「やぁ、別嬪やな。見てみぃレナータ、自分より数段上やで」


「糸目なんも大概にせぇよチコ。何処におんねんそんな奴」


「あかんわぁ、ほんまめっちゃ口悪いな。悪いなお嬢さん、この子育ち悪いねやんか。気にせんといてな」


「ど、何処の田舎者なんだ貴様達は…………」


「誰が田舎モンやシバいたんぞ」


「いやいやレナータやめぇや。田舎モンみたいやから誰彼構わず絡むんやめぇや」



▲▼▲▼▲▼▲▼



テンコと同化し、10分程で船着き場に到着した。

非合法であるこの場には、やはりデュボネ兵の姿は無く。

代わりに私達の前に現れたのは何処の訛りかも分からない言葉で話す男と女。


「僕がチコで、口も目付きも悪いこの子がレナータ」

「あ、あぁ。……あぁー、船を出して欲しいのだが……」

「うーわだーる、せやから言うたやんけもう今日ええんちゃうかて。チコお前ほんまどついたるからな」

「稼ぎ少ない言うて僕の事シバいたん君やろ」

「楽して稼がせろて言うてんねんハゲコラ!」

「ハゲてへんわ貧乳!」

「なっ!糸目お前ほんまバチバチやったんぞゴルァ!!」


人の姿を模しているが、だが恐らく人である為の最低限の知能がこの2人から欠落している事は容易に見て取れる。


『何処の訛りじゃこれは』


私も聞いた事が無い。デュボネが持つ大陸にはこの様な粗暴で頭の悪そうな喋り方をする種族はいない。


「自分乳無いのにこないだ胸元バカーン開いてる服着てたやろ!アレ見えてたからな!乳無さ過ぎて乳首見えてたからな!目ェの毒やからやめろ!」

「あの、おいちょっと……」

「あーキレた。ほんまイッたわこれ。お前ちょっと立て、ほんでちんこ出せちんこ!向こうの大陸まで蹴飛ばしたるからほらはよちんこ出せやァ!!」

「おい、だから聞けおい2人とも」

「処女が無理してそんなちんことか言い出したらあかんわー引くわー無いわー。街で誰も得せぇへん乳首晒す処女貧乳とかしんどいわー」

「チコお前ほんまバチバチやったんねん。てかアレや、お前名前キショいねん。チコやかちんこやか知らんけど紛らわしいねんカスゥ!」

「あぁー!言ったアカンとこ言ったな!そらアカン!アカンぞほんまにそれだけは!なぁ!」

「いや、だからあの……」


一生終わる気がしない……。

『混ぜて貰うか?』

馬鹿を言え。こんな者達と必要以上に言葉を交わしてみろ。みるみる知能指数が下がっていく。間違いない。

『まぁ、ククッ。否定はせん』


レナータとチコ。

淀み無く言葉を発し、取り留めの無いやり取りを続けて2人して胸倉を掴み合う男女。

とびきり頭が悪そうで、いや、間違いなく頭は悪い。


この2人が……船頭?

この喧し過ぎる連中が?


「ほーれはよ出してみぃ!チコのちんこはちっこいんやろ!傑作やわしょーもないねんボケ!」

「ちっちゃないわ!平均や平均!チコのちんこ平均や!」

「うわだっさー!なんで平均ちんこのお前と仕事せなあかんねん!」

「平均以下おっぱいの自分と仕事するこっちの身にもなれや!」

「殺したんねんチコボケェ!!!」




▲▼▲▼▲▼▲▼




『十中八九そうじゃろうな』


「有り得ない…………」


「「…………ん?誰や君」」


「客だ馬鹿者ォッ!!!」





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