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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
面倒なお前
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同胞の傷



「…………」


「どうしたルィンヘン。言われた通りに言葉を綴るだけだ。なに、劇団員のお前からすりゃこんなもん屁でも無ぇだろうよ」


「くぅ……っ!!……お、おぉ……」


「おー?」


「お、……おに、おにぃ……」


「おにぃー???」


「お、おにぃたまと、け、けけっ、結婚するのは……わたちなんだからぁ……」


「Foooooooo!!!!!!!!」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「今はシーナ君と。それと、お恥ずかしながらフーバー様とはそれに似たモノで繋がっていると自負しております」

「嬉しい事を言う嬢ちゃんだ。あんなモノグサとつるませてんのが惜しいぜ。だがな嬢ちゃん、そうじゃねェ」


シーナ君が先日、フーバー様とお話をしていたと語ったのは今朝2人でお料理をしていた時の事。少しややこしい話し方をしましたが、噛み砕けば恐らくは、私の事。

で、あれば。


「肉親という事でしたら、私にはもういません。父は7年前に。母は2年前に亡くなりました」

「そうか。だがすまねェ、もう少し立ち入った事を聞かせてくれ」

「構いません。素性を隠していたのは私です。信用は心と言葉でお返し致します」


父も母も、病気で亡くなりました。何のことは無いただの病です。ですが禄に医者に診察してもらう事も許されなかった両親はそうやって私の前から姿を消します。

血を飲む事が少なかった事もあったのでしょうか。今思えば2人は、私によく飲ませてくれていたように思うのです。免疫力の低下。儘ならない、それだけの事です。


「何処に住んでいた」

「ここより北。デュボネとの国境よりもやや西に位置したミュルクウィズという森です。私達はそこから出る事は有りませんでした」

「どうやって生きていた?……いやすまねェ、言葉に詰まるようなら無理には聞かねぇ。だかな、"今の言葉"を聞いて楽観できる程オイラには余裕がねぇんだ」

「私達の居た森に、何代も前の先祖がそうしたと両親に聞きましたが、噂を流したのです」


たったそんな事で、私達は定期的な吸血を満足とは言えない迄も行う事が出来ました。

浅はかな生物というのは種族に関わらずこの世に生を受けやすいのでしょう。


「街の東に位置したあの森には財宝が眠っている、と。唯それだけの噂です。あの時のシーナ君もその噂を聞いてやってきたうちの一人でした」

「たったそれだけで、か。来たヤツらみんな殺してたのか?」

「えぇ。私達吸血鬼の事はご存知でしょうか」

「無理もねェか。あぁ知ってるぜ、タンカレーが黙ってねェだろうからな」


皆殺さなければ、何らかの形で。

姿や色を変えながら、それは私達吸血鬼を射抜く矢なのか。それとも研がれた刃なのか。将又魔力を持った言葉なのか。

何れにせよ、私達は彼らに狙われ続けるのです。


「だがよォ嬢ちゃん。やっぱりオカシイぜ。アンタの話、全部何処をとってもオイラは"可笑しい"とは思わない。だかよ、それじゃァ、そうだな。変なんだ」

「……変、とは?」


刻まれた目下の傷をなぞりながら。その忌々しさでも思い出すように少しずつ表情を曇らせるフーバー様からは。

怒りなのか、焦りなのか。

そんな不確かな、不明瞭な物がチラつきはじめます。


「最後にもう一つだ。アンタ達は長命で、個体数は少ない。間違いはあるか?」

「1点。長命で有るというのは間違いです。それは私達ではなくサキュバス。私達が人の命の上に成り立っているという結果から尾ヒレが付いた噂に過ぎません」


シーナ君も勘違いしてましたね。

そのせいなのか、そのおかげなのか。

彼と共に生きる事と相成るわけですが。


「個体数の少なさは」

「間違い有りません。私の2代前より吸血鬼は祖父母も併せた5人しか居らず、今現存するのは私1人です」

「そう、か……」


揺れる波のようにゆっくりと動き、天を仰ぎ。そうしてカッとひん剥いた瞳を私に向けます。

大きなギョロ目に茶色の瞳。

そうして開かれる彼の口から。


「アンちゃんには話したんだがよォ。オイラのこの傷は、吸血鬼とその眷属が付けたモンだ」

「……え?」


諭すようにハッキリと音にされる言葉によって。


「オイラが変だって言ってんのはその時期と場所だ」


私は目眩を起こすのです。




「この傷はな。20年前の、ここよりもっともっと離れた西の森で付けられたんだ」




▲▼▲▼▲▼▲▼



「だ、だめだぞルィンヘン……お、おにぃたんと結婚するのは私なんだぞー!」


「お姉様こそダメなんだから、おにぃ……くっ、くぅ!!……おにぃたまは誰にも渡さないんだからぁ!」


「おいおい妹達、俺を愛するのは勝手だが引っ張り合いはよしてくれFoooooooo!!!!!!!!」



▲▼▲▼▲▼▲▼



いくら頭を捻ろうと。


「眷属と、主だと。その2人は名乗った」


いくら思考を巡らせようと。


「オイラは言ったよ。目の前に吸血鬼だなんて名乗る輩が現れたんだ。"どうした?地酒に酔い潰れるにゃまだ早え時間だぞ"と」


私の家族は、お父様とお母様は。


「こっちの質問なんてお構い無しさ。"糧となれ"と、そう告げただけのそいつ等は、オイラの顔面にどえれぇもんをこさえやがった。だが、すまねぇな嬢ちゃん。オイラは死ななかった。少なからず、それだけの力がオイラにはあった」


私に言ったでは有りませんか。

吸血鬼は今現在、私達3人しかこの世に存在しないと。

嘘を吐かれたなんてそんな事、ある筈が有りません。私の両親は、そのどちらのイブを掲げても、秤が傾く事は無いのですから。

だとすればきっと、この御方が嘘を吐いているのです。


「何かの……間違いでは無いでしょうか。私の父母は、真実の下に生を受けたのです」

「……聞いてくれ。オイラはな、あんたの使うそのマスケット。そいつの柄に見覚えがあった。思い出したのはあんちゃんの"舞台"を見た後さ。奴の話したアンタ達の関係性と、嬢ちゃんの"ソレ"とが繋がった」


左の腰のホルスターに丁寧に差し込んだマスケットには、私達吸血鬼に代々伝わる紋章が刻まれています。過去私達が魔法使いの指示の下迫害を受けた折、血祭りにされていく同胞へ向けた、それはメッセージの様なものだと言い伝えられました。


「見覚え、ですか?」

「あぁ、奴らが持ってたマスケット、それと片刃のナイフに刻まれていた。覚えてるぜオイラは。嬢ちゃんのそれと全く同じ模様さ」


おかしな話です。ほら、有り得ません。


「……私達吸血鬼が扱うのはこのマスケット。吸血により蓄えた限りなく魔力に近い"それ"は、銃身を駆け。銃口から放たれた"それ"は、平穏と安寧を彼の者の死によって告げるのです」

「嬢ちゃん……」


なんでしょうかそのお顔。やめてくださいよフーバー様。先程までの貴方に戻ってください。そんなお顔はまるで。"物知らぬ幼児を哀れむ"ようなお顔では無いですか。


「私達聡明な吸血鬼に、刃物なぞ必要有りません。これ以上、我々吸血鬼の品位を穢す様なお言葉は控えて下さい」


チリチリと先の方から火照る私の身体は言う事を効かず。右手で構えたそれに少しずつ、我々の。過去先祖達が憎き魔法使い達に放ち続けた、我々の"誇りと血"が込められていく。


「ソイツを仕舞えとは言わねぇよィ。だが引き金を弾くのは、オイラの言葉を聞いてからでも遅くはねェ」


斯くも人間とは、どうしてこれ程迄に他を圧倒する力を持つ存在に成ってしまったのか。"隠し子"であれ、"剣"であれ、元の種族は人間です。

過去より今、彼等が世界を股に掛け跋扈し続けるに至ったのは、ただ単にその個体数の違いのみです。

故に、幅を取り。故に、他を殺め。

私達吸血鬼であれ、姿形はそれらと何ら変わりは無いのです。

それは元より準備されたこの世界の仕組みであり、決まり事。抗う程に自らの無知を恥じる様な行いなのです。私達吸血鬼は、そのように語り継ぎます。人間と吸血鬼の差を、その程度のモノだと。


「嬢ちゃんだってまだ餓鬼なんだ。親を亡くして悲しかったろう。1人で生きるのは、辛かったろう」


柔らかな言葉とは裏腹に、ですが彼は、私を掴んで離そうとはしてくれません。

"この場"からも。"この時"からも。

1馬身程距離を保ち続けているのにも関わらず。武器を構え、彼を眼前に捉え続けているにも関わらず。


「嬢ちゃんには、まだ足りないモンがある。まぁ事情はどうあれ"アレ"と旅をする事になったのはそんな風な嬢ちゃんにはある種救いだっただろうョ」


先程まで自身を火照らせていたものとは違う。

言葉と間で。その場に生を打つ全てを灼き切ってしまう程に張り詰めた緊張が、前身も後退も許さずに、立ち尽くす事を強制させ。

私へストレスを与え続けるのです。


「変わりゆく世界の景色を、丹精込めて描き上げられた絵画なんかとは違っていくそんな世界を。渡り歩く為に、今の嬢ちゃんに必要なのはなァ……」


逃げ出したいとか、そんな事では無いのです。

ただ唯一、"死ぬのは嫌だ"なんて思ってしまう息詰まった状況を作ったこの人間を見れば見る程に。

世界の仕組みを、その枠組みの中でしかやはり生きる事は許されないのだと思ってしまうのです。


「まぁ、その辺は聡いあんちゃんの事だ。その辺に関しちゃオイラなんかよりもよく"分かってる"。きっといつかは似た様な話を聞かされる事になったろうさ。どうだ、アイツが愛しいか?冗談で言ってんじゃァねぇぜ。愛しいアイツを煩わせたいか?」

「そ、んな……えと、それは──」


愛しています。彼は、私を受け止めます。どうしても狭量そうに見える彼は、それでも器一杯を使って私と生きる事を続けるのです。

しかしそんな彼に、私は。



「聞けッ!アビゲイル・ウィットビー、お前はな──」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「あ、悪夢だ……悪夢なんだ、これは……」


「目ん玉開いて夢見るなんて器用だな妹」


「ティベリオ……私達姉妹の願いよ……この男の息の根を、止めなさい……私達は、もう……」


「あ、死んだ。だそうだぞ、ティべっち。俺の妹達の願いを無碍にしないでやってくれ」


「君は本当、容赦が無いな……」


「ケッ!知ったこっちゃねぇ。さぁ4回戦だ。お前もさっさと裸踊りの準備に取り掛かれよ」


「それは確かに悪夢だね……」



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