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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
面倒なお前
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泣きっ面にゲロ



「嬢ちゃん器用じゃねェか。ミリアも大概だが、偶にはああいった違う味付けも欲しくなる」


「いえいえとんでもない」


「どうだ?コックとして。なんなら女優でもいい。というかオイラはそっちでアンタを雇いたい」


「とても素敵なお言葉です。ですが。であれば、雇用主に話を通してくださいな」


「ドゥハハハ!!テメェらは2人とも似たような事を言う」


「?」


「いいんだ、こっちの話さ。んでよ、こっからだ」


「えぇ」


「嬢ちゃん。家族はいるかい?」



▲▼▲▼▲▼▲▼



なんとなく、今日はアビィと一緒に居たかった。今朝よりも軽く、今朝とは違う香りを放ち股座に鎮座するルィンヘンを抱き抱えながらそんな事を思う。


「ちょっと」

「あ?」

「"それ"やめてちょうだい」


口元に持って行った煙をピンっと跳ねられ、ぼんやりと不条理と対峙する俺は口を開く。

生きるという事は、反抗と受容のバランスを。その裁量を、自らの意思に従って繰り返し続ける事だ。


「だったらどけ」

「シーナは馬鹿ね。"それ"、どちらも見えていないのかしら。私は今読書中なのよ?それなのに何故わざわざそれを中断し、新たに落ち着ける場所を探して奔走する事を良しとするのかしら」


もうこんなやり取りも何度目だろうか。

コイツらと寝食を共にし始めたのはそこまで前じゃ無いのにも関わらず、コイツとのこういったやり取りは既に体感100回を越えているようにさえ感じてしまう。


そんな日常と化したやり取りに、俺はある種の安心感というか。なんというか。そういった物を覚えてしまって。

あぁ、こんなのも悪くは無いのかななんて。

柄にも無く───。


「思うわけねェだろうがァッ!!!」

「うひゃぁっ!!」


聖天使諸共力の限り立ち上がれば、目の前には少し丈にあってないようなローブから覗く白い布。


「さすが聖天使ルィンヘン様。その御心と同じくして身に付ける下着も真っ白だと。肌と似合った素晴らしいコントラスト。100点満点。星三つです」

「……っ!!へ、変態ね……ッ!変態なのねやはり貴方ッ!!」


ケッ!!!


「てめぇみたいなガキに欲情しちまったらお終いだボケ!」

「なっ、誰が!──ひやぁっ!ち、ちょっと離しなさい!降ろして!」


そのまま脇腹辺りをガッツリホールド。肩の上まで抱え上げ、クルクル回る聖天使と俺。


「こ、殺すわよアナタ……やめて、酔ったから。悪かったから……」


これに懲りたら目上への態度を改める事だこの野郎。


「あ、ヤベ……」


酔った。


「ちょっ、ちょっと待ちなさいアナタ馬鹿なのせめて私を降ろしてか──」

「オロロロロロ」

「イヤアアアアアア!!!!」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「な、何をやってるんだ君達は……というかこの状況は……」


「そこの大馬鹿者に聞きなさい。最悪よ。掛からなかったから良かったものの、人の吐瀉をあんな間近で見る羽目になるなんて。悪夢だわ」


「朝飯全部出てきやがったぜ。ファックだディべっち、水を頼む」


「ハァ……。本当にどうして君みたいな人間がアビゲイルと共にあるんだ……」


「み、水ゥ……」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「さてと、落ち着いたかラーゼン君」

「どうだろうな。ただもし今ゲロっちまう事になったとしても、俺の口から飛び出してくんのはあんたがさっき注いで来てくれたよく冷えた小川の水だけだ」


やれやれと肩を竦め、まぁ注いできてくれたのはミリアだけどねと補足を入れるそんな所作からも。育ちの良さというか、"親の教育"の賜物なのか。洗礼された舞台育ちのコイツの姿は登り切ろうかという太陽の光によく映える。


「それで?そろそろ聞かせてくれてもいいんじゃねぇの?俺は"テメェら"みたいな連中に囲まれる程悪事を働いた覚えは無いぜ」

「悪事どころか仕事もロクにしてないもんね」


黙らっしゃい。

……えーっと?今のがラエルノア。その隣、俺の正面に立つのがティべっち。それからコーエン、医者ゴリラとトールキンもいて。


「ここの伝統というか、まぁある種余興だね。諦めてシーナ」

「"これ"をやる時の条件は1つ、親父が家族と認める事。オイラ達全員通ってきた道だ。諦めな旦那!」

「ほら見ろアビィのアホめ。だからロクに契約書も見らずに仕事なんて受けんなって教えたんだ」

「自らの愚かさを受け止める事もしないなんて。見上げた男ね」

「口移しでゲロってやろうかゴラ」


事の発端はお前だって事俺はまだ忘れてないぞ。

他にもいるな、今のがミリア、グルゴ、ルィンヘン。

この旅でそこそこ絡んだ連中が揃ってる。残りの奴らは俺達をぐるっと囲んで腰掛け、思い思いにこの喧騒の行く末を、それこそ余興でも楽しむ様にケラケラと見つめている。

答えは見えてる。だがそれを手繰り寄せる事を俺の頭が拒んでいる。


「まるで、"即席のリング"だ」

「まぁ、バカでもその程度は分かるのか」

「コーエンはどうしてシーナにそこまで喧々してるわけ?」

「ミリア聞けよ、どうやらコイツアビゲイルちゃんに惚れてるらしいぜ」

「ハァーやだやだ。ウチの劇団は節操無しばっかりかい」


モテるなウチの相棒。俺に恋慕の情を向けてる奴はいないのか。


「で、いい加減にしてくれ。その"伝統"っての、回避する方法は無いのかい?」

「諦めなさい。そもそもこうなってしまった原因は貴方達2人にあるのだから」

「ハァ?」


だったら邪神に連行されたアビィも連れて来いって話だ。不公平にも程がある。

今から始まんのは、絶対に肉体言語で訴えかけてくる系の催しだ。そう、バカでもわかる。


「"契"を交わす。その儀式に、僕らちぇりーぶろっさむの面々は剣を突き立て合う事を選んだんだ」

「どうしてわざわざ契る相手の首と胴体を切り離そうとするわけ?馬鹿なの?アホなの?人付き合い下手なの?」

「血の気が多い連中だらけってのはこの前の見て分かったでしょ?まぁウチの方針だから。声掛けたら案外シーナとやってみたいって奴らが多くてさ。勝ち抜けね」


ほらな、ファックだ。

おかしいと思ったんだ。水を持って来てくれたティべっちに手を引かれ、礼を言う間もなく頼んだ覚えの無い俺の鎌まで押し付けられて。

で、今だ。


「じゃあ不戦勝でいい。俺の仇はきっとアビィが取ってくれるからさ」

「「「「「「ダメ」」」」」」


仲良し家族め。そこまで声揃えて言わなくたっていいだろ。


「連勝記録はトールキンとティベリオが持ってる。で、今んとこのベットは0勝が10人、1勝が12人、2勝が3人、3勝が2人。団長は5勝はいけるっつってたよ」

「賭けの対象にされてんのか俺は」

「私達結構暇してるからさ」

「セリフの練習でもしてろ」


だんだん、アレ。

イラついて来た、うん。何が俺の神経を逆撫でてるかってアレよ。

0勝が、10人?


「待て、そもそもこっちに得がねぇ。勝ち抜けたらなんだ?ここの連中みんな俺の言う事聞いてくれんのか?」

「お前、勝ち抜ける気でいるのか?バカめ。やはりバカはバカだゲロった所で治らない」

「テメェの口の悪さだってゲロったってクソしたって治らねぇだろうな」


アイツ完全にイキってやがんな。ルィンヘンの絡み方も大概だがコーエンのあの感じは明確に敵意だ。

ルィンヘンのは何かこう、犬と飼い主みたいな。

……うん、多分そんな感じ。


「誰が犬だ!」

「呼んだか旦那!」

「はぁ、バカも大概にしてくれ」

「分かったラーゼン君。君の諦めの悪さと心根の汚さは僕らも良く知る所、君が勝てば現実的且つ人道的なレベルで何か願いを聞こうじゃないか!」


俺今ディスられたんだよな。だがまぁ確かになんとなしに俺の事分かってんじゃねぇの。


「あぁ分かったよクソッタレ。ついでに俺も賭けさせろ」

「0に張って手抜きなんてクズ臭い真似はやめてくれよ」

「先ずは"ファガット"、お望み通りお前はファックしてやる。で、俺が賭けんのはここにいる全員のマヌケ面、今回の給料丸ごとだ」

「本当に口汚いのね貴方。いいの?アビゲイルに内緒でそんな事をして。叱られても知らないわよ」

「これから2人して豪遊出来るってのに、どうして稼いで帰って来た相棒を叱るんだよ」


そろそろこのイライラを、"コイツ"に乗っけて振り回したい。

それに、さっきの言葉忘れんじゃねぇぞ。


「そろそろいいかい?先方はオイラだ。普段はラエルノアとコンビ組んでるが、なにも戦えないって訳じゃないんだぜ」

「おぅグルゴ君、尻尾巻いて逃げんじゃねぇぞ」


腹ごなすも何も飯は腹ん中にゃ溜まってない、全部出た。腕試しなんてなんの興味も無い。"家族"なんてクソややこしそうな集団に帰するつもりもない。コイツらを殺したい程憎んでるわけでも、まして俺には誇りやプライドなんてもん欠片程だってありゃしない。


「先に教えてやるぜ旦那、"10人"のうち、1人はオイラだ」

「そうかそうか。俺も1つ教えといてやる」



ケケッ、ダメだ顔がにやけちまう。



「あ、なんだい?」

「"負け犬"ってのは戦う前から喧しい」

「ヘヘッ!言うじゃねぇの!」



戦う理由はただ1つ。



「イクぜ片目の旦那ァ!」

「早漏なのは勘弁だぜェ!!!」



全員ボコって天使を泣かす。




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