キラキラ輝け、心を燃やせ
「あんちゃんッ……いい加減にしてくれよ!」
「………………」
「後にしてくれ。……ヌゥっ!!オイラは、あんたをプロとして雇った」
「"コレ"はもう、お前の目が節穴だったと証明するには充分すぎる結果だ団長」
「ど、どこまでもお喋りの好きな野郎でェ……ッ!!!」
「商国育ちだ。元来そうなんだよ、俺は」
「話は後だァッ!!シーナ・ラーゼン!刃を振るえッ!」
「俺は」
「一丁前に、一丁前によォッ……ォアアアアア!!!!!」
「…………は?なぁ、おい──」
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狭過ぎる世界はやってられない。果てなく広がる俺のものでもない世界も、面白味なんかは感じなかった。
知っているものが増えれば増える程、俺の心は腐っていくのだ。
「な、なにしてるんだお前──」
だから旅をした。感情の可塑性とでも言おうか。何もかも持たなかった俺は唯一それに縋って旅を続けた。
「感傷に浸る暇なんかァねェ!目眩く変化を追い続け、そうしてオイラ達はオイラ達の心を創るんだ……!!」
「ギィ、ギィィアアアアア!!!」
引き裂かれた様な悲鳴は少しずつ、俺の視界をクリアにしていく。俺の心を刺し穿つ。喚き散らす男の言葉が、確かに俺の耳朶を叩いた。
「嬢ちゃんはまだ死んじゃァいねェ、まだ早いぜあんちゃん……」
「な、なにが……というかお前、"それ"……」
規格外な凶器の殴打を受け続け、それでも尚。身体を粉にして俺達を庇い続けた男は、それでも尚。
「あん、ちゃんよォ……テメェが、言ったぜェ……ッッ!!」
瞳を燃やし、俺の心を叩くのだ。殴り付けるように、蹴手繰り上げるように。甘えなど許さない。そんな風に。
「"導火線は、何処にあるんだ"」
「……な、なにを」
光り輝くその腕は、俺を掴んで離さない。
目一杯に伸びて尚。それでも強欲に、形振り構わず、有無を言わさず、燻っていた"それ"を引っ張り上げた。
「───……心をッッ!!!!」
「おいお前!"何をしてんだ"って言ってんだぜ俺は!!」
男は一瞬の隙を付いた。
何をやっても目の前に立ち塞がる大男に苛立ちを覚え、オークは凶器を天高くに掲げた。必要以上のその大振りは、歴戦の強者の勝利を確実にする隙になった。
右腕を、凶器を携えたその腕を男はいとも簡単に"引き千切り"。
オークの背後に回り、デカすぎる胴を、自らの両手両腕で締め上げ。圧殺するように締め上げ。
不意に逆流を起こした血液によって、オークの目は血走った。
声だってもう、碌に出せたもんじゃ無い。
そうして少しずつ、両人の体重が移動し始める。
少しずつだが、後ろ、後ろへ。
そのまま男は、俺を睨み付けるのだ。
燃え続けるその瞳から。
俺の心は逸らせない。
そうやって、どんどんと。
空気と、空間と。
今この時に、同調した。
「心を、燃やせェェエエエエーーーッッッ!!!!!」
まるで、"燃え広がる炎"の様に。
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「め、めちゃくちゃだ。有り得ない……有り得ねぇぜ、"こんなもん"は……」
だが、瞳に映るのはいつも事実だ。これは、夢なんかじゃねぇ。俺が1番よく知ってる、俺の世界の在り方に他ならない。
「クソッタレが。高くつくからよォ、こいつァテメェらの給料から天引きだ」
あのバカげた寸尺のオークの頭を砕いたんだ、今俺にこうして話しかけるこの男は。武器も使わず、身体一つで。俺達に一つの危機も寄越す事無く。
「い、今のは……」
上体を、オークを抱えあげたまま。この時点で"イカれて"やがるが。あろう事かそのままコイツは自分の身体を弓のような形に反らし、オークの頭を地面に叩き付けた。
めちゃくちゃ過ぎて、何だかもう。
規格外過ぎて、何だかもう。
「サイコーだったろう。覚えておけ、恐怖と勇気は感染する」
「あぁ、違ぇねぇ……」
生まれて初めて見たぜ俺は、あんな戦い方。
あれはもう。あんなのはもう持ちうる身体能力の全てを使ったただの暴力だ。
「小賢しいクレバーなあんちゃんには、一生出来ねェ戦い方だよ。ドゥッワッハハハハハ!!!」
「いや、そもそも……」
やろうと思わない。サイコーにイカしてっけど、不可能だ。
「テメェは賢い。そんでもって、あんちゃんのそれは"よく冷えてる"。だがよ、どーもここ一番での魅力は感じない。そこで伸びてるあんちゃんの相棒が、それをどう見てるかは置いといてなァ」
──そうだ、アビィ。
ハッと振り返り相棒の安否を確認。だが未だその瞼は閉じられたままに、傍らに寄り添うルィンヘンは何か語り掛けるように額に汗して詠唱をやめることは無かった。
「テメェの頭は、腐らねェ。冷えてやがるからな。……だがよォ、あんちゃん」
呆然と立ち尽くす無力なだけの俺に、それでも語り続ける男は腕を伸ばし、俺の頭を盛大に引っぱたいた。
「いってッ、何しやがん──ウグゥッ!!」
「だ、団長!?騒がないでちょうだい。貴方これ以上怪我人を増やすつもりじゃないでしょうね!?」
有無を言わさず胸倉を捻り上げられ、酸素を身体に取り込む事さえも許されない。
情けなく、宙ぶらりんになって。
ようやっと、悟ったのだ。
「……テメェ、事もあろうにオイラに女を語ったなァ。劇団ちぇりーぶろっさむ劇作家兼団長の、このオイラにだァ。だがその時オイラは言った筈だぜ、女ってのは分からねェと。どうした、考えるのはテメェの十八番だろうよォ……」
「ハッ、離せェ……ッ」
振りかぶる拳は、アビィの顔よりもっとでかく見えた。
動けない。死ぬな。いや、死ぬね。
「覚えておけよクソガキィ……ッ!!テメェの女の始末くらい、テメェで付けやがれってんだ」
何を、言ってんだ。
「曲がったままでいい。それは、純潔で無くたっていいのさ。だがな、2度は言わねェぞオイ。それをあんちゃん達が"正しさ"と呼ぶんだったらよ。どんな姿だって、それを"キラキラ輝いてる"と呼ぶんだったらよォ──」
「ぐっ、……ハァッ、息……っっ!!」
息が出来ない。必要不十分にしか酸素を供給されなかった脳がどんどんと、反抗の意思を示す様にドンドンと心を叩く。
「なら、せめて。"輝いた先は2人で進め"」
「おまっ、離……っ!ぐぅっ……!」
でも、まだ響く。
頭と心に音は響く。
まだ生きてるし、まだこの音を。
聞いておかなきゃ。
「"その手を掴め、握って離すな"。ソイツにゃきっと、テメェの大嫌いな言葉が必要になんだ。覚悟だとか、ケジメだとか」
「わ、分かったから。息がァ……!!」
そんな、気がする。
あぁダメだ。
"オチる"。
「憧れもしねェ男に、女を語る資格はねェ」
「そんでなあんちゃん、心ってもんは──」
生まれて初めてだぜ。あぁ畜生。
漸く拳が、獲物を捉えた。
「はっ、はは……」
きっと俺は今、笑ってるんだ。
「メラメラ燃やさなきゃ腐っちまうんだゼェェェエエエエエーーーッッ!!!!!」
「ゴフゥッ!!!」
──"親"に叱られんのは、初めてだ。
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「あ、貴方……どうするつもりなの、"コレ"」
「"大将"をやったんだ。もって5分もねェ。直に鉄火場の熱も冷める。そうすりゃ残ってんのは消化不良を起こしたオイラの家族達よ」
「いえ、あの。たった今消化不良どころかこの世に魂を留める事も儘ならなくなってしまった男がいるのだけど……メコォッ!!って音がしたのよ?人を殴って」
「男なんだろそいつァ。唾付けてりゃ治る」
「彼の意識があったら発狂しそうな程に暑苦しい治療法ね」
「そうだルィンヘン。てめぇも後で説教だ。時と状況を考えろ。……ケッ!ここ何日かだけでこんな事を教えんのは何度目だ」
「えぇ、そうね。甘んじて。彼女も救って、"コレ"にも謝らなきゃいけない」
「フンッ!必要ねぇんだそんなもん」
「いつにも増して猛々しいわね。どうして?」
「迷惑掛けてナンボなんだ」
「家族ってもんはよォ」
「くすくす。えぇ、そうね」




