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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
邪神劇団御一行
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死神vs邪神─吸血鬼的な恋愛事情─



「そうだとすりゃあ納得がいく。なるほど火薬の臭いなんてしねェ訳だ」


「はてさて、何の事かね」


「あんちゃん自身がネタばらししたじゃあねェか。あんちゃんがいなきゃ生きられねェと」


「俺はこうも言ったぜ。奴隷がいねぇと主人にはなれねぇ」


「洒落ばっか言ってんなよ。さァ、話してもらうぜ。なんだってあんたは"あんなの"と一緒に旅なんてしてやがんだ?」


「うちの主人にひでぇ言い草だなおい」



▲▼▲▼▲▼▲▼



所詮茶番は茶番だったか。煙に巻くのは得意な方だと思っていたが、まぁ神様に通用しねぇのは当たり前か。


「あんちゃんだって死神だろう?なに、ちーとばかしオイラにも色々あっただけさ。あの連中はあんちゃんの狂言にクルクル回ってやがるさ」


勇者様!って慕われるより死神様!って慕われた方が俺はイケてると思うんだけどなんかこうあれだな。そんな事も無いんだな。いや呼ばれる奴にもよるのかなこの場合。黄色い声援のサンプルにしては些か色が濃すぎる。


「オメェは何にも語んねぇってのはフェアじゃねぇなぁ」

「バカ言え。オイラは家長で雇い主だ」


不利だな。コイツの言う通りだ。

さて、どうやってトンズラこいてやろうかね。アビィの元まで走りに走ったって俺の体力なんてたかが知れてる。辿り着く前に俺の首から上はぱーんだ。

うーん思い付かん思い付かん。


「無い頭を捻ってんじゃあねェ。正直に話せ、オイラに嘘は通用しねェ」

「失礼極まりねぇなテメェ」


まだ、敵意や殺意は感じない。だが間違いなく、答え方を一つでも誤れば、それを振り回して襲ってくる。

そう感じさせる程に鬼気迫り逼迫したこの状況を、顔と声だけで作りあげてやがる。

流石は団長やべぇなこりゃ。


「あたぼうよ。オイラは家長だ。不確定要素をのさばらせて置く余裕なんてこれっぽっちも無ェのよ。まず第一に、奴らの安全だ」


いい親だね。ちっと過保護が過ぎる気もするが、ここまで甲斐甲斐しくされりゃ慕われるのは時間の問題だろう。

現に一家の大黒柱はその不確定要素とやらを排除しようとこんな夜更けから躍起になってる。


下手打ちゃアビィが。

もっと言やどっちも死んじまう。


やっべぇ……。


思考を止めるな。頭を廻せ。

嘘は通じない。

組み換えろ。言葉と理屈をこねくり廻せ。


"らしく"いこうと決めたばかりだ。


「まぁ、あんたのお察しの通りだよ。だが、俺達は不確定要素とは相成らない」

「アァ、いいぜ。流石はアインベッカー出身者だ。"一辺にどっちも"聞かせてくれんだからよォ……」


ここまでは、な。


「さて、どっちから聞きたい?」

「そこんとこも"そっちの流儀"に合わせてやる。オイラは商国出身じゃねェが、なに、そういう物言いは嫌いじゃねェんだ」


なんだ、違ったのか。

しかしこいつ、上手いな。悪くない。

この場に於いて、"俺みたいなのに対して"、今の言葉は満点だ。

流石言葉を綴って飯を食う作家だけはある。

必要な時、必要以外を口にしない。

それを為せるのは、センスと頭脳と経験だ。


「汚ねぇなお前……」

「ガハハ、なに、ウチは元来自由な家風なんだ」


だったら毎度馬鹿みたいに出す野菜の量を減らせ。

あぁクソ。どうしたもんか。

やっぱり喋りじゃ何枚もこいつの方が上なんだ。そう自覚させられる毎にまともな廻りからズレちまう。

落ち着け。少しでも向こうに語らせろ。

求めている答えを導くんだ。


「俺達みてぇのに、会ったことがあんのか?」

「どこまでも口の減らねぇあんちゃんだな。……だがまぁいい。それがテメェの流儀だってんなら従ってやる。アァそうさな、オイラは吸血鬼に会った事がある。随分と前の話だがな」


ようやく喋るか。

願わくばその調子で続けてくれ。


「その顔を見るに余程ブサイクな奴だったみたいだな。その吸血鬼ってのは」


酷く顔を顰めている邪神は、忌々しそうに。それでも警戒の糸を緩める事は無く、昔語りに勤しんだ。

"こいつ"がこんな顔するんだ。よっぽどなんだろうよ。


「アァ、最低だった。オイラはあれ程のバケモンを、あれより他に見た事がねェ。鬼とはよく言ったもんで、歳もあんちゃんらとそう変わらなかった」


アビィの親戚なのか、それともそれとはまた別の家系か。だが個体数の少なさで有名な吸血鬼からすると、恐らくはアビィの親戚に当たるんだろうね。



だとしたら。

ここにあいつが居なくて良かった。



「嗾けて来たのは向こうだった。まだオイラが作家んなる前の話だ。オイラが南西の森で武者修行していた時の事よ。何処からともなく現れた2人組のソイツらは、何も言わずに俺目掛けて引き金を弾いた。すんでのところで躱したオイラは聞いたよ。"なんだテメェら、何が目的なんだ"って」

「物盗りにも見えなかったソイツらはこう言ったんだ。"我ら高貴な吸血鬼の糧となれ"、と」



今の少し、気持ちが悪いな。

俺はどうしてそう感じた。

違和感の正体はなんだ?



「そこからは必死だった。殺さなきゃ殺されんのはオイラだった。だがオイラはここでこうしている様に負ける事は無かった。男の頭を殴り抜いて、怯んでる女の腹を引き裂いてやった。だがそんかし、"コレ"だ」


そうして彼は、顔のとある部分を親指でなぞった。出会った時から気になっていた、顔のど真ん中を横一線に伸びる刀傷。無骨な邪神をそれたらしめるのに一役買っているその傷はその時女が所持していたナイフで出来たものらしい。


「俺は嫌いじゃないぜ。あんたの"それ"は、あんたによく似合ってる」

「オォ、オイラも今となっちゃあ気に入ってるがよ。……ほんでその後オイラは調べたのさ。分かる範囲、手の届く範囲で、吸血鬼の事を」


殺せたんだからそんな事しなくてもいいだろうに。

根が真面目なんだなこいつは。


「あいつらは吸血鬼とその眷属だ。俺が読んだ書物にゃそう記してあった。吸血鬼と永遠の命を分かち、眷属となった物はまるで人じゃねぇ程の力を得る事が出来ると」


ふむ。"これ"どうかな。


「オイラだって腕の立つ方だったが、あの時のオイラは死を覚悟した。それ程に凶悪で、最低だった。だからよォあんちゃん。オイラはアンタらをこのままのさばらせる訳にゃいかねェんだ。もう、分かるだろう?」


まぁ、やってみるに越した事は無いか。


「──ケッ!だったら簡単な話じゃねぇか。その辺の餓鬼でも思い付く方法だぜ団長」


煽れ。正しい巡りから逸らしゃいい。


「あんたのその拳で持って、俺を殺せりゃ俺は"イイヤツ"で!あんたが死ねば俺は"ワルイヤツ"ってねェッ!」


思い切りよく鎌を振り上げる。ポーズでいい。それが"ハッタリ"である必要は無い、焚き付けてやればそれでいい。スキができればそれでいい。


そうすりゃ後は目を潰すなり腱を切るなり、やりようはある……けど……。


「ドゥハハハハッ!あんちゃん、演技のコツを教えてやらァ!余計な事なんて考えねぇで中に入り込むんだ。そうすりゃ客は片時もアンタの演技から目を離すことなく酔いしれるだろうぜ!見てくれもそこまで悪くねぇんだからよォッ!」

「ダメですよねー!」


やっぱりノッて来ないか。

いやまぁうん、望み薄なのは分かってたよ。てかそもそもノられても俺も困るけどね。多分負けるし。死ぬし。

見通しの悪いとこでの賭けは良くないな。


「有難く受け取れ。筋の見えねぇ本は書かねぇこった。先輩からの教示だよ」

「ありがとよクソッタレが」



やり方を変えなきゃな。

思考を止めるな。



「少し時間をくれ」

「アァ。だがこうしてる間にも、あんちゃんとこのが何しでかすか分かったもんじゃねェからよ。長くは待てねェ」

「無茶言うぜ、ったく」



頭を廻せ。



▲▼▲▼▲▼▲▼



ふと思い出す。先程の邪神の言葉の中に貼り付けられていた"違和感"の事を。


そう、確かアビゲイルは昔出会った時にこう言っていた筈なんだ。"高貴で聡明なウィットビー家はその繁殖方法を理由に迫害を受け、そうしてこの森でひっそりと生きるようになった"と。

この言葉を述べた吸血鬼と、さっき邪神の言葉に現れた吸血鬼とでは明確に違ってしまっている。南西の森ってのが一般的な地図で見る配置での言葉ならば、ウィットビー家の吸血鬼である可能性は低いと言っていい。彼らの詳細な生き様は知らないが、仮定の話とすればそれで十分だ。

それともう1つ。



眷属、ね。



ここの所はアビィから詳しく聞いた事がない。そういった契約体系が存在する事は彼女自身が語ってくれたが、その実どんな物なのかはよく知らない。

俺はそれをあの時"終身雇用奴隷制度"と表したが……。


"奴隷と主人"か。

よく聞くな今日はこれを。


「そろそろかい?さっさとしなきゃ天道様が顔出しちまう。こんな話、オイラ達だけで済むんならその方がいいだろう。リミットだ。猶予はねェぜ」

「あぁ。だがもう少し俺に付き合って貰うぞ。あんたもしっかり酔いしれてくれ」

「あんちゃん"西"だろ?あっちの方の酒は口に合わねェんだが……いいぜェ、しっかり酌してくれよい……」



もう、これだ。

というかこれしか無い。

というかそもそも最初から"こういう風に"すれば良かった。



頼むからマジで酔い潰れてくれよ団長。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「テメェは嘘が分かるんだろう。だがら今から語んのは真実だ。どこ一つ取っても混じり気のねぇ俺の言葉だよ。心して聞け」


最後までこうしたく無かったのは、ただ単にアレだ。


「御託はいいから早くしてくれ。眠くなっちまうぜ」


要するにアレなわけだ。

背中が痒くていけねぇ。


「そう言うなって。まず第一に、俺はアンタが"思ってんの"とは違う」

「ホゥ、どうだか」

「お前自身が言ったんだ。俺は死神、眷属なんかじゃあねぇよ」


ここの間違いに関しては是正しておかねぇと、後々どえらい事になる。そもそもアビィの言葉を借りるなら、俺達はそんな固っ苦しいもんでは繋がってない。

もっとこう、柔らかくてふわふわしてる……。


──え、何言ってんの俺バカなの?


「フーム?……続けろ」


……あ、ダメだダメだ。何処ぞの先輩に教わったばっかりだ。

中に入って、余計なモンは全部外だ。

うん、そうだな。煙でもやろう。大丈夫、筋は見えてる。

なに、色恋を語るくらい、ベッドの上で慣れっこだ。


だがどうしてこう今回のはムズ痒いもんかね。


「そんでもって第二に、そうだな……。俺とアビィの間に"吸血鬼的な事情"がある事も、これは間違いない。だが、その実それはあんたの知識とはだいぶ違ってる筈だ。俺もそこら辺はあいつに聞くまで知らなかったからな」


俺も丸くなったもんだなチクショウ。

せんきゅーあびぃー、ふぁっきゅーあびぃー。


「オォ、悪くねェ……。さっきみてェに最後に"すっ転げんの"だけはやめてくれよ」


元より俺だってそんな結末は御免だね。すっ転げて邪神にハラワタ引き摺り出されるなんて、バッドエンドにも程がある。

あぁ、いいじゃねぇの。煙が美味い。余裕もある。


「まぁ聞け。後はそうだな、きっとこれから話す話はお前が"喉から手が出る程欲がってる代物"なんだ」

「──ハァ?」


そう、きっとコイツは"そういうモン"だ。

ゆっくりだ、ゆっくりでいい。俺のペースを崩すんじゃねぇ。元よりこいつはオーディエンス。客の顔色伺って、誰が役者に酔いますかって。


「イイ顔してんぜ。んでもって、そろそろ山だ」

「聞かせろ」


見ろ、"興味"に変わった。瞳の色が少しずつ。

客の視線が釘付けだ。俺の一挙手一投足に、呼吸さえをも委ねてやがる。いい気分だ。昼間も思ったが役者ってのはなかなかどうして悪くねぇな。



「なぁ、団長よ」



さぁ、詰めだ。

トチんじゃねぇぞ。



「お前、"恋の始め方"を知ってっか?」

「…………心だ。何しろ恋なんてもんにゃあ"ソイツ"がねぇと始まらねぇ。どうだ、ビンゴだろ?」



──釣れた。

ノってきやがった。たまんねぇ。あの時大笑いしながら俺を一蹴した邪神が、俺の言葉にノってきた。

たまんねぇたまんねぇ。


「あぁすまねぇ言葉が足りなかった。そうじゃねぇ、俺が聞きたかったのはつまり──」



ここだ。

間を取れ。空気を掴め。



「──お前、"吸血鬼的な恋愛事情"を知ってっか?」



どう、だ…………?



「…………いやなに、オイラはとんと愛だ恋だに疎くてよォ。さぁ、次だぜあんちゃん。トチんじゃねぇぞ、次で詰めだ」



あぁ、悪くねぇ。たまんねぇ。

こりゃあいい酒が入るぜおい。



▲▼▲▼▲▼▲▼




「俺が知ってる"それ"にはな、心なんてもんは必要ねぇ」


「そんなもん全部すっ飛ばして、"そいつ"はな」


「煙の味するキスだけありゃ」


「他には何も要らねぇんだ」


「俺達は、そんな物好きな"事情"で繋がってんだよ」




▲▼▲▼▲▼▲▼





「クソッタレが……これだからそっちの酒は好かねぇんだ」

「介抱しろ。悪酔いしちまったよ、あんちゃん」





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