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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
邪神劇団御一行
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現場検証



「グルゴ!周りに何かねェかもう一度調べろ、何かあればすぐに戻って報告だ。お前の故郷はオイラが居る場所、錦捧げてぇならオイラの目の届く範囲でなきゃ許さねェ」

「アイアイサー!」


もうほんとにただの犬っころにしか見えなくなる程に犬々しい所作のグルゴ君を眺める事もそこそこに、現状把握に務める。


「そんなに新しいモンじゃあねぇんだろうよ。グルゴがあそこまで近付かねェと分かんねェってんじゃ4、5日前と考えていい」


それでもよっぽど俺達よりも早く血の匂いを嗅ぎ分けたグルゴ君。なんだか煙吸ってたのが申し訳なくなってきた。ごめんねグルゴ君、帰ったらお肉に付いてた骨でネックレスでも作ってあげるから。


「どう見るよ、護衛の騎士さんよォ」

「バケモノの類じゃあねぇだろうなぁこれ」


ここ数日の旅の道程同様に現場であるここも荷馬車がギリギリ2台横並びに動けそうな幅。対向より向かってくる荷馬車が無ければおおよそはこの荷馬車とはもう形容し難いモノと同じく道の真ん中に舵を取る。

対向してくる荷馬車にやられた可能性はこの感じじゃあ低いだろう。縦並びに共に移動していた仲間に背中を突かれればまぁここで死ぬ事もあるか。いや、無いかそんな奴とはすれ違ってないし。


「足跡がねぇなァ」

「武器を引き摺ってる跡もねぇ」


この近所にオークの寄合所がある事は確定事項として、だ。この荷馬車は運悪くオークに襲われ犯され食い散らかされしちゃって無惨にもボロボロにここで人生のピリオドを打たざるを得なくなったとしたら、だ。


「情報屋は?」

「いんや何にも。オイラが聞いたのはここの荷馬車と棲家までの大体の所要時間、それと奴がオイラの処女作『鴻鵠の髪留め』からのファンだって事だけだ」

「何それつまんなそう」


俺達の言うように足跡が付く。現に心清らかなハゲオークことベントルトンさんはここまでの道程にその軌跡を残し続けている。小型な者もいるだろうが成熟したオークと言えばこんくらいのサイズ感。

且つオークが戦闘に使う棍棒というか丸太みてぇな武器を引き摺った跡さえ見当たらない。

ちなみにオークは全部ハゲだ。


「ゴブリンって線はねェのかい?」

「ねぇな。近所にオークの集会所があって、その近所に引っ越してくるなんて」


何よりそんな事する得がゴブリン達には無いだろう。食うものも近しいし、大体ゴブリン自体がオークからすりゃ食いもんだ。

いくらゴブリン君であってもそのくらいはきっと考えられる。長き闘争の末、その程度の頭はあのゴミクズ君達にも芽生えている筈だ。


「後は、よっと」

あんまりやりたくは無いんだけど。

「ちょーっち失礼しますよーっと」


手近な死体をに目を向ける。ひでぇひでぇ、腹の中身が潰れてやがる。オークに踏み抜かれたと言えば誰もがそう信じるだろうがさっきも言ったが足跡が無い。人為的な殺し方にしても外傷を見るに剣や斧を振るった形跡が無い。鏃が埋まってる死体も無ければ何かで殴打されたようにも見えない。しかし如何せんどの死体も食い散らかされているようにバラバラで正直なとこ何が何だか分からないという。

それでも少なからず俺が蹴り転がしたこの死体の腹には引き裂いたような跡がある。剣や槍じゃない。



何かこう、もっと細っこい"何か"に見えるんだが───。



「オォイあんちゃん、これ見てくれ」

「……あ?あぁ」


記憶の海と思考の波に揺られていると、大気の揺れに持って行かれた。


「これよォ、毛じゃねェか?」

「ん、んー?」


俺と同じくして死体を調べていた邪神。生きていた頃の姿形さえ想像の出来ないほどに壊されたそれをまるで赤子を扱うが如く丁寧に寝かし付け、女を抱くように身体をまさぐっていた。

まさか死姦の気がある訳じゃねぇよなぁ……。


「まぁ確かに毛には見えるが……うーん?」


髪の毛にも見えれば衣服の解れが齎したゴミにも見える。何せ色が血でくすんでるせいでよく分からない。


「あー、ング」

「おええええええ!!!正気かよお前キッタネェエエ!!!!」

「ギャーギャー言ってんなよ、近場に水なんて無ェんだから」


にしたってなんだかよく分かんないそれを口に含むお前はやはり邪神だ。

人間の俺の感覚じゃねぇ。


「……フム、ほれ見てみろ。こいつらの着物とも髪の毛とも違ェ。こいつァやっぱり"何か"に殺された証拠だぜ」

「うおきったねぇ!こっちに向けんなそれ分かったから!」


表面に付いていた汚れや血を邪神の唾液で溶かされたそれは赤く長い、艶の有る質の物。

確かにここで死んでる連中にこれの持ち主はいないように見える。


「この辺に犬は住んでんのか?」

「そいつぁ無いと思いますぜ。種類は多々あれどオイラ達が好んで住むのは人の多く住むも少し賑やかな所なんす。じゃなきゃあ俺達をオオカミと間違えた人間らに間引かれちまう」


周辺の見回りを終えたのか、言葉を返してくれたのはグルゴ君だった。


「何かあったか?」

「馬の足跡が1つ、ギリギリ通れる隙間を縫って北に向かって伸びてました」

「うーん……」


馬ってのはきっと帰らぬ人となったこいつらを引っ張って来た馬だろう。重荷から解放されたその足取りはそれはそれは軽やかだったに違い無い。

それ以外に痕跡は無し、か。

だーめだ全く分かんねぇ。


「いいや旦那、それでもこの辺りには"何か"いますぜ」

「ホゥ、どうしてそう思う」


「"見られた"んでさぁ、親父。間違いねぇ、向こうさんはオイラの姿を見てやがった。それが何処からの視線かなんて分からねぇ。ただ一つ確信を持って言えんのは、向こうさんにはオイラ達と共存する意識なんて毛頭ねぇって事くらいでさぁ。そんなふうに、見てやがった」


「フム。だとよあんちゃん」

「また難しい事を……」


例えばそれは、アビィの居た森に入った時のあの感覚、"ただの森にしか見えなかった違和感"とかとは違うのだろう。それは、俺達が感じる物じゃない。

感じるのは"森自体"。そこから漏れ出た物をグルゴ君は視線とした。


物や自然に意志が宿り、それは場所によっては神と称される。

例えば何の気なしに泊まった宿屋の内装は、宿屋の主が拘った一品達によってその姿形を変えていく。

その日寝泊まり出来る場所を探した男はとある宿屋の部屋に泊まった。そこに旅の道中買ったその日の食料や着替えを散らかし、空の灰皿に煙を添える。


それらを異物と捉えるのは"部屋自体"だ。


その男は旅の疲れのままに宿で1晩を明かし、明朝には部屋を出た。旅の疲れもあり、よく眠れたのだろうか。憂い無く過ごせたその宿屋を大層気に入ったという。


その男には感じる事の出来なかった物を、グルゴ君は感じ取ることが出来るのかもしれない。

あくまで全部、"そうかもしれない"って域は出ないけど。


「俺達より敏感なグルゴ君が言うんじゃそうなんだろうよ。だけどまぁ、今の俺達には何かアクションを起こすだけの理由も敵影も無いんだ。戻ってみんなと合流して、のんびりここを通らして貰おう、なによりチンタラしてる暇はねぇ」


成功報酬だしね。


「まぁ今はそれしかねェか。おいグルゴ、先に戻って安全を知らせろ。それから大道具班から何人か連れてこい、コレをどかさねェと無駄に足止めを食らっちまう」

「アイアイサー!」


シュババババーってなもんで、命を受けたコンマ何秒後にはグルゴ君の姿は豆粒みたいに小さくなっていた。

うーん犬々しいったらありゃしない。


「あんちゃんも感覚なんてモンを信じるのかい。オイラにはそれが意外でならねぇ。"それ"、見えてねェ訳じゃ無いんだろう?」

「あぁ、見えてるよしっかりと。ただ見るもんを決めてんのは俺自身だ」

「ハハァなるほどね。ようやっとあんちゃんも歳相応に青臭さが見えてきた。悪くねェじゃあねぇか」


ウザってぇ。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「うだうだ言ってねぇで俺らも帰るぞ」


「何言ってんだ、それだとこの後俺らが苦労する」


「ハァ?だからそうならないために大道具班を呼びに行ってもらったんだろ」


「あんちゃん数字が苦手なのか?手分けした方が効率いいじゃねぇか」


「飯と煙の値段が分かりゃそれ以外には必要ねぇ」


「仕事中に口ばっか動かしてんじゃねェ!ほれ、そっち持て」


「ファックだクソッタレ」



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