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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
邪神劇団御一行
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邪神、死神、わんこ


「にしてもよ。あんたか俺、どっちかは残ってた方が良かったんじゃねぇの?いやこれはサボりたいとかでは無しに」


グルゴ氏だって恐らく弱くはないだろう。なにせ親がこのバケモノ、頑丈さは鎧の下から無骨に伸びる雄々しい両腕が保証している。

このバケモノはどうしてこちらに回ったのか。

劇団員を家族と呼び家訓という鎖で縛り付けているにも関わらず、劇団員も同様にこのバケモノを"親"とし全幅の信頼を置いているのはここ数日でも手に取るように分かる。そんな男が前門の虎に釣られて後門の狼にケツを向けてやがる。俺とは無縁の絆だとかそういった思想の強そうなこいつが、だ。


と、なれば。


「うちの中にはこれよりもよっぽど暴れたがりなメンツがいんだ。ラエルノアだってその1人よォ」

「俺ら絶対要らなかったろ」

「オイラはずっとそう言ってたさ」


ビンゴだ。

それに、と続く大気の揺れを受け止めながら紫煙を燻らす。


「あんたとこの連れの腕を見てみてェ。あんちゃんの見極めは間違えちゃァいねぇと思ってる。だが、あの嬢ちゃんは分からねェ。獲物は発破みてぇだが、あれからはちーとも火薬の臭いがしやがらねぇ」


そうだろうな。あれに篭ってんのは俺の血だ。

てか見てぇんだったらアイツを連れてこいよ。


「んな事しちまったらサボっちまうだろゥ?労働ってのは尊いもんだぜあんちゃん」

「いつかの自分を殺してやりたい」

「なんか言ったかい?」

「いいや、なんにも」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「どうせいつかは見れんだからよ。楽しみは取っておいた方がいい」


「損する生き方だぜ。ケーキのイチゴはとっとと齧っておいた方がいいのさ。人のモンにまで手付ける行儀のなってねぇ奴ばっかりなんだからよ」


「ドゥハハッッ!!こう見えてオイラ育ちが良くてよ、そんな意地汚い奴とは食卓を囲まねェ。それに、あんちゃんはどうだい?」


「あん?」


「あんちゃん家の"飯のマナー"を聞いてんのさ」


「そりゃ食ったもん勝ちよ」


「……アイタタタ、行儀のなってねぇ奴がすぐソコにいやがった。こりゃこれからの飯は気を付けねぇとな」


「言ってろ」



▲▼▲▼▲▼▲▼



歩き出して30分程経っただろうか。この旅に合流する前にやりくり上手のアビィさんと大口論の末煙を買い込んでいて良かった。なにぶんこういう旅はストレスが溜まる。精神の安定を担ってくれているこの行為自体を普段より多く求めてしまう。今もこうして居るのかどうかも分からない前門の虎との邂逅の旅路で7、8本は消えてしまった。

何本目だったか分からなくなったそれに新たに火を付け煙を吐く。


「しかしこうも肩透かし食らうんじゃあなぁ。それにその商人ってのもきな臭くねぇか?俺もチラッとは見たけど荷馬車の一つも操らねぇで何を運ぶ商人なわけ?」


騙されたのかもしれない。例えばその商人に見えたそいつは盗賊で、屈強な奴らの出払った荷馬車を襲っている可能性は大いにある。戦力の分散ってのは所帯の大きさにも寄るが得てして上手く働くもんだ。

加えてここはメイベルリア道。マトモな連中はこんな場所を突っ切ろうとは思わない。いかに急ぎの用があったとしても命と天秤に掛ければ自ずと迂回路を走る。


「ウーム……あんちゃん、生まれはどこだい?」

おい質問したのは俺だぞ。

「"西周り"だ」


酷く寂れた街だったことを思い出す。もう何年も、あの街の空気を吸わないで生きている。


「あぁ、だったら知らないのは当然だ」


はて、どういうことかね。


「アインベッカーのそうさなぁ、東から南に架けて、そういう商人もいんのさ。奴らは荷馬車を操らねぇ。裏付けと鮮度を売り買いして旅をしてる。西の方じゃあ隣は海を挟んだタンカレーだろう?だからそういう奴らは細々した国が散らばってる東と南にいんのさ。デュボネとの橋渡しにも一役買ってるらしい」


この言葉を聞きこの邪神、割と俺と近しい場所で生まれ育ったのではないかと思ってしまう。わりかしとアインベッカー出身者は俺も含めて"こういった"物の言い方を好むもの。


ヒントを与え、答えを待つ。


しきたりは知っている。後は俺が導くだけだ。

早ければ早い方が、近ければ近い方がこういう時の回答ってのは気に入られるもんで。

どうしても俺もそれに則って最適解を手繰り寄せてしまう。


タンカレーとデュボネ。その2つと対アインベッカーの関係で違う所といえば、両者に見せる"表情"の差。

アインベッカーとタンカレー間で何もやり取りがない訳じゃないが、主に奴隷に関する何それとか"ナッツ"の凶行による何それとか。

地続きで繋がっているデュボネに見せているモンとは作った表情も皺の数も孕ませた品の無さも何もかも違う。


うーん。

……うーん?


「あ」


情報屋、か。


「ビンゴだあんちゃん。アイツぁ情報を売り買いして飯を食う商人だ。奴らに必要なのは達者な口と何よりの鮮度。だから、奴等には荷馬車は必要無ェのさ」

「なるほどねぇ」


例えばどこそこの領主がどこそこの領主と付き合いが有るとして。それによって大損食らうことになるまた別のどこそこの領主は理由を求める。

自分達がそいつらに向けて剣を振るう表立った理由を、だ。

理由を求めるその領主は情報を買う。それは信頼足り得ると見込んだ情報で、且つ鮮度の高い物だと尚良いだろう。

そこから買った情報を盾に領主は彼らに向けて剣を振るう。


確かに、自分らの足元に細々群れ成す平和主義者や目線の遥か先に控える魔法使い連中しか無い西側では儲けの少なそうな商売だ。

だけど不可侵な部分が無けりゃ成立しなさそうなもんだけどな。

要するに"情報屋の情報"を買い付ける客が居た日にゃ登場人物みんなで共倒れしかねない。


ふーむ。


「あ?じゃあ何か?お前はそいつから情報を買ったのか?」

「オゥ。だがまぁなんでもオイラ達劇団のファンらしくてよ、そのへん諸々タダでいいってなもんで求める前にベラベラ喋りやがった」


より一層きなくせぇじゃねぇか。


「ファンは大事にするもんなんだぜあんちゃん。サインと握手でイチコロよ」


一撃で殺したのかな。握力で。握り潰して。

俺が見た情報屋は既に幽体だった説急浮上。


「ただの旅人にファンなんかつかねぇよ」

「それもそうだ。どうだ、あんたもうちの子にならねぇか?あんちゃんが演技出来るかは置いといて、あの嬢ちゃんは舞台映えするだろうよ。オイラが保証すんだ、間違いねぇ」


想像してみる。

美麗な衣装に身を包み照明の光を受け愛だ恋だを仰々しい身振りを交えて涙しながら声を張り上げる相棒の吸血鬼を。


ふむ。


「スカウトするなら本人に言え」


まぁ、悪くない。


「あんたが嬢ちゃんの雇用主なんだろ?」

「んな事ねぇよ」

「フーム?なぁ、教えちゃあくれねェかい、あんたら2人が旅してる理由をよ」


おかしな関係だが雇用しているなんて事実は存在しない。

きっかけが"アレ"なもんで、まぁ言ってしまえば罪滅ぼしと自己満足。


「仕事中に口ばっか動かしてっと嫌われんぞ」

「カァー、あんちゃんに言われちゃあお終いだ」


口が減らねぇのはてめぇもじゃねぇの。


「はてそういえば」

「なんだ?」

「グルゴ君はあれ何やってんの?」




▲▼▲▼▲▼▲▼




先程のお喋りの感も全く口を開かず、俺達の3馬身前を歩き時折思い出した様にキョロキョロと顔の向きを変えながら。その表情までは位置関係上垣間見る事は出来ないが何やら彼からただならぬ集中力を感じる。

あれ、もしかしてなんか俺達邪魔してた?


「アイツぁ"犬"だ。見てくれこそ俺たちと変わらねぇが、まぁ"だからこそ"オイラたちの家族になった男でもあるんだがよォ」

「あ、そうなん?」


もし俺ではなくアビゲイルがこの劇団と先に邂逅していれば、きっと彼女はこの劇団の看板女優として名を馳せ別の形でその名を耳にした事だろう。

こいつ、邪神とは名ばかりでどうやら慈愛に満ちた男らしい。居場所を与えるという行為の持つ魅力は居場所の無い者からすれば金貨や宝石なんかよりも光り輝いて見える。


今のご時世、どちらかと言えば他種族間手を取り合って互いを受け入れ補い合おうといった風潮の方が多数を占める。それでもアインベッカーは異種族の奴隷を買い付ける事を止めないし、デュボネは先住民の連中に剣を振り続けるが。

それよりも厄介なのは"同種族間"での敵対関係。人間で言う所のアマレットとタンカレーであったり、わんこ族で言う所のその他大勢とグルゴ君のようなものであったり。


姿形がその他大勢と違うから。考え方がその他大勢と違うから。そういった瑣末な理由で、同種族であればある程淘汰され忌み嫌われる。


仮定の話だが、言われるまで気付かない程にグルゴ君は人間に見えた。わんこをわんこたらしめる為の獣耳や尻尾が彼には無い。それが恐らくその他大勢のわんこ族に忌み子として扱われた理由なのかもしれない。

いつしか住処を追われ。存在意義も見い出せぬままに長過ぎる余生を歩まざるを得なくなった失意の最中、差し伸べられた邪神のぬくもり。

なるほどいよいよ持ってこんな聖人を邪神と評すのも気が引けて来た。


まぁ、詳しい事はいつか聞くか。


「で、わんこのグルゴ君は臭いを嗅いで危機探知をしていると」

「そうさな。オイラら達よりも、鼻も耳もいいからよ。こういう時には持ってこいってやつだ」


獣耳無いのに?

便利だなぁ他種族。


「親父、旦那!もう着きますぜ!周りに不審な音も臭いもねぇでさぁ!」


果たして生まれ変わるなんて事が出来た時、俺は一体どんな種族として来世を謳歌するべきかと思いを巡らせていたところ、久方振りに響く確かにわんこが吠えたように荒々しくけたたましいグルゴ君の声。


「オゥ!あんちゃんも気ィ抜かねぇでくれよォ!」

「アイアイサー」


ふーむ邪神は合わねぇなぁ。

徳積んで生きるタイプじゃないし。

何よりハゲは勘弁。


「アァ?何か言ったかい?」

「もうお前怖ぇよ」




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