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旅のお供に果実酒を  作者: 西葵
路傍の欠片-The game is afoot-
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降って湧いた災厄



『すまんの、ぬしよ』


今更なんだ。その様な謝罪の念を貴様が一々口にしてみろ。

これから向こう、貴様の口を付くのは未来永劫"すまん"か"悪かった"だ。


『もう、ぬしの旅には着いて行けんじゃろう』


フッ、馬鹿め。貴様は私の使い魔だという事実を忘れたのか。

貴様の意思など関係無い。私の大願成就の為、魔力貯蔵庫としての生を全うするのだ。


『あぁ、妾の生はまた。"またこの様に"終わるのか』


おい、聞こえていないのか。貴様は私の使い魔だ、私の許可無くその生を終わらせる等あってなるものか。

さぁテンコ、行くぞ。私達には目的が有る。


『"2度目の生"も、妾はきっと悔いるじゃろう。……のう、ぬしよ。妾の、ぬしよ』


何を言っている。さぁこっちへ来い、早く同化を。

テンコ?……お、おいテンコ!



『"妾は──に、なれたであろうか"』



……ま、待て。何処へ行く!

テンコ!聞こえないのか!私はここだ!

テンコ、テンコッ!!



『では、の。ベイ───』



▲▼▲▼▲▼▲▼



「───……行かないでくれええええテンコオオオオオオッッ!!!!!」



「………ど、何処にじゃ」



「……………ゆ、夢……なの、か…………?」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「……ククッ、クハーッハハハハ!!!どうしたどうした妾のぬしよ!妾に会えんのがそんなに寂しかったんかぇ??んん?んんんーー???」


「えぇい寄るな触るな離れろ馬鹿者がああああ!!!」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「ただいまーっと。元気そうだな、部屋の外まですげぇもん聞こえて来たぜ」

「離れろうっおとしい!」

「噛んだな?今噛んだな?」

「噛んでなどッ!……ハッ!!思い出したぞヴィクト・アーバン!貴様私を騙したな!」

「きちんと愛しのテンコちゃんを連れて来てやったろ」

「そうかそうかぁ、愛しかったかぁ。クククッ!行かないでくれええええ!!!じゃもんなぁ!?あぁんん???」


こ、こ、こっこっ殺してやりたい……!!!

捻り上げるか、殴打するかを思案していると、アーバンに次いでエニィが窓から顔を出した。

…………窓?


「……お、おい待て!ここは3階では無かったか!?」

「御主人様、戻りました」

「どんな様子だ」

「何故無視をする!!」

「あまり良くありません。夜だったのが幸いして人相書きは出回っていない様ですが、四番街は現在一部通行の規制を行っております。それとベレンツ自警団も多く街に出回っております」

「…………。テンコちゃん、少しいいか」

「なんじゃなんじゃ無粋じゃのう。妾がぬしで遊んでおる最中じゃと言うに……」


目が覚めたのは、ベッドの上だった。

気を失ったままここに眠らされ、悪夢に襲われ。目覚めた後も悪夢だった。現状を見るに、ヴィクト・アーバンとエニィはテンコを救い出す事に成功している。

しかし、しかしだ……。


「……こ、こんな事なら貴様なぞ……」

「お?おぉん??愛しのテンコがおらんで寂しそうに魘されておったくせにいぃぃいいい???おぉん??」

「喧しい!そんな事実は無い!」


私の首に縋り付くようにするテンコを引き剥がし、深呼吸を1つ。その際目に付いたアーバンのヘラヘラとした顔が不愉快極まり無かった。

一頻りその様な顔で私を眺めた後、彼はテンコに居直った。


「続きは2人の時にでも。……昨晩の事だ。"あれは俺達の聞き間違いで、見間違いなら尚の事いい"。君は何に巻き込まれた」

「……アァん?」


トイレで別れる前と同じ、露弾くような肢体をぷらぷらと揺らし、私の胸にもたれ掛かるテンコは彼の言葉を受け顔を歪めた。


「そ、そうだ。貴様、私を放ったらかしにして一体何をしていたのだ」

「なに、昨夜はいい夜じゃったろう。月明かり照らす街道で、妾の様な見目麗しい女が1人。解は引けるか?……まぁ、踊りのセンスは無かったがのぅ」

「どうして貴様はそんな面倒な話し方しか出来んのだ!」

「テンコちゃん、そのダンスの相手とやらは──」

「待て。妾の問いに答えてからじゃ。貴様達がぬしの協力者というのは理解した。図らずも救われた恩もある。じゃが……」


そう言うとテンコは、ベッドの脇の椅子に座していたヴィクト・アーバンから目を離し、ぐるりと首ごと左から右へ。瞳は窓の側に佇んでいたエニィを捉えた。


「娘よ。貴様、"どうして生きておる"?」

「…………」

「お、おい。何を言っているのだテンコ……」

「ぬしよ。友達作りに精を出すのは構わんが、せめてキチンと"生きた人間相手にせんか"」

「……どういう意味だ?」


彼女を誅するように、また、値踏みするかの様に。テンコはエニィを上から下まで眺め、私と触れているその身体は、緊張した様に張り詰めている。

……生きた、人間?


「御主人様……」

「……テンコちゃん、俺から話そう」


なんだ、皆は何の話をしているのだ。

大きく溜め息を吐き、諦めた様に両手を挙げたヴィクト・アーバン。

徐ろに彼は身に付けている着物のポケットから、小さなケースを取り出し此方に投げ寄越した。

ジャラジャラと音を立てて鳴るそれは、テンコの膝に収まった辺りで鳴り止んだ。


「俺の古くからの知り合いに、薬剤師が居る。そのツテでな」

「……人間とはしかし、やはりいつの時代も無粋じゃのう」


小さな手の平がケースを開けるとそこに、複数の錠剤が見えた。

ひとつひとつ窘める様に手に取って眺め、私の股座から頑として動こうとしないテンコは私にその幾つかを手渡した。


「これ、は……」


何の変哲も無い、カプセル状の錠剤。その方面に疎い訳では無いが、明るい訳でも無い。ぽいぽいとテンコから放られるその何れもが果たして同種の物なのか別種の物なのかも見当がつかない。


「それはな、一時的に仮死状態を作る錠剤だ」

「なにっ……!?」

「元よりエニィの気配は薄いが、それでもこういった物が有るとより一層それを気取られる事は無い。何に使おうとして作った物かは知らないが、俺達も善人とは程遠い。役立つ機会は結構あるのさ。今回みたいにな」

「そ、そんな……」


馬鹿な、意図的に仮死状態を?


「死んでおるのにどうして動いておった。あの死体の山を見るに、随分と大立ち回りをやってのけたんじゃろう?」

「……し、死体?死体と言ったのか!?テンコ貴様本当に一体何処で何をやっていたのだ!」

「これは"そういう薬"なんだ。製作者にでも聞いてくれ、タンカレーの北に住んでる"クルクル頭"だ。付け加えるなら、そうだな。"コレ"には効果覿面だった。エニィ」

「畏まりました」


テンコを糾弾しようとした所、彼等は私なんて気にも留めずにズケズケと会話を繋ぐ。くっ、所詮この者共もアインベッカー生まれ。礼儀や作法等あったものでは無い。

言葉を受けたエニィは口元を覆っていた布を降ろし、薄く水気の少ない唇はそれでもやや滑らかに動く。


「私は御主人様の下、漸くと生を手にしました」

「死んでおったのにか」


首を静かに横に振り、微笑んで言葉を続けた。

彼女の笑顔を私はその時初めて見た。


「私は、"生まれてこの方御主人様の目"なのです。生き物としての生を受けたのでは有りません。私は16年の長い夢の後、"モノ"としての生を手にしたのです」


時折アーバンがその様な事を口にしていた。

彼女は自分の、替えの効く目に他ならないと。ヴィクト・アーバンの愉快な生を認識する為の、彼女はそれだけの存在でしか無いのだと。

その生は、16年母の胎内で過ごし漸く手にしたその生は。


果たしてそれは。

"生き物としての生"だと呼べるのだろうか。


「モノは死なん、か。……然も効果がある事じゃろう、死のうが生きようが、貴様は……モノ故に」

「えぇ」

「もう良い。……妾はほんに、貴様が好かん」

「……その、申し訳御座いません」


テンコはそこまでで彼女から視線を離し、手足を投げ出しもう一つ深く私に寄りかかった。

いつもならば邪魔だなんだとテンコに声を投げる私ではあるが、どうしても。

どうしても今の彼女にその様な言葉を投げるようとは思えなかった。



腹に手を回し、ほんの少しだけ抱える様にして。

……あぁ。この、テンコの表情は。



▲▼▲▼▲▼▲▼



…………この表情は、確か──。



▲▼▲▼▲▼▲▼



「気は済んだか?じゃあこっちの質問に答えてくれ。俺達にもよく見えなかったんだ。だがどうにも……後ろ姿は"どえらいモン"に見えてさ」

「踊りの相手か?」


記憶の波は、堰き止められた。

果たして私自身、一体何を手繰り寄せようとしていたのかも分からない。

だが今は、そんな不明瞭な事を思案している場合では無い。そう、そうだ。

昨晩テンコは四番街で、10数名の男達と。

それと……。


「私は昨晩、この部屋から探知を行った。テンコ、貴様の周りに居たのは何者だ」

「"キチガイ"じゃ」


えぇい忌々しい、と。顔を歪めて吐き捨てる様に呟いた。


「あの中に1つ、私の探知では分からない生き物が居たが、それの事か?」

「声を掛けてきたんは向こうじゃ。あの童女はどうにも妾に相手をして欲しかったらしくての。断ろうとも有無を言わさず手を取られたんじゃ。謝らんぞ、妾はちっとも悪う無い」

「ど、童女?いや、あれはただの人間のものでは……」


言葉をそこで飲み込んだのは、私達の両側に陣取っている2人がテンコと同様に顔を歪めた事に気が付いたからだ。

またもヴィクト・アーバンは大きく溜め息を、エニィは少し眉を下げ、心配そうに彼を眺める。


「…………"そうじゃなければ"と思ってたんだがな。じゃあやっぱりあの背中は」

「申し訳御座いません、やはりあちらを優先しておくべきでした……」

「んな事してみろ、俺達纏めて"祭壇送り"さ。何処へ逃げたって追っかけて来る」

「申し訳御座いません……」

「妾は謝らんぞーーー!」


な、なんなのだ3人とも。

あの異形の正体に当たりが有るのか?


「して、何者なの──」

「厄介な事になったぞベイル」

「……何故口を挟むのだ貴様は……」


言葉を遮り、彼は心底気怠そうに立ち上がった。


「この街を、なるべく早めに出なきゃいけなくなっちまった」

「待て!説明しろ!貴様達は先程から一体何を言っている!祭壇だの、童女だのと!私にも説…………ッ!?」



──"四番街"?

──"祭壇送り"?

──"童女"?



「察しが良くてありがてぇよベイル。厄介だぜ、これは」

「テ、テンコ……貴様まさか……」



▲▼▲▼▲▼▲▼



「あぁ、周りの"脳ナシ"はアレの事をこう呼んでおったぞ」


「貴様一体……あの場所で何を……ッ!!」


「──天照様、とな」





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