1輪: 邂逅、黙示録の獣
「蓮池に咲くピンクの大輪の花、魔法少女魔斗華、悪者殺す!皆殺!大正義執行の為、舞い殺します!」
口上と共にポージングを決める魔斗華の背後では大爆発。
轟音を響かせ、もうもうとピンクの煙を巻き上げる。
「あー、ヤッちゃった…」
公園に入る直前に変身完了してしまったので、後ろの建物に深刻なダメージ。
質が悪いことに、背後の建物はヤクザ屋さんの事務所ビル。
怒声を伴って、わらわらと事務所から怖そうな人達が出てくる。
「ゴメンなさい、てへっ」
面倒なのでサッサと封縛を張ってある公園内に。
封縛内の光景は、外からだと平静に見える。且つ、意識されない。
なので、あのおっかない人達が公園に気付き、入ってくることはないの。
メタリックなショッキングピンクの変身プロテクターを纏い、フルフェイスのミラーバイザー越しに園内を見ると、端っこに粗雑に置かれたベンチに座る、なんか奇妙な生き物(?)が。
ハムスターを思わせる姿形。
でも、やたらと派手な色合い、配色。いっそ毒々しい色使いの体毛。
それにしても、明らかに大きい、大き過ぎる。50cm?ううん、1mくらいありあそう。ベンチに座っているので、はっきりとした大きさまでは分からないけど、でっかいからキモい。
そして、間違いない。
その化けネズミから膨大な魔力を感じる。名うて等を凌ぐ程、噎せ返るような圧倒的魔力。
「掛かったわね、化けネズミ!わたしの封縛“魔斗空間”からは絶対逃れないの」
「待っていたよ、魔斗華」
「え!?…なんで、わたしの魔名を知ってるの?」
そのうすらデカいネズミは、フゴフゴと鼻を鳴らして話し始める。
「ボクは、君のような子を探していたんだよ、魔斗華。純真無垢で正義感のある子を。
ボクは、黙示録の獣、さ。聞いたことくらいあるだろ?」
「………知らない。なにそれ?」
「…そっかそっか。この国では知らなくても仕方ないね。
黙示録に語られる赤い竜と獣は、共に悪魔と見なされ、長く広く唾棄されるべき存在と謳われ続けていたんだ。
でもね、それは一方的な意見であって1つの主張にしか過ぎないんだ。他方から見れば亦、違った主張もあり、それは多数派、選択の結果、勝者の歴史に過ぎない、ってことなんだ」
「?ん〜、ぜんぜん分からない」
ド派手なネズミは一瞬困ったような表情を浮かべた。
「…えーと、簡単にいうと、ボクはその黙示録の獣の胤裔、正統な血統を継ぐ獣なんだ。
世間一般には、聖獣とか霊獣とか、と呼ばれているよ。正確には、ボク達は“胤獣”というんだ」
「へー…で、その淫獣がわたしになんの用なの?」
「ボク達は、まだ偏った思想や宗教、文化に染まっていない無垢な者たちを見付け、ボク達が黙示録に語られているような悪魔じゃないってことを証明する為に契約し、協力するんだ。
胤獣と契約を結んだ者は、魔力が遙かに増し、いわゆる、大魔術師や予言者、聖人、英雄と呼ばれるような大人物になることができるんだ。
どうだい魔斗華?君は、最高の魔法少女を目指しているんだろ?
ボクの力が必要だと思うんだ!」
「ん〜、よく分からないけど、プロデューサー、みたいなもんなのかな?」
巨大ネズミは目をパチクリ。
「え?プロデューサー??」
「分かったよ淫獣さん。あなたがこれから淫獣Pとしてわたしをプロデュースしてくれるんだよね♪よろしくね!」
「胤獣P?よろしくって魔斗華、まだ、契約できていないよ」
「契約?どうすればいいの?」
「契約は簡単なんだ。ボクの額に君の左手の人差し指で触れて、ボクに魔法名をつけてくれればいいんだよ。名付け親になってくれた者がボクの主人になり、契約が結ばれるんだ。
もし、ボクと契約を結ぶ気があるのなら、ボクに素敵な名前をつけて欲しいな」
でっかいネズミに触るのは、ちょっと嫌だったけどさっさと終わらせたかったから眉間辺りに指を置いて叫んだ。
「ハムタロス!」
胤獣が輝きだし、わたしも光に包まれ、不思議な感覚が湧き上がってきた。
「!?早いね、名付けるのが……ハムタロス…どういう意味だい、魔斗華?」
「最初見た時、ハムスターっぽかったから。よく見るとヌートリアっぽくて気持ち悪いけど」
「…え?それだけ?なにかこう、特別な意味や思いとか深いなにかはないのかい?」
「うん、ないよ」
「……そ、そうなんだ…」
どういう訳か、魔力が満ち溢れているような気がしてくる。
「凄いね、淫獣Pさん!魔力が溢れてくるよ」
「いや、胤獣Pじゃなくて、君がさっきつけた名で呼んで欲しいな…」
「ところで、なんでそんな派手ででっかい汚らしいネズミの姿をしてるの?聖獣だったら、もっと神々しい姿とかしているものじゃないの?」
「ボク達の姿は、目にした者が想い描く獣の姿がそのまま現れ、形作るんだ。
おそらく、君は獣にハムスターをイメージし、しかし、此処に冥世の仝儕がいるものだと想っていたから、両者の像が組み合わさって、今、このボクの姿を映し出し、見ているのさ。
魔法名をつけて名付け親となり、契約者となった今の君なら、ボクの姿を変えることができるよ。やってごらんよ」
──だったら、かわいいのがいいな〜
「じゃ〜、ちっちゃいピンクのペンギンになぁ〜れ♪」
──PON!
ちょっとした煙と音を出し、ハムタロスは、20cmくらいのピンク色のペンギンに姿を変えていた。
「あ!!かわいい〜!!!」
「!?え?ペンギン??」
「うん、ペンギンってかわいいよね♪ヨチヨチ歩く姿がちょーかわいい!」
「…えーと、魔斗華…ボクの魔法名『ハムタロス』になったんだけど、その唯一の名の由来、ハムスター要素が皆無になっちゃうんだけど…」
「あ〜。でも、いいよいいよ。小さいことは気にしない気にしない」
プロテクターのバックル代わりになっているMagiPhoneを外し、変身を解く。
同じく、ウィンクをして封縛も解く。
公園の外では、慌ただしくヤクザ屋さんが走り回っていて、数少ない付近の住人も慌てた様子。
もちろん、わたしが原因なんて誰も思わないから平然と道路に出て、万葉要街路巡りを再開するの。
「淫獣P、わたしに着いて来て。MP貯めないといけないから、早く行かないと日が呉れちゃうよ」
「ボクのことは胤獣Pじゃなくて、ハムタロスって呼んでよ…いや、ペンギン姿だけど…」
「分かったよ、ハムハムぅ〜」
「!?名前、変わっとるやないか!勘弁してよ〜、魔斗華ェ・・・」