第98話 盗賊とは、因果な者
「親父ー!親父は何処だー!」
森の中を駆け回る声。
マキレスから命からがら逃げ帰った、あの影。
とんずらギルドは移動が不規則なので、一度抜けると探すのが大変。
一応目印はあるのだが。
それも定期的に変えられる為、長期離脱はキツい。
それでも影は、何とか辿り着いた。
丁度目印の形を変える寸前だった。
「親父は!早く知らせないと!」
慌てる影。
親父の代行を務める男が前に出て、嘲笑うかの様に言う。
「親父はとっくにお見通しだ。それで俺が……。」
「ぐふっ!な、何を……!」
影は崩れ落ちると、そのまま動かなくなった。
「消しておけ、とさ。」
代行はそう冷徹に言うと、『こいつを例の所へ』と指示した。
それは、クライス達が森へ向かう前の事だった。
そして。
森の中を進み続ける一行。
程無くして、道の真ん中に何かを見つけた。
「!」
トクシーは驚く。
鎧を着けたまま倒れている死体。
セレナには見覚えがあった。
そう、逃走する影。
変わり果てた姿に。
それが盗賊の掟。
リゼに話は聞いていたが、こうもあっさり見捨てるとは。
駒か何かと勘違いしていない?
憤りを覚えるセレナの肩を、グッと掴むクライス。
「ここは押さえて。」
これは警告。
『これ以上立ち入るとこうなるぞ』と言う脅し。
それは百も承知。
一行にも引き下がれない理由がある。
「せめて、次は良い人生を。」
クライスはそう言うと、死体に手を当てた。
一行が見守る中。
死体は金色に輝き、金の粒子となって風と共に去って行った。
この世界には、とある伝承が在る。
罪を働いた者も、塵となり風に運ばれ土へ還れば。
罪を償ったと見做され、もう一度やり直すチャンスが与えられると。
つまり、土葬では無く火葬。
灰にされた後、土と一緒になればまた人間に生まれ変われる。
土の精霊ノウが曽て言った『土の中を意志が駆け巡っている』とは、こう言う事なのだ。
輪廻転生、森羅万象。
全ては環の中にある。
そんな思想が一般的。
だからクライスは、灰にする代わりに金の粒へと変えたのだ。
より早く転生出来る様に。
錬金術師は。
宗教的な者から遠い様に見えて、実は結構近い者なのだ。
それがラヴィには不思議だった。
「さあ、行こうか。」
クライスがそう言うと、一行はまた進み出した。
その様子を、遠くから観察する者有り。
どんな奴が来るか見て来る様差し向けられた、盗賊の巣からの刺客。
気によじ登って、双眼鏡の様な物で一行を見ている。
ジッと目を凝らしていたその時。
死体が輝いたかと思うと、パッと消えた。
何だ?何をした?
突然の事に困惑する。
すると、足元の木の枝が消滅。
『あーーーーっ!』と言う叫び声と共に、地面へ叩き付けられた。
幸い、この辺りは枯葉が多く地面直撃とは無らなかった。
刺客が起き上がろうと地面に手を付いた時。
ひんやりとした物が手に当たる。
それを拾い上げて見てみると。
《伝えておけ。次はお前だ、と。》
文言を見て、背筋がゾッとなる。
明らかに鉄で出来たプレート。
それが何故こんな所にある?
まさか、さっきの奴等がこちらに気付いて……。
想像しただけで顔が真っ青になった。
慌てふためきながら。
『こんな所に長居は無用』と、そそくさとその場を後にする。
その様子を察知してニヤリと笑う、クライスとアンだった。
報告へ戻る刺客。
すぐに代行の元へ駆け寄る。
「【ドズ】!死体が!消えた!」
「何だと?」
「確かに見てたんだ!そしたら一瞬で!」
「本当か?」
「間違い無いって!それとこんな物が!」
そう言って、ドズにプレートを渡す。
様々な角度から眺めた後、ホッとするドズ。
そして刺客の顔を思い切り殴った。
「馬鹿野郎!何のチェックもせずに持って来る奴があるか!これは錬金術で作られた物だぞ!」
『何か仕掛けが有るのでは』と勘繰っていたが、杞憂だった様だ。
刺客も慌てていたので、そこまで冷静では無かった。
だから、ついそのまま持ってきてしまった。
「この板から俺達の居場所がバレたらどうするんだ!お前もあの死体の様になりたいか!」
怒鳴るドズ。
親父から留守を預かる以上、ヘマは出来ない。
出来の悪い手下を持つと、苦労するものだ。
当たり散らした後、この後の事を考えるドズ。
親父に遭遇するのは避けられまい。
ならせめて、時間稼ぎをしなければ。
或る2人を呼んで、命じるドズ。
「【ソウヤ】。お前はひとっ走り行って、親父に知らせて来い。こんな奴が近付いてるってな。」
「分かりやした。」
「【ベルズ】。お前は適当に手下を連れて、連中が進むのを妨害して来い。あくまで適当に、だぞ。」
「ちょろちょろとしてやりますぜ。任しとくんなせえ。」
ソウヤとベルズは素早く身支度をし、各命令の通りに動き始めた。
プレートを眺めながら、ドズは考える。
奴等はこっちを見ていない。
この板に何も仕込んでいないのも、その為だろう。
『眼中に無い』と。
これに書いてある《お前》とは、多分親父の事だろう。
そうはさせんぞ。
思い通りに動かれるのは癪なんでな。
見てろ……!
しかし、ドズの思い通りには行かなかった。
刺客は見落としていたのだ。
ナセルを連れて巣へ向かっている、リゼ達の存在を。
クライス達はわざとプレートを置き意識をこちらに向けさせ、仲間はこれ以上居ないと思わせたのだ。
お陰でリゼ達は動き易かった。
「思わぬ里帰りだねえ。」
リゼは呟いた。
この時がチャンスと考えていた。
何の?
それは勿論。
盗賊の巣、乗っ取り。
権力に余り興味が無いリゼだが、そこだけは別。
何か、特別な思いが有る様だ。
親父の座は頂くよ!
そして……。
おっと、これ以上は欲の出し過ぎ。
リゼ達は、盗賊の巣が留まる場所まで。
静かに迫っていた。




