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第96話 当主の帰還

「フサエン様!」


 ウイムの入り口では、今や遅しとストースが待っていた。

 荷車隊が到着すると、手伝いをしに集まる町の人達。

 大勢で荷物を降ろし、指定の場所へ運んで行く。

 献上品と言う事になっているので、まずは等級を測る為大きな建物に持って行かれる。

 そこで鑑定士が品質をチェックし、等級を定めるのだ。

 5級から特級まで6段階。

 これは同時に、テロ用の爆発物や不審物を排除する目的もあった。

 今回ばかりは、そんな事は無いが。

 皆善意で送られた、感謝の品。

 物騒な物が有る筈無し。

 なので、単なる仕分け作業になっていた。

 野菜や穀物の様な食料は宿に寄付して来たので、調度品が多かった。

 絨毯じゅうたん、壺、食器など。

 フサエンに了解を得、それ等は皆住民に配られた。

 有り難く頂戴し、家へそれぞれ持って帰る。

 ストースはそれに掛かりきりになり、屋敷への案内をシェリィに託した。

 勿論、ストースにエミルは見えていない。

 試しにクルクルとストースの周りを飛び回るエミルだが、完全に無視されてちょっとへこむ。

『ふふふ』とシェリィとフサエンは笑っていたが、何故かは分からないストース。

 でも、フサエンの笑顔が見られただけでも良い。

 それは本当の笑顔だったから。




「馬の世話が有るから、ここまでね。」


 コンセンス家の屋敷の前で、シェリィは言った。


「えー。」


 残念がるフサエンの代わりに、エミルがぼやく。


「何時でも会えるでしょ。ね。」


 軽くウィンクして、フサエンの頭を撫でるシェリィ。


「またね。」


 フサエンはそう言った。

 また会おうね。

 気持ちを込めて。

 手を振りながら、シェリィは馬小屋へ戻って行った。


「さあ、入ろうか。君の友達が待ってる。」


 そうエミルに言って、フサエンは玄関のドアを開けた。




「お声を掛けて下されば、お出迎えしましたのに。」


 給仕達がそう言うが、自分の手でドアを開けたかった。

 帰って来た実感が欲しかった。

 敷かれた絨毯の上を歩いて行く。

 自分の足で。

 帰って来たんだ。

 漸く満足するフサエン。

 不思議そうに顔を眺めながら、フワフワと並走するエミル。

 そして、エルベス夫妻が待つ大部屋へと入って行った。


「おかえり……!」


 駆け寄って来てフサエンをぎゅっと抱きしめるフウォム。


「……ただいま。」


 小声のフサエン。

 それを微笑ましく眺めるエルベス。

 帰って来た事を知らされて、クライス達もやって来る。


「ご苦労だったね、エミル。頼んで良かったよ。」


 クライスにそう褒められ、えへへと照れる。


「もう、そうやって甘やかすと調子に乗るわよ。」


 ラヴィは少し厳しい。


「良いではありませんか。」


 見えていないが、取り敢えずラヴィを諫めるトクシー。

 クライスの周りを、嬉しそうにクルクル回るエミル。

 それを見て、フサエンが声を掛ける。


「あなたがクライスさん?」


「ええ。フサエン殿ですね。初めまして。」


「エミルから聞いてますよ。大の仲良しだって。」


「自慢の、だよー。」


 エミルはそう言ってクルクル。


「そうも言ってたね。」


 ふふっと笑うフサエン。

 そして、手のひらをクライスに差し出す。


「この子が『ありがとう』って言ってます。」


 炎の小人がちょこんと立っていた。

 ペコリとお辞儀。


「こちらこそ。」


 クライスもペコリ。

 嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねた後、クライスの頭の上に座った。


「凄ーい。この子がこんなに懐くなんて。」


 フサエンが驚く。

『ふむふむ』と見やるラヴィ。

 ね?愛されてるでしょ?

 ドヤ顔でトクシーを見るラヴィ。

『はいはい』とトクシーは返事する他無かった。




 1時間程休憩した後、正式にPの伝達式が行われた。

 送り手はフサエン。

 受け取りはラヴィ。

 〔授かる〕と言う形を取ってはいるが、事前にエミルがコピーした物をただ受け取るだけ。

 コピー能力はフサエンも聞いていたので、原本が残るこの方法は望ましかった。

 重要機密なので、流石に原本は渡せない。

 エミルが居て良かった、と思わざるを得ない。

 軽い儀式めいた催しは、すぐにお開き。

 フサエンの帰還祝いへと変貌した。

 続々と出て来る豪華料理。

『食べきれないよー』と言いながら、がっつくエミル。

 料理だけが消えて行く不思議なさまを見て、本当に妖精が居るのだと感じるエルベス夫妻。

 その傍で、『行儀が悪いわよ』と怒るラヴィ。

『妖精だから良いんだもーん』と開き直るエミル。

 そのやり取りを聞いて、安心するクライス。

 戦闘直後から度々険しい顔をしていたラヴィ。

 漸く真の意味で、心の緊張が解けた様だ。

 エミルのムードメーカーっ振りに、感謝するクライス。

 君が居て本当に良かった。

 ……そう言えば、あの盗賊達は?

 こう言う場には、真っ先に出て来そうなものなのに。

 流石に、同僚の引き起こした騒動で気が引けたか?

 いや、そんなタマじゃ無い。

 何処かウロウロしているな?

 まあ良いか、今回の殊勲賞みたいなもんだからな。

 寛大なクライス。

 予想通り、リゼ達は何処かに用事がある様だった。




「ナセル、あんた何処に隠した?」


「な、何の事か……。」


「小心者のあんたの事だ、引き受け料を持ち歩いてるだろ?」


「さ、さっぱり分からんな……。」


 別の棟にある檻の前で、ナセルを尋問しているリゼ。


「出せば、悪い様にはしないよ?」


「に、逃がしてくれるのか?」


「それはやーよ。あたいが金に変えられちゃう。」


「き、金!」


「そうか、あんた実際には見てないんだったね。今の言葉、忘れとくれ。」


「誰ともツルみたがらないお前が、あ奴にご執心なのはそう言う事か……。」


「わ・す・れ・ろ。あんたの為を思って言ってんだよ?ねえお前達。」


 急に話を振られた下っ端2人は、慌てて相槌を打つ。


「姉御の言う通り。消されるぜ、黙っとかないと。」


 ボーンズがそう言った。


「そうそう。俺達、実際に見てるかんな。」


 ヘリックも続く。


「そう言うこった。あたい達も、逃げられるものならとっくに逃げてるさ。」


 リゼの言葉に。

『ヒッ!』と言った後、顔が真っ青に変わったナセル。

 それ以上の詮索はしなかった。

 しかし報酬の在り処は、結局言わなかった。


『本当は俺達が付き纏ってるのに、あんな事言って良いんですかい?』


 ヘリックがリゼに囁く。

 ゴチンと頭を殴られ、『イテーッ!』と呻くヘリック。


『余計な事を言うからだ。』


 ボーンズが呆れる。


『付いて来て良かったねえ。こりゃあひょっとすると……。』


 そこまで言って止めるリゼ。

 過ぎた欲は身を亡ぼす。

 そんな事考えなくても、くっ付いていれば目の前に転がって来るだろう。

 チャンスが。

 何の?

 それこそ無粋な詮索。

 未来の楽しみに、ニヤリとするリゼだった。

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