第95話 お迎え、到着
1日半後。
シェリィはマキレスへ到着した。
息付く暇も無く、フサエンを探すシェリィ。
話ではこの筈なんだけど……。
恐る恐る、宿の中を覗く。
すると。
賑やかな一団。
町を救ってくれた英雄に、差し入れ多数。
断る事も出来ず、全てフサエンへの献上品と言う事にした。
入れ替わりに人々が、話を聞きに来る。
武勇伝とばかりに、毎回偉そうに話すロッシェ。
呆れた顔で眺めるセレナ。
アンは宿を手伝い、喧騒からは距離を置いていた。
手柄など不要。
兄からの感謝の言葉が、何よりの勲章。
その賑やかな環の中心に、フサエンが居た。
曽て腫れモノ扱いされていた頃には、想像出来なかった姿。
嬉しくて、涙を浮かべるシェリィ。
暇なので外をぐるりと回っていたメイがシェリィに気付き、トコトコと宿の中に入って来てアンに教える。
「お迎えが来た様よ。」
「ほんとに!」
そう声を上げたのはフサエン。
シェリィが来てくれるのを待ちわびていたのだ。
宿の外へ飛び出し。
シェリィを見つけると、勢い良く胸へ飛び込んだ。
「怖かった。怖かったよう……。」
緊張の糸が切れたのか、思い存分泣くフサエン。
優しく頭を撫でるシェリィ。
「良かった。」
ホッとする。
やっぱりまだ子供なんだ。
無邪気なままの。
それで良い。
当主なんて肩書、子供には重過ぎるもの。
誰かが支えてあげなくちゃ。
シェリィは思った。
それをこっそり見ていたアン。
自然とにやける。
アンに気が付き、バッと離れる2人。
良いじゃない、仲良しで。
寧ろ喜んでいた。
自分を分かってくれる人はちゃんといる。
それはとても幸せな事。
兄様にも、そう言う人が出来たんだもの。
大丈夫。
そう考えると、また中に引っ込んだ。
「あ、居たー。」
代わりにエミルが飛んで来る。
シェリィが気付いた。
「可愛らしい妖精さんね。フサエンのお友達?」
「お姉さん、うちが見えるの?」
「見えるよー。」
「なら良い人だ。そうだよ、友達だよ。うちはエミル。」
ペコリと挨拶。
何の疑問も無しに『友達』と返すあたり、妖精らしい。
逆にそれが微笑ましく見えるシェリィ。
「シェリィよ。宜しくね。」
「宜しくー。」
シェリィの周りをくるくる回る。
この1日ですっかり打ち解けていた、フサエンとエミル。
お互い、友達自慢をしていた。
だから、シェリィの事もフサエンから聞いていた。
「そうかあ。お姉さんがあの……。」
「駄目!それ以上言っちゃあ!」
慌てたフサエンに口止めされて、えへへと笑うエミル。
どんな事を話してたのかしら?
ちょっと気になるなあ。
でもまずは、フサエンがお世話になった人達に挨拶しないと。
礼儀作法はきちんと出来るシェリィ。
『済みませーん』と宿の中に入る。
「お、来たな。聞いてくれよ。俺達の活躍をさ。」
ズズズイイイッと近付くロッシェ。
急な出来事にたじろぐシェリィを見て、ロッシェの耳を引っ張り引き離すセレナ。
「いてててて!」
「何時までも調子に乗るんじゃないの。ごめんなさいね、お調子者なのよ。」
ロッシェの頭を無理やり手で下げさせるセレナ。
『お構い無く』と謙遜するシェリィ。
そこへ再び、アンが登場。
「改めまして、アンよ。兄様が世話になった様で。」
会釈するアン。
「あ、もしかしてあの方の妹さん?」
「はい。」
「こちらこそ!逃げて来た私を助けてくれたばかりか、町も救って下さって……。」
感謝の念に堪えない。
凄さを目の当たりにしたので、まるで神様の様にクライスの事を思っていた。
「兄様は、あなたの様な方を放っておけないんです。性分なんでしょうね。」
「そうでしょうか……?」
「ええ。その辺にしておいて下さると、助かります。」
神格化しそうな勢いのクライスへの思いを見透かされ、申し訳無くなるシェリィ。
そうよ。
フサエンと一緒。
それは重荷になる。
妹さんは、ちゃんとその事を分かってるんだわ。
流石、あの方の……。
そう思って、ハッと気付き思い留まる。
また凄い偶像を作りそうになった。
それだけクライスが魅力的とも言えるが。
それを何回か繰り返した後、ふうとため息。
「難しいですね、一度イメージしちゃうと。」
つくづく思うシェリィ。
ポンと背中を叩くセレナ。
「私も苦労してますよ。未だに敬語が抜けませんから、彼に対しては。」
顔を見合わせ、アハハと笑う2人。
不思議そうにシェリィのやり取りを見るフサエン。
エミルが話し掛ける。
「どうしたの?セレナが珍しい?」
「ううん。シェリィ姉ちゃんがあんな顔をするのって、珍しいから。」
「そうなんだー。」
「うん。」
町の人に声を掛けられると笑顔で返すが、心から笑っている訳では無い。
かと言って、愛想笑いでも無いが。
ただ、心の底から笑うのは久し振りに見た。
それが少し嬉しい、フサエンだった。
献上品が余りに多いので、準備が掛かり。
1日遅れで戻る事となった。
品物を運ぶ荷車付きなので、行きとは違い時間が掛かる。
「ごめんね。あれを渡すの、少し遅くなりそう。」
申し訳無さそうに俯くフサエン。
「良いのよ。気にしないで。」
優しく声を掛けるアン。
手を振る町の住民。
ロッシェとセレナも手を振る。
皆に背中を見送られ、意気揚々とウイムへ戻るシェリィ達だった。
荷車に挟まれ。
馬上には、フサエンを前に乗せたシェリィ。
馬の首にちゃっかり乗っているエミル。
妖精なのでそれ程重さは感じないが。
時々馬が気にするらしい。
ブルブルと首を振る。
『どうどう』と馬をあやすシェリィ。
それを真似するフサエン。
その光景を嬉しそうに見るエミル。
行きの倍の時間を掛け、ウイムが漸く見えて来た。
クライス達が待ってる。
『何から話そうかな』と、心うきうきなエミルだった。




