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第90話 将軍と対峙す

「さて、と。それじゃ行きますか。」


 クライスはコンセンス家夫婦に会釈した後、部屋を後にした。


「またご報告に上がりますね。」


 ラヴィも、そう言って出て行った。

 それに続くトクシー。

 エルベスは気になり、ストースに命じた。


「事の顛末を、その目でしかと見届けよ。良いな。」


「ははーーーっ!」


 3人を追い駆けるストース。

 不安と期待が入り混じり、立ったり座ったりを繰り返すフウォム。

 その肩にそっと手をやり、大人しく椅子に座らせると。

 窓の外をじっと見やる、エルベスだった。




 町中では、ナス将軍が荒れていた。

 原因は勿論、クライスの言葉。

 あいつは『それでは、また』と言った。

 必ず戻って来る。

 その時は目に物を見せてくれる。

 ぐうの音も出ない位にな!

 フヒヒハハハハハ!

 卑屈な笑い声が町を騒がせていた。



 あちこちで兵士が、ちょこちょこ動き回っている。

 しかも、今までに無い動き。

 何か、やらかすつもりか?

 流石に、住民の中で不安が走る。

 それを見て、シェリィは思う。

 これで良かったのかしら?

 何とかなるのかしら?

 うーん。

 考えながら一通り町中を駆け抜け、馬小屋に戻って来た。

 早々に馬を繋ぐと、水を与え労をねぎらった。

 ガブガブ飲む馬。

 余程疲れたらしい。

 優しくブラッシングをしてやるシェリィ。

 心の中で祈る。

 事の終息を。




 勢い良く外へ出ると、クライスはナス将軍の方へ真っ直ぐに向かった。

 あれだけ力を誇示しようとする奴だ。

 ずっと町の中央に陣取っているのは分かり切っている。

 今頃精一杯、虚勢を張っているだろう。

 哀れな。

 使い捨てだと分かっているだろうに。

 そうは考えたが、同情するには至らなかった。



 案の定、兵士達に囲まれ馬上でじっと周りを睨みつけている将軍。

 そんなに攻撃を恐れているのか。

『小心者か?』と兵士達に思われても仕方無い。

 でも『将軍の指示に従え』と命令が出ている。

 守らない訳には行かない。

 出自を怪しんでいる暇も無い。

 その中から、将軍の指示通り町中へ散って行く兵士達。

 手元に残されたのは十数人。

 ガタイの良い兵士ばかり残された。

 来るなら来い!

 さあ!さあ!



「かなり臆病な様ね。」


 ラヴィは改めて、将軍の器では無いと認識した。

 しかも、騎士ですら無さそう。

 じゃあ、何?

 まあ良いわ。

 得体が知れないのはこっちも同じだもの。


「2人共、一応戦闘態勢を取っておいて。」


 クライスにそう言われ。

 ラヴィは剣を抜き、トクシーは槍を構える。

 そして将軍と3人は対峙した。


「来たか……!しかも増えてるじゃないか!」


「余裕が無いとでも言いたいのか、偽将軍。」


「ふっ、何てふて々しい奴だ……お前みたいなのが一番嫌いなんだよ……!」


 やれっ!

 将軍が号令を出す。

 3人に兵士が、わあっと襲い掛かる。


「宜しくー。」


 スッと後ろに引くクライス。

『自分の番はまだだ』と言うかの様に。


「ちょ、ちょっと!」


 戸惑いながらも、『仕方無いわねー』とチャッと剣を構えるラヴィ。

『存分に暴れようぞ!』と意気込むトクシー。

 その騒ぎに、『何だ?何だ?』とギャラリーがどんどん増えて行く。

 中に紛れて、ストースが人混みをかき分ける。

 一番前に出た時、見えた光景は。



 正に華麗。

 ラヴィの剣が確実に兵士の剣を払い落とした後、どてっ腹にキツい一発をぶち込む。

 負けじとトクシーも、槍を伸縮自在に操って兵士をなぎ倒していく。

『これはいかん』と、慌てて兵士を呼び戻す将軍。

 クライスの後ろに近付くが、何故か裸にされてその場に崩れて行く。

 そうやって倒される兵士、数十名。

 たった数分の出来事。

 わなわなと震える将軍。

 剣の切っ先を馬の正面に向けると、ラヴィは言った。


「とっとと降りて、戦ったらどう?騎士ならね。」


 切っ先を向けられ、馬が暴れる。

 その瞬間、バッと飛び降りる将軍。

 どうやら鎧も偽物らしい。

 軽々と舞うその姿、普通の甲冑では出来ない動き。

 ギャラリーから思わず歓声が上がる。

 ショーでも見ている気分なのだろうか。

 何せ、住民には柵の炎が見えていないのだ。

 〔荒くれ者が勝手にやって来て、町を乗っ取っている〕位の認識しか無いのだろう。


「あいにく俺は騎士じゃ無いんでな!」


 将軍はそう言うと、持っていた剣をラヴィに向かって投げつける。

 トクシーがそれを叩き落とす。

 それと同時に、懐からナイフを出してラヴィに襲い掛かろうとする将軍。


「死ねえーーーーー!」


 怒鳴ると共に腕をたたみ、ラヴィの胸にナイフを突き刺そうとする。

 剣を縦に振って、ナイフを叩き落とそうとするラヴィ。

 それをかわし、まんまと懐に飛び込む将軍。


「貰ったあああああああ!」




「残念。」




 その瞬間、ラヴィの姿が消えた。

 実際は消えてなどいない。

 クライスが伸縮自在の金の鞭で、ラヴィを引き寄せたのだ。

 と同時に、ナイフが消滅。

 これは兵士の装備同様、金の粒子に変換して風へと流した。

 その方が、相手に精神的ダメージを与えられる。

 突然消えるのだ。

 頭の中に、混乱と不安が同時に叩き込まれる。

 なので、兵士達は動揺によって崩れ落ちていたのだ。

 しかし流石は将軍。

 これで参る程、精神はやわでは無かった。

 即座に大声で命じる。


「起爆しろ!今すぐにだ!」


 その言葉で、ざわつくギャラリー。

『ギャーーッ!』と言う声と共に建物から離れ、伏せる者多数。

 兵士が宿場代わりにしていた建物。

 爆薬等を仕掛けるなら、そこしか無い。

 だから、住民の行動は理にかなっていた。


「もうすぐこの町は木っ端微塵みじんだ!ざまあ見ろ!フハハハハハ!」




「だってさ。どうするよ?」




 呆然と立っているギャラリーの中へ訴えるクライス。

 そこからひょこっと現れたのは。


「知るもんかい。おい、お前達。ここに積んでやんな。」


「「押忍!姉御!」」


 将軍の前にドサドサッと積まれていく爆弾の山。

 呆気に取られる将軍。

 ジロッと見る女性の顔を見て。


「な、何でお前が!」


「それはこっちの台詞だよ、【ナセル】。小心者のくせに、金に目がくらんだかい?」


 スティーラーズ、参上!

 ポーズ付きで登場しそうな感じではあったが。

 流石に自重したらしい。

 リゼに声を掛けるクライス。


「盗賊の腕はなまっていない様だな。」


「当然。それにしてもあんた、人使いが荒いねえ。」


「良いだろ、別に。この町へ入れる様にしてやったんだから。」


 良く見ると、リゼ達の右肩には金の小人がちょこんと座っていた。

 スティーラーズが後を付けてくると分かっていたので。

 炎の妖精に『自分の仲間だから襲わないで欲しい』と言う印として、町へ入る際に配置しておいたのだ。

 それを目ざとく見つけたヘリックが、金の石と間違えて拾おうとし反撃を食らいそうになったのはご愛敬。

 お陰でリゼの目に留まった訳だが。


「どの道、火は付かないけどね。そうでしょ、クライス。」


 ラヴィの言葉に、頷くクライス。

 精霊は本来エネルギーだから、何をされても反抗する事は無い。

 しかし、この町は特別な思い入れが有るらしい。

 その場所を、自分の力を悪用して壊されたらたまらない。

 柵の炎はその意思表示。

 そしてその状況を簡単に許してしまったコンセンス家にも、抗議の炎。

 シェリィは本当に、とばっちりだったのだ。


「さてどうする?降参するか?それとも自害するか?」


 ジリジリ寄って、偽将軍に決断を迫るクライス。

 その冷徹な無表情に圧倒され。

『ううううっ』となった後、ポツリと一言。


「命だけは……。」


 黙って経過を見ていたギャラリーは。

 勝手に家を使われ荒らされた事を思い出した様に、一斉に偽将軍へ襲い掛かろとする。

 そこで鶴の一声。




「鎮まれい!」




 一部始終を見届けたストースだった。

 慌てて各家に下がって行くギャラリー。

 残された偽将軍、もといナセル。

 裸の兵士、うずくまる兵士。

 そこかしらから縄が集められ、縛って行く住民。

 裸の兵士には布の服が被せられた。

 兵士は皆落胆していた。

 騎士では無かったのか!

 ふざけるな!

 騙された!

 皆徐々に怒りが込み上げていた。

 しかし、クライスが言う。


「ここに居る者は皆、罪人つみびとです。火の精霊の前ではね。」


 その言葉に呼応して、フッと柵の炎が消えた。

 そしてクライスの隣に、彼と同じ大きさの人型の炎が現れた。

 今度は住民にも見えるらしい。

 その場に居た人達は、ラヴィとトクシーを除いて皆ひれ伏せた。

 裁きに畏れおののいた。

 炎はクライスに対してお辞儀する。

 クライスもお辞儀。

『その後をあなたに託した』と言う様に、炎はそっと消えた。

 クライスは皆に問い掛ける。


「あなた方はどうします?逆らいますか?尽くしますか?」


 問いに対し、皆は尽くす事を選んだ。

 その中には、侵攻して来た兵士も含まれていた。

 兵士達は住民に正式に謝罪し、ダイツェン軍からの離脱及びスコンティ軍への加入を宣言した。

 その時点で縄は解かれ、わだかまりは解けた。

 ナセルの処置は、コンセンス家へ委ねられる事となった。




 こうして、ウイムでの事変は幕を閉じた。

 一方、フサエンが逃げて来たマキレスの町では……。

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