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第9話 森を抜け、その先には

 夢の中で、マリーは不思議な光景を見ていた。

 妖精達と戯れる少年。

 寂しさと愛くるしさが同居した顔。

 見ていて、胸が苦しくなった。

 この少年って、ひょっとして……。




 ビターン!

 顔に何かが思い切り張り付いて、その衝撃でマリーはガバッと起きる。


「何?何?」


「寝過ぎだよー。揺すっても起きないんだもん。しょうが無いでしょ。」


『えへへ、謝らないぞ』と言う態度の、エミルだった。


「もうそんな時間?」


「丸半日も寝てるなんて、余程の事だねえ。」


 ……え?

 そんなに?

 何で?

 マリーの頭にハテナが一杯浮かんだ。


「もしかして、《あいつ》に気に入られたのかなあ。」


「あいつって?」


「夢の中に居るんだよ。気に入った奴を自分の方に引っ張り込もうとする、【バクバックン】ってのが。」


「そんな事、今まで無かったけど……。」


「この森を訪れた人間にしか現れないからね。しかも好みが偏ってる。」


「そうなんだ……。」


「うちが体当たりしたから、諦めた様だね。良かった。」


「ど、どうも……。」


「さあ、早く起きて。昼食の準備が出来てるよ。あ、お姉ちゃんは朝食か。」


「ま、待ってー!」


 そそくさと寝室から出て行くエミルを捕まえようとして、マリーはドスンとベッドから落ちた。




「遅いですよ、マリー様。」


 エリーはすっかりお小言モード。

 黙って食べているクライス。

 アンはもう片付けに入っていた。


「それにしても流石ね、エリーは。家事全般何でも出来るなんて。」


「アンこそ、とても手際が良くて助かったわ。」


 エリーは、アンにとても感心したのか。

 それとも同類と認めたのか。

 アンにだけは、敬語無しになっていた。


「そうそう、エミル。森の外ではマリーは『ラヴィ』、エリーは『セレナ』って呼びなよ。」


「何でさ、クライス?」


「『お姫様とそのお付きは行方不明』って事になってるんだ。命を狙う奴等が居るからね。本当の名前を名乗るとバレるだろう?」


「ふうん、マリーも苦労してるんだね。」


「そうでも無いみたいだよ。毎日目だけは輝いてるから。新鮮な事ばかりなんだろう。」


「うちも楽しみだよ。クライスとアンからしか聞いた事無いからね、外の様子は。」


「はしゃいで、試練の事を忘れるなよ。」


「勿論!クライスも泥船に乗った気分でいてよ。」


「泥船だと沈むだろ。大船だよ、お・お・ぶ・ね。」


「てへっ!」


 うわーっ、何この会話。

 ドン引きしたが、顔には出すまいと堪えるマリー。

 でもこの何でも無い会話が出来るのも何時までか、その事を考えると少し憂鬱になった。


「行ってきまーす!」


 森から抜ける時、エミルは元気に手を振る。

 それに合わせて、森の木々もさわさわと揺れる。

 小さな冒険者が一向に加わり、ちょっと賑やかになった。




「さて、ここからは注意だな。」


 森を抜けたそこは、もうサファイ。

 敵か味方かまだ分からない。

 寝返っているかも知れないし、セントリアを助けようとしているかも知れない。

 あるいは推移を見守り、どちらかに付こうか考えているかも。

 ここからは寧ろ心理戦。

 こちらに付いた方が得だと思わせる様に、動かないといけない。

 一行は気を引き締める。

 中心都市の【ルビア】までは、敢えて街道を通る事にした。

『まさか迷いの森を通って来る事は無いだろう』と、考えてるに違いない。

 そう判断したのだ。

 予測通り、街道の警備は手薄。

 のんびりとした農村のような情景。

 それがしばらく続くと。

 今度は町に近付くにつれて、辺りが荒らされた光景になって来る。

 もしや、ここまで敵軍が……?

 そう考えたラヴィを察して。

 クライスはエミルに、様子を見て来て貰う事にした。


「初任務かあ。じゃ、行ってくるね!」


 怖い者知らずなのか、考え無しなのか。

 元気にエミルは、町の方へ飛んで行った。

 その間、近くの草むらに座って待つ事に。


「それにしてもこの辺りの草、丈が短いわね。」


 不思議そうなアン。


「『掘り返された』と言うより、無理やり引きちぎられた感じね。」


 さらさらと触ってみたセレナも不思議そう。


「軍が荒らしたのなら、地面がもっとぐちゃぐちゃになってる筈よね。」


 ます々不審がるラヴィ。

 その答えは、エミルが戻れば分かる。

 そう思い、じっと皆待っていた。




「おーい!」


 ようやく、大慌てでエミルが戻って来る。


「町の中、すっごい荒れた空気なんだけど!町っていつもあんななの?」


「詳しく聞かせてくれないか?」


 冷静に尋ねるクライス。


「んとね……。小綺麗な人間の中に、服がぼろぼろの人間が混じってたよ。町のあちこちをうろうろしてた。」


「たくさん居た?」


「町の中心はそれ程でも無いけど、この街道の反対側に多かったなあ。」


「まさか……。」


 ラヴィは息を呑んだ。

 ここも攻められている……?


「いや、恐らくは。強引にメインダリーを突破して避難して来た、セントリアの人達だろう。」


 ここからは、クライスの推測。

 急襲されて切羽詰まった人の中には。

『メインダリーを越えた方が早く逃げられる』と考え、命を張って通過した者も居た。

 そうして難を逃れて森の前まで来たものの、通れなくて。

 空腹に耐えかね、そこら辺に生えている草を引きちぎって食べた。

 少し空腹はまぎれたが、どうしようも無くて。

 また町の中心に戻って、助けを求めている。

 そんな状況を、領主が黙って見ている筈が無い。

『追い出してしまえ』と言う領主側と、『助けてくれ』と言う避難民との間で揉めているのが。

 町の今の状況。

 と言う事は、『領主は敵味方どちらでもまだ無い』と言う事でもある。

 つまり、今ならまだ間に合う。


「この辺り一帯の地図は、手に入れてくれたかい?」


「クライスの考えは分かってたよ。中心の広場に掲示板が有ってさ。そこに張られてた物をコピーして来たよ。」


 ほいっと出された大きな紙。

 在る紙を、書いてある情報そのままに別の紙としてにコピーする《写し取り》の能力。

 妖精ならではだった。


「早速、一仕事した訳なんだけど……。」


 アンをじっと見つめるエミル。

『はいはい』と小さい袋から丸い飴を取り出して、エミルに渡す。


「これこれ!アンの特製は美味いんだよねー。」


「そんなに無いからね、材料が少なかったんだから。」


「分かってるって。うーん、幸せー。」


 思い切り飴を味わっているエミルをよそに、ラヴィはクライスと打ち合わせを始める。


「どうする?このままだと、避難民もろとも追い返されるわよ?」


「そうだな……。『彼等を保護した方が得』と考えさせる《何か》が必要だろうな。」


『そこでだ』と、取り出したのは。

 森を出る前にエフィリアからクライスが預かった、もう1つの物。

 そして、領主を味方に付ける有力なアイテム。

 クライスには自信が有った。

 その顔付きが。

 頼もしくも、少し不気味にも思えるラヴィだった。

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