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第84話 或る魔物のちょっとした物語

 城がパッと光り、シュッと消えた。

 と思ったらまた光り、元の景色に戻った。

 首をかしげない住民。

 そう言う事は、たまに有ったからだ。



 舞台は、復元された幻の城の中。

 ラピと名乗ったウサダヌキも、デュレイの姿になった。

 アンがメイを通じて、幻を持続させるに足り得るエネルギーを与えたのだ。

 これだけの幻を維持するのは、かなりの魔力を必要とする。

 住民が驚かないのも。

 魔力を充填する為、時々一瞬幻を消していたから。

 それだけ必死だった。

 彼の帰る場所を守る為に。

 ラピは語り出した。




 私は元々、門の向こうに存在する【魔境】で暮らす魔族の一員でした。

 昔或る者に呼び出され、とある事に利用されそうになりました。

 それを拒んだ私は。

 幻を生み出すしか能が無いのもあり、簡単に捨てられました。

 困り果てて漂っている内に入り込んだのが、たまたま王宮だったのです。

 そこでデュレイと出会いました。

 異形の者である私を怖がる事無く、彼は優しく接してくれました。

 そこで決めたのです。

『ここまで来た訳を話そう』と。

 彼は真剣に聞いてくれました。

 特に、私を呼び出したその目的を。

 そう。

 今あなた方がワルスと呼んでいる者が、私をこちら側へ呼び寄せたのです。

 すぐに捨てられたので、姿は良く分かりません。

 ただ、罵られた言葉だけははっきり覚えています。

 《こんなちっぽけな能力じゃあ、人1人殺せやしない!この役立たず!》

 言葉は憎悪に満ちていました。

 明らかに王族を恨んでいる様でした。

 王様らしき肖像画が、ナイフでめった刺しになっていましたから。

 私は放ったらかしでした。

『そのままでもくたばる』と思われたのでしょう。

 追っ手も有りませんでした。

 その思惑通り、フラフラになりました。

 でもそのお陰で、デュレイに知らせる事が出来たのです。

 彼は1人で悩んでいました。

 三日三晩ずっと。

 そして決意しました。

 向こうが気付かない内に居場所を探ろうと。

 そして、化けられる私に託したのです。

 王族の未来を。

 トクシーとの友情を。

 ずっと心苦しい毎日でした。

 親友を騙す、とても残酷な事です。

 でも話すとデュレイが危ない。

 また、託された意志に反する事になる。

 そのまま時が過ぎました。

 そんなある日の事です。

 陛下が評議会を招集したのは。

 そこで暗殺計画がとうとう、白日の下に晒されました。

 やっとこの時が来たと思いました。

 実は陛下に、閣下を敵国へ逃がす様進言したのは私です。

 敢えて正体も晒しました。

 元々この町を任されるまで信用を得ていた事もあって、陛下は私とデュレイを信用して下さいました。

 陛下は向こうに動揺を与える為バラしましたが、それは同時に隠密行動をしているデュレイの命が危険になる事になります。

 案の定、探っていた所を捕らえられた様です。

 万が一に備え、緊急時に意思疎通出来る様《或る物》を持たせていました。

 それを通じて流れ込んで来た感情が、悔しさでした。

 もう少しで判明と言うタイミングの悪さ。

 そして、突然途切れました。

 物が壊されたのでしょう。

 相手は恐らく、魔境に精通している者。

 でなければ、分かる筈がない物ですから。

 ですから、これは危険なお願いです。

 無理を承知です。

 断られても恨みなどしません。

 しかし、もうお願い出来る人が居ないのです。

 どうか、どうか……!




 ラピの話を聞きながら、皆考え込んでいた。

 そして或る者は敵のやり方に憤り、或る者はラピとデュレイの覚悟に感心した。

 トクシーは、話を聞き終わった時点で号泣していた。

 そんな事情があろうとは。

 気付かなかった。

 気付けなかった。

 何と愚かな。

 愚かな……。



 最初に口を開いたのはラヴィ。


「ぶっちゃけ言うと、《お願いされなくてもそのつもり》なのよね。」


「ですね。」


 セレナも頷く。

 事が壮大過ぎて、頭が混乱しているロッシェ。

 でもそんな自分でも分かる。

 これを受けなければ騎士道に反する。

 俄然やる気が出て来た。

 クライスはがっくりと肩を落とすトクシーに向かい合い、言った。


「進みましょう。いや、あなたは進まねばならない。でしょう?」


 涙を拭き頷くトクシー。

 本来ならラピも狙われる筈。

 その身を顧みず、『デュレイを助けてくれ』と言っている。

 友の為に立ち上がろう。

 アリュース様、お許し下さい。

 使者としての使命を果たすのが遅れそうです。

 心の中でそう懺悔ざんげするトクシー。

 願いを聞き入れてくれた事を、心から感謝するラピ。

 そして、言った。


「感情の発信先は、こことシルバとの間に位置する領域【ダイツェン】の何処かです。」


 済みません、詳しい場所までは……。

 謝るラピに、ラヴィが言う。


「ありがとう。十分よ。ね、クライス?」


「まあね。旅の目的地への途中なら楽だな。止まらずに済むし。」


「首謀者はとても狡賢ずるがしこいです。そこには居ない可能性が有ります。」


 ラピが付け加える。

 皆、承知した。

 考えれば、一所ひとところに留まらず本拠地を変えるのが筋。

 簡単に解決出来れば苦労はしない。

 でも、首謀者に匹敵する何かは居るだろう。

 用心に越した事は無い。

 ところで。


「……良いよな?」


「お好きにどうぞ。」


 アンとのやり取りの後、クライスは床に手を付いた。

 そして、少し本気を出した。




 グワッ!




 ラピの姿が一瞬輝いた。

 その身体から、エネルギーが溢れんばかりに沸いて来る。


「これはサービスさ。数年は力がつだろう。」


 後、この町をトラップだらけにしといたから。

 さらっと恐ろしい事を言うクライス。

 アンが少し本気を出すのを許可したのは、トクシーが安心して旅立てる様お膳立ての為だった。


「感謝しますぞ、クライス殿。」


 クライスの手を取って、ブンブン振るトクシー。

 そしてラピの方へ向き直り、言った。


「お前が誰であろうと、私の親友だ。変わらず、ずっとな。」


 その顔は笑顔で溢れていた。

 ラピは思い出した。

 同じ笑顔を掛けてくれた、あの時のデュレイを。

 ラピは静かに頷いた。




 退屈そうに光景を見ていたメイ。

 それに寄って行くエミル。

 メイはエミルに、ため息を付きそうな顔で言う。


「良かったわね。早速着きそうよ。」


「何処に?」


「前に言ったでしょ?〔妖精の暮らした痕跡〕よ。」


「だろうな。」


 ぬっとクライスが割り込む。

 誰にも見つからず、監禁出来る場所は限られる。

 一番都合が良いのは。


「驚かさないでよ!」


「驚いて無いだろ。」


「うん。」


「何、そのやり取り。」


 呆れるメイ。

 エミルとクライスは、大体こう。

 軽いと言うか、何と言うか。

 それより。


「クライス、知ってたの?」


 メイはそっちが気になった。


「ああ。女王エフィリア様に聞いた事が有るからな。昔話さ。」


 クライスはそれを聞く《権利》、いや【義務】があった。

 それは負の遺産。

 アンが密かに調べていた、錬金術師の黒歴史の一部。

 それが今頃絡んで来るとは。

 これも運命か。

 思わずにはいられなかった、クライスだった。

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