第82話 関所の町、ブロリア
セントリアの関所を出てから。
数10メートルの距離を進んで、ヘルメシア帝国側の関所へ。
国境には、緩衝地帯を帯状に設けてある。
それぞれが国境を定めた名残り。
壁が立ち並ぶでも無く。
鬱蒼と茂った木々が有るだけ。
しかし、この中で暮らす猛獣達。
これ幸いと闊歩している。
だから関所の辺りを除くと、通り抜けるのは大変危険。
自然と街道に人が集まる。
そのせいで、猛獣達は関所に寄って来ない。
お互い不可侵なのだ。
向こうの関所に着いた一行。
トクシーは、関所の兵士に通行手形を見せる。
数人のチェックが入った後、『通って良し』と中へ入れられた。
そこは、テュオと同じ要塞と化した町【ブロリア】。
12貴族の一人【フサエン・トル・コンセンス】の支配地域である【スコンティ】の玄関口。
ここを任されているのは、一番の部下である【デュレイ将軍】。
中央にある広場には、その銅像がある。
銅像に参って旅の安全を祈願するのが習わし。
一行もそれを兵士に教えて貰い、銅像の前まで来た。
すると、向こうから人影が。
「よう。ここに来ると思ったよ。」
「デュレイか!」
実は。
将軍とトクシーは、共に皇帝の警護をしていた時期がある。
トクシーが皇帝と面識があるのはその為。
その仕事振りをアリュースに認められ。
謂わばスカウトされた形で、アリュースの腹心となった。
一方のデュレイも、功績を認められ。
若くして、重要拠点であるここを守っていた。
皇帝からの連絡で、使者としてトクシーが来ると知り。
わざわざ会いに来たのだ。
「災難だな、お前も。」
使者の役目を強いられた事になっているので、嫌々引き受けた振りをしなければ。
そう考えるのはもっともだが、反ってトクシーの表情はぎこちなくなる。
後ろから、そーっとラヴィが忍び寄り。
思い切り、トクシーの尻をギューッと摘まんだ。
「いっ!」
「どうした?」
「いやや、何でも。」
振り返ってラヴィに囁くトクシー。
『いきなり何です!痛いじゃないですか!』
『痛いじゃなくて!意識し過ぎて顔が強張ってたわよ!バレバレじゃない!』
『え?そんなに?』
『そうよ!しっかりしてよ、もう。』
『……申し訳無い。』
ブツブツ言い合う2人。
その姿を不思議に思うデュレイ。
「何だ、そのお嬢さんと知り合いか?」
「あ、ああ。向こうのお偉いさんの娘でな。」
あながち間違ってはいない、トクシーの説明。
それを、外交官の娘と勘違いしたらしい。
それもそう。
まさか、姫様がこんな最前線まで来るとは思わない。
大抵の人は。
「そうか。お嬢さん、大変だろうがこいつは結構頼りになる奴だ。信頼して良い。」
「お心遣い、感謝します。」
会釈するラヴィ。
結構紳士的じゃない、彼。
デュレイに素直に感心した。
「ところで……。」
妙な生き物に目がいったデュレイ。
「これも連れか?」
メイを指差す。
丁度荷車の馬の頭に座り、あくびをしていた。
「失礼ね。レディに向かって。」
「しゃ、喋った!」
驚き、後ずさりするデュレイ。
ブルブル震える体。
態度の豹変に不思議がる一行。
トクシーが説明する。
「こいつは昔、陛下の警護時に使い魔と遭遇して嫌な目に会ってな。それっきり使い魔だけは駄目なのだよ。」
「あたいはそんな危なく無いわよ。」
呆れるメイ。
どうせちょっかいを掛けて、返り討ちに合ったんでしょ。
珍しがるからそうなるのよ。
そう思った。
フォローの為に、クライスが前に進み出る。
「申し訳ございません。怖がらせるつもりはありませんので。これでも案内役なのです。」
「『これでも』って何よ!」
文句を言うメイの頭を、アンがゴツン。
くううーーっ。
蹲るメイ。
『じっとしてなさい!』とアンに睨まれ、大人しくなった。
「す、済まない。分かっている事とは言え、動揺してしまった。」
メイに陳謝するデュレイ。
蹲ったまま反応無し。
許したと言う事だろう。
気を取り直して。
「良かったら、屋敷でゆっくりしていかないか?色々話をしたいのだが。」
デュレイが話を持ち掛ける。
「いや、急いでいますので。」
断って、先に進もうとするラヴィ。
その腕をガッと掴んで、耳元である言葉を発するデュレイ。
『私は味方ですよ、姫様。』
ビクッとなって、体が硬直するラヴィ。
続けるデュレイ。
『私はこちらの外交官も兼ねているのです。王族の方々のお顔も知っていますよ。』
勿論他言してはいませんが、と付け加える。
更に続ける。
『実は、ヘルメシア帝国内で妙な動きをする者がおりまして。恐らく、あなた方に関係するかと。』
『……本当?』
『ええ。ですから、その話をお耳に入れておきたいのです。どうですか?』
『罠じゃないでしょうね?』
『こちらにリスクが高過ぎます。それに……。』
ふう、と息を吐いてデュレイは言った。
『陛下にお世話になった身。当然、アリューセント閣下にもです。御恩返しをしたいのです。』
そしてトクシーの方を見た。
察したらしい、コクンと頷くトクシー。
しょうが無いわねえ。
本当に急いでるんだけど。
『分かったわ』と言って、デュレイの傍から離れるラヴィ。
「みんな、集合ー。」
『何々?』と集まる。
皆が円陣を組む。
ラヴィがボソッと言う。
「今から将軍様の屋敷に行く事になったから、宜しく。」
「どうしてです?」
セレナが心配そうに言う。
「話が有るんだって。後、私の顔も知ってた。」
「えーーー!駄目じゃないですか!」
「しょうが無いじゃない、外交官だって言うんだから。王宮に来た事があってもおかしくは無いでしょ。」
「それでも、ねえ。」
アンがクライスの方を見る。
クライスは、前向きの返事をした。
「悪い話じゃ無いな。何せここは……。」
スコンティは、メインダリーに通じるトンネルのもう1つの入り口がある場所なのだ。
ぎりぎり端っこだが。
トンネルを出入りする者の様子を知っている筈だ。
そこから、何か分かるかも知れない。
「決まりね。」
ラヴィは円陣を解散させ、トクシーに言った〔体裁を取った〕。
「願ってもないお話。お受けしましょう。こちらもお話ししたい議がございますし。」
「そうか。では行くとしよう。」
応じるトクシー。
これで町の人々は騙せるだろう。
敵方のスパイまでは分からないが。
デュレイ将軍の屋敷で、一時留まる事になった一行。
しかしそこで、足止めに見合う価値の持つ情報を得る事となった。




