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第80話 旅の準備中に、消去さる

「一同、旅の準備を始めました。」


「そうか。済まんな、大変な役を押し付けて。」


 クライスは使者を正式に引き受けた事を、アリュースに報告しに訪れていた。

 アリュースの傍らで静かに聞いている2人。

『閣下の為に尽くそう』ともがいている、ミセルとヨウフだった。

 クライスは2人に声を掛ける。


「どうだい、最近は。景色が随分変わって見えるだろう?」


「全くだ。別の色が付いて見えるよ。」


 そう返答したのはミセル。

 かつての高圧的な雰囲気は、マイルドになっていた。


「いやはや、こうして閣下の為に尽くせるとは。我が誇りです。」


 ヨウフも今の生活に満足していた。

 今まで、汚らしい世界ばかり見て来たのだ。

 平和がこんなに有り難い物とは、思えなかったのだろう。

『2人は無理やり捕虜にされている』と、使者は報告していたので。

 スラード家もイレイズ家も、12貴族としての面目は保たれていた。

 それは、残して来た家族の地位保障を意味する。

 向こうの事を思いながらも、今の生活を楽しんでいる様だった。


「何時かは、迷惑を掛けた人達へ謝りに行きたいものだが。」


 ヨウフの本音がポツリと出た。

 それだけ改心したと言う事。

 最早、これは必要無かろう。

 クライスは2人を傍まで呼ぶと。

 首に手をかざす。

 すると、スウッと首から金の輪が消えた。


「それは信頼の証。アリュース殿を頼んだよ。」


 2人はいつの間にか金の首輪の事を忘れていたので、嬉しいやら恥ずかしいやら。

 それだけ夢中だったのだろう。

 そこへ、大慌てで配下の者が飛び込んで来た。


「大変です!牢の中が……!」




 知らせを受けてクライスが駆けつけると、牢の中は空っぽ。

 そこには、衣服と一緒に金の首輪が転がっていた。


「わ、私が見回りに来た時には既に……。」


 兵士が焦る。

 クライスは優しく声を掛ける。


「あなたは悪く無い。大丈夫。」


「そ、そうでしょうか……。」


 少しホッとしながらも落ち込む兵士。

 先手を打たれた様だ。


「怪しい者が、面会に訪れませんでしたか?」


「いえ、特にその様な者は……。」


 兵士には本当に、心当たりが無いらしい。

 クライスは、そっと金の首輪に触れる。

 刻まれた記憶を辿たどる。

 最後に刻まれていたのは、声にならないヴェードの叫びだった。


『ワ、ワルス様!どうかお慈悲を……!』


 首輪はヴェードの自殺を止める手段は持っていても、他者が存在を消し去るのを防御する手は持ち合わせていなかった。

 衣服が残り、人間のみを抹消する。

 そんな事が出来るのは3択。

 錬金術師。

 魔法使い。

 魔物。

 しかし、首輪からは不審なエネルギーも魔力も感じない。

 と言う事は、何か魔物を遣わしたか。

 エミルの言っていた門の異変と、関係が有りそうだ。

 これは思っていたよりも、深い背景が有るのかも知れない。

 アリュース殿に相談した方が良さそうだ。

 再びクライスは、アリュース邸へと向かった。




「消されましたか……。」


 アリュースはうな垂れた。

 クライスは考える。

 証人抹殺は良く有る事。

 しかしこれだけ時期が遅れたと言う事は、かなり時間稼ぎにはなったのだろう。

 そして向こうが漸く、事態を把握したと言う事。

 だが1つ疑問が有る。

 そんな事が出来るのであれば、何故最初から自分で暗殺を実行しなかったのか?

 何か特別な理由が有るのか?

 アリュースや皇帝を、自ら手に掛ける事が出来ない理由が。


「一応、警戒しておいた方が良いでしょう。」


 クライスは進言した。

 アリュースもそれに同意した。

 配下の者がいそいそと歩き回る。

 この部屋からまず確かめないと。

 屋敷にトラップが既に仕込まれてると不味い。

 クライスは『それは無い』と言ったが、心配性な彼らは安心出来るまでくま無く探りまくった。

『それでは』とクライスが下がる。

 入れ違いでリゼがやって来た。


「どうしたい坊ちゃん、何かあったのかい?」


 クライスの顔がやや険しかったので、気になっていた。


「ああ、お前か。今しがた証人が消されたんだ。」


「へえ?金ぴかが仕掛けた首輪があったのに?」


「あれは、この様な事態を想定して付けられた物では無いらしい。」


「ふうん。あたいも知りたいねえ。誰にも悟られない暗殺術。」


「こら!良い加減にしないか!閣下に向かって!」


 ミセルが慌てて話を遮る。

 リゼは、何処かの国の王子だろうがタメ口なのだ。


「あんたも男だろ?しっかりをしよ。」


「本当に呆れた女だな、お前は。」


 嘆くミセル。


「あたいは命の狭間で生きてきた盗賊さ。その前では、誰だろうが〔生きてるか死んでるか〕の違いでしか無いのさ。」


 あたかも、それが真の平等だと言わんばかりに。

 ふと考えて、リゼは気が変わった。


「坊ちゃんの相手をするより、面白そうだ。邪魔したね!」


 そう言って颯爽さっそうと駆けて行くリゼ。

 目当ては勿論……。

 その様を見て。

『エラい奴に目を付けられたもんだな』と、クライスを哀れに思うミセルだった。




「あ、あたいは何もして無いよ!」


 ヴェード消失の話を聞いて、メイは首をブンブン横に振る。


「ほんとにー?」


 怪しむエミル。


「そんな事が出来る使い魔って居るの?」


 ラヴィが尋ねる。


「ご主人に仕える使い魔は幾つか居るけど、そんな技を持ってる奴を手元に置いておくと思う?」


 メイの意見はもっともだった。

 でも同時に、〔魔物の中で、そんな技を持っている奴が存在する〕と言っているのと同じ。

 これはひょっとすると、長い旅になるのだろうか……?

 ラヴィは思った。


「迷ってたってしょうがなくない?行ってみれば良いさ。それで何もかも分かるだろ。」


 ロッシェらしい意見。

 当たって砕けろ理論。

『本当に砕けたらどうするの?』と、アンが思ったのは内緒。


「ある程度の戦闘は、どうやら避けられそうに無いな。みんな、覚悟しておいてくれ。」


 クライスの言葉に、皆高揚する。


「任せて下さい。ラヴィは私が守ります。」


「回復は私が居るから、安心して暴れて良いわよ。特にロッシェ。うずいてるんでしょ?」


「アンも分かってるじゃねえか。特訓の成果を何処かで試したいと思ってた所さ。」


「これ!そんな事は無い方が良いに決まってるではないか!ですよね、ラヴィ殿。」


「ええ。要らぬリスクは、出来るだけ排除したいし。」


「えー!そんな事言ってえ、先生も本当は腕を試したいんじゃ……いてっ!」


「うちはどうしよっかなー。」


「妖精なんて、戦闘で役に立たないでしょ。あたいの出番さね。」


 各々が本格的に旅の準備に取り掛かる。

 方針が定まって来たから、足りない物を揃えないといけない。

 どっしり構えるクライス。

 あちこちへ散り散りになるメンバー。

 その様子を陰からこっそり見ていたリゼ。


『ほう、やけに乗り気じゃないか。嫌いじゃ無いよ、そんなノリは。』


 あたい等も支度をしようかね。

 付いて行く気満々のリゼ。

 どうせあの金ぴかに筒抜けなら、堂々と後に続くだけ。

 退屈だった生活が、刺激的な物に変わりそうだ。

 そうと決まれば、準備準備っと。

 とんずらするリゼ。




 使者として一行の旅立つ日が、すぐそこまで迫っていた。

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