第78話 魔法使いと、魔界への門
再び、時はアリュースの捕縛から一月後。
使者として往復していたニースが、喜び勇んでアリュースの元へ来た。
「閣下!取り敢えず軍の侵攻は無くなりましたぞ!」
「おお!それは良かった。」
計画通りに事が進んだと知り、アリュースは安堵する。
対して、コエセルは少し怪訝な表情をしていた。
「それと、これは小耳に挟んだのですが……。」
「何だ?」
「遠征取り止めに関して、どうやら《あれ》が関わっている様です。」
「あれとな?」
「ご存じでしょう?ヘルメシア帝国の端に存在する【魔界への門】です。」
「何と!」
その昔。
異界の者がこちら側へ来れない様、建造したとされる門。
通称、【テューア】。
さる高名な者が建造したとか。
「何か異変が起きているとかで、その辺りの領地を支配する【テイワ・オブス・ノイエル】様が評議会を欠席したのです。」
「あの辺りは魔物が攻めて来ない様、かなりの兵を置いている筈だが……。」
それでも評議会を欠席する程の事態。
何が起きている……?
「追加で、テューア近くの村【エッジス】に錬金術師を相当数派遣するそうです。」
「それは不味いな。」
「何が不味いの?」
暇なので、アリュースの所へ遊びに来ていたエミル。
横で話を聞いていた。
「実は、帝国の奥深くに〔魔界と繋がっていると言う穴〕があってな。」
「うんうん。」
「凄い人が昔、帝国へ入って来れない様に門を建てたんだ。」
「うんうん。」
「それはある意味結界の役目をしていた。でも……。」
「うん?」
「どうやらその力が弱っているらしい。」
「そうだとどうなるの?」
「向こうから、魔物がグワーーーッと雪崩れ込んで来るかもしれない。それこそここを通り過ぎて、君の故郷へもね。」
「えーーーーっ!ヤバいじゃん、そんなの。」
「そう。黒幕探し所じゃ無い。この世界の平和が壊されるかも知れないんだ。」
「そうか!それで……。」
エミルには、何か思い当たる節が。
こうしちゃいられない。
「クライスに知らせて来るよ!あいつなら何とかしてくれるかも!」
「そうだな。頼む。」
「任せといて!」
エミルは張り切って飛んで行った。
ポカーンとする使者2人。
お付きの者も、アリュースとエミルの会話が未だに慣れない。
何せ妖精は姿が見えない。
アリュースが一方的に、ブツブツ言っている様に見えるのだ。
「おいおい、良い加減慣れてくれよ。結構遊びに来てるだろう?」
「それはそうなのですが……。」
いつもその時は顔がニコニコしているので、お付きは内心不気味で仕方無かった。
姿が見える小人族の方が幾分ましだ。
そう思っている所へ、入れ替わりでホビイが遊びに来た。
「よう!どうしたい、何かあったのか?」
「やあホビイ。ゆっくりしていってくれ。実はな……。」
興味深く話を聞いていたホビイ。
魔物、ねえ。
小人からしたら、人間も妖精も魔物の様な者。
元々この世界に住んでいたのは何なのか、はっきりしない。
ひょっとすると、人間もその門の向こう側から来たのかも。
そんな空想をアリュースに言ってみると。
意外な返事が返って来た。
「確かに。人間の中にも、種族の様な違いが見られる時があるからな。」
この地に人間が来て、何者かと混血して土着した。
その傍系として小人や妖精が生まれた。
その逆もありうる。
実は。
その様な妄想を思わせる存在が、ヘルメシア帝国には居た。
そう、魔法使いである。
何故か、魔法使いは1人しか居ない。
この世界に、適正な種が居ないからなのか。
それともただ単に、弟子を取っていないからなのか。
しかも使い魔と言う、人間社会ではまずお目に掛かれない者を使役する。
それは、テューアの向こう側から呼び出しているのか。
元々連れていた者なのか。
何せ、魔法使いと面識の有る者が居ないのだ。
皇帝の所に、極稀に使い魔が現れる位。
それも、『こっちに来るな』みたいな警告めいた物。
お互い不干渉でここまでやって来た。
しかし魔法使いが関心を持っている者、どうも約1名居るらしい。
彼の周りには、やたら使い魔が現れる。
彼なら、接触出来るかも知れない。
だから《適任》だった。
以前、アリュースはクライスにこう漏らした事がある。
「魔法使いの力が借りられれば、もっと事はスムーズに進むのだが。」
それはクライスに、ヘルメシア帝国への使者として名乗りを上げて欲しいという暗示だった。
クライスも、その意図を感じ取っていた。
「でしょうね。向こうとの交渉の場が出来た時、再考しましょう。」
返事はそれだけだった。
あれこれ考えてもしょうがないので、その時はそう返事した。
後で考える事にしよう。
先送りでは無く。
優先順位があるから。
「クライスーーー!」
エミルがクライスの元を訪れた時、既に察知した様な顔をしていた。
「あのねあのね!」
「落ち着いて。」
クライスの傍に居たアンが諭す。
丁度、アンが錬金術の講演をしていたのだ。
クライスはその助手。
トータルで錬金術師として優れているのは、あくまでアンなのだ。
空気を読まずに割り込んで来たエミルのせいで、講演は一時中断となった。
休憩にして、エミルの話を聞く2人。
クライスは頷いた。
「来たか……。」
話を聞いた限り、恐らく鍵は魔法使い。
暗殺とテューア。
普通は繋がりそうに無い物。
それが関係有りだとしたら、繋ぐ者が存在する筈。
魔法使いがそうなら、益々会う必要がある。
使い魔のメイは言った。
ご主人が言ってた【その時】と。
魔法使いが言うんだから、特別な時なのだろう。
何か変革が起こる様な。
良く見る様になった《悪夢》は、これから起こる事なのか?
それとも……。
彼にとって、人生の曲がり角が訪れた。
さて、ラヴィ達にどう説明するか。
今はそれが悩みだった。




