第77話 評議会、開催
緊急招集された評議会の開催。
出席者13名。
内訳。
まずは皇帝。
次いで王族2名。
12貴族の内10名。
欠席者は3名。
1名は、病気を理由に王族が。
1名は、緊急事態発生で来れないと貴族が。
もう1名は、何故か連絡が途絶えた貴族。
臨時に集められたので、仕方無いのかも。
集まった面々も、議題を承知していなかった。
ただ『すぐ来て欲しい』との要請で来ただけ。
しかし、議題を聞いて場が凍り付いた。
議題:グスターキュ帝国侵攻失敗の報告、及び人質に関する件。
ざわつく場を制して、まず皇帝が発言。
「静粛に。まずは状況を説明させる。」
そして皇帝の配下が、使者から聴取した内容を読み上げた。
敵の内部に潜り込み撹乱を担当していた者、及び少数精鋭で侵攻した軍全員の捕縛。
その他随伴していた者の、罰としての強制労働。
そしてこれは評議会でも極秘だったのだが、捕らえられた者の中に王族及び12貴族が含まれている事。
作戦に支障を来さない様、実働部隊の面々は伏せられていたのだ。
それを黙って聞いていた評議会。
事態が深刻な事を理解する。
先々代の皇帝から受け継がれて来た侵攻作戦が、あっさりと破られたばかりで無く。
今度はこちらが仕掛けられるかも知れないのだ。
「もう伏せておいても意味は無かろう。向こうに収監されているのは。我が弟アリューセント、スラード家の跡取りミセル。そして、イレイズ家当主の弟ヨウフだ。」
これには、スラード家・イレイズ家当主も驚いた。
皇帝直々の命として首都に上ったは良いが、それ以降は便りも寄越さなかった。
心配していたが、その不安は的中してしまった。
困惑する場内。
「それで、向こうは何と?」
『要求は既にあったのだろう』と、内容を早く聞きたい者が話を切り出す。
「うむ、まずは『人質の安全を保障する』と言って来た。」
ほう……?
何処かしこから、ため息が漏れる。
「その上で、特にまだ具体的な要求は無い。ただ……。」
ただ?
「同時に、《アリューセント暗殺を企てた者も捕らえた》と。」
ここで皇帝は揺さ振りを掛けた。
裏切者がこの中に居るなら、この事実を知って多少は顔色を変えると考えたのだ。
案の定、この言葉に反応する者が現れた。
「何故、アリューセント閣下のお命が狙われたのですか!」
「いや、これは絶好の機会だと踏んだのだろう。」
「それを承知で、軍の将をお引き受けになったのか?」
「ううむ、真意を測りかねる……。」
その中。
事態を把握していないのか、何も考えていないのか。
能天気に、こう言う者が居た。
「でも、アリュー兄さんは捕まっちゃったんでしょ?自害ものですよね?」
王族の末弟、【ワンズ・ムース・シルベスタ】。
年は12才程。
世の道理をまだ理解していない様子。
だからこそ利用され易いのだが。
「馬鹿言え!兄様に自害を促すなど、簡単にその様な事を申すな!」
窘めるのは王族三男、【フレンツ・ノイエ・シルベスタ】。
年は18才程。
ある程度領土を任せられる程には知恵が利く。
傀儡として制御するには、ちと骨が折れるだろう。
2人の王族の発言を受けて、12貴族からも色々な声が出る。
「戻って来られても、ある程度の処分は免れませんでしょうな。」
「いや、命あってこそ。王族の血は絶やしてはならぬ。」
「おや、第1王妃の御子息だからといって、贔屓は良くありませんぞ。」
「12貴族の中からも人質が居ると言うのに、余りにも他人事過ぎでは?」
「左様。次は我が身かも知れませんぞ。」
「そもそも、暗殺は誰が指揮したのやら……。」
「……いやいや!私ではありませんぞ!」
「私でもありませんが。」
「誰かを隠れ蓑にして動いているのかも……。」
「この中で怪しいのは……?」
そこで全員黙ってしまった。
王位継承権第一位の、弟君の命を狙うのだ。
かなりの覚悟を持っているのだろう。
そんな輩が、この様な公の場で化けの皮を剥がされる失態など演じようか。
皆、疑心暗鬼に陥っていた。
その様子を見ていた警備兵は、ちょこちょこと皇帝へ報告。
不審な素振りを見せる者は居ない様だ。
しかしこれで牽制完了。
疑われない様、お互いがお互いを見張る構図を作り上げる事が出来た。
皇帝は、最後にこう付け加える。
「これで散会とするが、もし何か怪しい事・者があれば遠慮無く報告して欲しい。それなりの報酬は用意しよう。」
チクりを正当化する発言。
議事録を取っていた者に、欠席した者にも内容を伝える様言い渡した後。
皇帝は奥へ引っ込んだ。
再び評議会が開かれたのはその10日後。
今度は使者のコエセルとニースも、証人として出席させた。
前回と同じメンバーが集まった。
欠席した者も理由は同じ。
少し違ったのは、発生した緊急事態の内容が簡単に知らされた事。
それも、今回の議題に関係していた。
議題:交渉の為の使節団、及び辺境での怪しい動きについて。
ここで初めて、敵国の戦力が具体的に提示される。
どうやら普通の戦力に加え、錬金術師が結集しつつあるらしい。
しかもその中に《幻の錬金術師》が居る、と。
皆ざわついた。
ただでさえ厄介な錬金術師を相手にしなければならない上に、歩く伝説までも……。
それでは、そう簡単に攻め入る事は出来ない。
無理に戦力を投入して人質を奪還する案は、これにて却下された。
もう1つの議題のせいでもあったが。
そう。
辺境で大変な事態になっている事が簡単に報告され、敵と揉めている状況では無くなったのだ。
国内の高名な錬金術師を集め、速やかにそこへ派遣しなければならない。
その内情を知ってか知らずか。
このタイミングで、『和平交渉をしたい』と向こうは言って来た。
余りに時期を狙い撃ちされた感があって、怪しむ声も上がった。
しかしその声を打ち消す様に、皇帝の鶴の一声で交渉する事が決定した。
既に周りを怪しむ目は出来ていたので。
反対すれば反逆者のレッテルを張られ。
領土からの強制追放の上、自分の命まで危うい。
どさくさに紛れて領土を奪う輩も、出て来ないとは言えない。
ヘルメシア帝国は領地を分け与え平定するグスターキュ帝国と違い、領土を保有する貴族の連合体なのだ。
領土の大きさは様々。
また皇帝によって左遷される事など無く、同じ場所を一族で支配し続ける。
支配地域を広げるには、他の貴族を陥れるのが近道。
逆に領土を守るには、他貴族と結束を固める事が肝要。
人間関係が、如実に領土支配へ反映されるのだ。
だから散会の後、ちらほらと『あれが怪しい』と報告する影が見られた。
それを見つけて、益々周辺を警戒する出席者。
いぶかしみながら、それぞれ戻って行った。
ここまでは打ち合わせ通り。
しかし辺境の出来事は、暗殺未遂に呼応した様に発生した。
何か関係があるのか?
皇帝は部下をその領土へ遣わした。
詳細を探る為に。
その上で、何か策を立てねば……。
急に忙しくなる皇帝だった。




