第73話 心模様は虚(うつ)ろいて
プルプル震えてはハッとし、またプルプルを繰り返す。
自殺を思い留まるまで、ヴェードへの無限ループは繰り返す。
その内疲れたのか、ぐったりとなった。
それに対し、反省の気持ちが収まらないミセルとヨウフ。
比較的王族に対する忠誠の度合いが高い2家は、暗殺などと物騒な事を画策する者が許せなかった。
王族に対する不満があるならば、貴族会議で堂々と主張すれば良い。
なのに卑劣な手段を取るとは……。
謀略に手を染めている間。
逆に別の謀略に加担する形となった事に、深く落ち込んだ。
アリュースは再び声を掛ける。
「俺に対する忠誠心がまだあるなら、これからの俺を助けてはくれまいか?」
味方は多く居た方が、心強いのは確か。
しかし、権力闘争に巻き込むのもどうか……。
悩んで出した結論はやはり、『1人でも仲間が欲しい』だった。
「俺から、2人に対する罪の許しを請おう。それでも足りないかも知れないが……。」
そう言って深々と頭を下げるアリュース。
すぐに反応する2人。
「そんな!滅相もございません!」
「共に歩みましょうぞ!」
そう声を掛ける2人の手を取り、感謝の意を表すアリュース。
握り締める手には、力が籠っていた。
横で、その光景を見ていたクライス。
そうか、選んだか。
活かせよ、その機会を。
そう思い、敵将役の男を牢から出して。
代わりに、なよっとしたヴェードを放り込んだ。
そしてアリュース達を促して、階を上がった。
「すっきりした顔ね、クライス。」
1階の大広間では、祝杯を上げようと準備がなされていた。
『何に対する祝杯よ?』と思いながら、ぽつんと立っているラヴィ。
暇だったので、クライスに早速絡んでいく。
「まだだよ。黒幕のしっぽを踏んづけたに過ぎないさ。」
「殊勝な心構えね。で、この様子どう思う?」
「少しは浮かれても良いんじゃないか?心がずっと張りつめていたんだからな。」
「そうかしら?」
アリュースとの正式な会談がまだなので、自分の地位があやふやなのを懸念していた。
その一面は、流石王女らしかった。
そこへリゼが絡んで来る。
「あんたもどうだい?気が楽になるよ?」
宴の準備中なのに。
何処からくすねて来たのか、もう酒で酔っ払っていた。
「お酒臭っ!何してんのよ!」
面倒な奴に絡まれたなー。
ラヴィの表情にくっきり現れていた。
それを知ってか知らずか、ずけずけと絡み続ける。
「あんたも飲みたいの?そう、飲みたいのー。じゃあこっちおいで。」
リゼに無理やり連れて行かれるラヴィ。
止めに入るセレナ。
セレナ共々連行する、スティーラーズの面々。
盗賊は昼間から酔っ払っても平気。
その姿が逆に空気を和ませていた。
なのでクライスは放置。
何でよーーーーー!
と叫ぶラヴィの声も空しく。
奥へと消えて行った。
さて、俺はどうするか……。
考えているクライスに、ロッシェが声を掛ける。
「なあ、師匠を見なかったか?」
「ああ、リゼ達に連れてかれたよ。」
「えー、また稽古に付き合って貰おうと思ったのに……。」
「努力家だな。」
「じっとしてるのは落ち着かなくてな。」
手伝いを申し出たんだが、断られた。
来賓だってさ。
そう言うロッシェは不満顔。
この様な待遇には慣れていないのだろう。
「ちょっと、良いか?」
ロッシェが突然神妙な顔をする。
何だろう?
少し興味が湧いた。
クライスは、ロッシェに付いて行った。
2人はこっそり町へ出た。
「凄いよなー、こんなデカい町を動かすなんてさ。」
「領主の事か?まあそれが仕事だからな。」
「いやいや、あの姫さんさ。幾ら野望の為と言っても、ここまでしないだろう?」
「まあ、宮殿で暮らしていた頃に色々あったんだろうさ。」
クライスは、敢えて詳しく聞かなかった。
ラヴィの原動力。
野望の為にしては力強過ぎる。
でも、人に知られたく無い事は誰にでも有るさ。
そう、俺も……。
「でさ、お前さんと姫さんは《何処までいってるんだ》?」
ロッシェから突然、変な質問を投げ掛けられるクライス。
「暫く一緒に過ごしていれば、情も沸くだろう?何か無い方がおかしいんじゃないか?」
「そうか?」
そう言う話題には疎いクライス。
「淡白な返しだなあ。絶対お前さんに気があるって、あの姫さん。」
「まさか。」
「そのまさかだって。付き合いの浅い俺が気付くんだぜ?他の奴も……。」
「ちょーーーーっと!」
そこへアンが割り込んだ。
「そんな無粋な話をしないで!兄様が、そんな関係に興味が有る訳無いでしょ!」
「そんなに〔大事な兄様を取られたく無い〕のか?ん?」
にやけるロッシェ。
顔真っ赤のアン。
『知らない!』と言って、クライスの手を引っ張る。
力を抜いていたので、引き摺られる様に歩き出すクライス。
おい、待ってくれよー!
慌てて追い縋るロッシェ。
ちょっと揶揄っただけなんだがなあ。
当てが外れたか?
『そういった恋模様も旅のスパイス』と考えていたロッシェ。
現状を鑑みるに、そんな余裕は無いと思っているクライス。
旅をして、人への接し方は変わって来た。
でもそこまでは、まだ……。
クライスの心には、まだ壁があるのかも知れない。
それを崩すのは、ロッシェの様な能天気さかも。
男同士の会話を見て、何と無くそんな気がするアンだった。




