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第7話 運命の歯車、回り始め

「お帰りなさい、兄様。あの2人も既にお戻りよ。」


「そうか、それは待たせてしまったな。」


「いえ。それより、何か浮かない顔だけど……。」


 リッター卿の屋敷へと戻って来たクライス。

 その表情は少しピリピリしていた。

 そこから『何か良く無い情報が有ったのだろう』と、アンは推察した。


「戻って来たわね!これ見て!すっごいのよー!」


 クライス達の居る部屋のドアを、ノックも無しにバンッと開けるラヴィ。

 図々しくも堂々と入って来る。

 セレナが何とか制止しようと手を伸ばすが、寸での所で取り逃がす。


「申し訳ありません、無粋だと止めたのですが……。」


「構わないさ。で、収穫はそれだけかい?」


「それだけって、失礼ね!これがどれ程の物か聞かせて……。」


 そこまで言って。

 ようやく自分が、柄にも無く興奮し過ぎている事に。

 気付くラヴィ。

『それ見なさい』と呆れながら。

『後、こんな物も……』と、セレナがクライスに差し出す。

 主人がおまけでくれた、布にくるまれた物。

 クライスが開けてみると、真ん丸の石がコロンと出て来た。

 透明でも無く、ゴツゴツしている訳でも無く。

 ただ気持ち悪い位に黒光りした、真球体だった。

 横からラヴィ達が覗き込む。


「何これ?ただのガラクタかしら?」


「店の主人の話では、『訳有り顔の夫婦が、お金に換える為に売りに来た』とか。」


 ラヴィとセレナの話をよそに。

 真球体を見て顔が強張こわばる、アンとクライス。


「兄様、これはまさか……!」


「間違い無い。使い古されているが、【賢者の石】だ。」


「「え!」」


 クライスの発言に驚く、ラヴィとセレナ。

 賢者の石とは、錬金術師が錬成のおりに使用する物。

 つまり、彼等にとっては命に等しい物なのだ。

 価値の分からない者には、ただの石ころに見えるが。


「これを手放してまでお金を必要としている、と言う事は……。」


「これで確信したよ。あの話は本当だったか……。」


 残念そうに呟くクライス。

 ラヴィにも、『何か良く無い事が起こっている』と察しが付いた。


「あなた、かなり重要な情報を手に入れた様ね。話して貰えるかしら?」


「ああ、これは【君の野望】にも関わる事だからね。」


 ゴクリと息を呑む3人を前にして。

 クライスは語り出した。




「どうやら、国境付近で戦争が起きているらしい。」




 ……!

 信じられないと言った顔の3人。

 クライスは続ける。


「町外れに、戦争から逃れて来た錬金術師の夫婦が居たんだ。そこで話を聞いた。」


 その概要は以下に。




 平和だった国境付近の領地。

 そこへいきなり、隣国の帝国の軍隊が攻めて来た。

 こちらの国の隣の領地から。

 つまり、内戦に見せかけた侵攻。

 或る領主が裏切って、敵軍を導き入れたのだ。

 不意を突かれて、その領地はガタガタにされた。

 領主は民衆を城の中に入れ匿うと共に、籠城戦へと突入。

 戦火から逃れると共に、この危機を中央へ知らせる為。

 錬金術師夫婦は、懸命に首都へと向かっていた。

 しかしこの町で資金が尽き、身動きが出来なくなる。

 そこへクライスが現れた。

 宗主の人間と知り、事態収拾を彼に託した。

 クライスはすぐに、連絡網を通じて首都の実家へ事態を報告。

 夫婦はクライスの豊富な資金を受け取り、男の子と共に首都へと向かった。

 王の元へ緊急の報を知らせる使者として。



「何て事……!」

「まさか、その様な状況になっているとは……!」

「ああ、流石の俺もこの急展開は把握出来ていなかった……。」

「あと少し早く、この事を知れていれば……。」


 悔しがる4人。

 しかし、事態は急を要す。

 自分達の身分を上手く隠し、リッター卿にこの事を伝えて協力を仰がないと。

『リッター卿の体調が悪くなるかも』と、懸念しながら。




「なるほど、承知した。」


 寝室で横になりながら話を聞いたリッター卿は、あっさり引き受けてくれた。


「実は独りで猟に出ていたのも、町の不穏な空気を感じてな。原因を探る意味合いもあったのだ。そこまでとは……。」


「領地の不利な状況を変える為、私達は支度が出来次第向かうつもりです。」


「かたじけない、私が怪我などしなければ……うっ!」


「今は安静にして下さい。私達が何とかしますから。」


 興奮の余り起き上がろうとするリッター卿を、アンがいさめる。

『ふう』と、また横になるリッター卿。


「『そなた達なら何とかしてくれる』、その様な気持ちにさせてくれるな。少数であるのに……。」


「まあ、策は有りますから。」


 クライスがそう言うと、その場の誰もが頼もしく感じた。

 特にラヴィとセレナは。


「そうと決まれば、急がないと。」


 そう言って、セレナが部屋から飛び出す。

 老召使いが後に続く。


「アン。セレナを手伝ってやってくれ。」


「分かったわ、兄様。」


 アンもそそくさと出て行く。


『これはどうするの?』


 ラヴィはこっそりと、預かっている賢者の石をクライスに差し出す。


『君が持っていると良い。持ち主の願いを叶えてやってくれ。』


 ラヴィの野望は、夫婦の願いでもある。

 ラヴィは静かに頷いた。




 慌ただしく動く事3日。

 本当はすぐにでも向かいたかったが。

 念入りに準備をしないと、この状況を4人で覆す事は難しい。

 でも《難しい》だけで、《出来ない》訳では無い。

 クライスがそう言っているのだ、信じるのが妥当だろう。




 帝国内の関係を今一度整理し、その上で作戦を考える。

 現在地は、ラヴィの父が治める〔グスターキュ帝国〕内の一領地〔リッティ〕。

 首都の〔アウラスタ〕から4つ領地を跨いだ所。

 元々グスターキュ帝国は、30以上の領地から成る連合国みたいな物。

 ラヴィの嫁ぎ先だった〔ブレイア〕のその1つ。

 リッティからもアウラスタからも2つ隣り。

 攻められているのは、国境に在る〔セントリア〕。

 敵軍が侵入したのは、その隣の〔メインダリー〕。

 セントリアに居る敵軍を真っ向から攻めても、こちらに勝ち目は無い。

 そこで、メインダリーと接している領地〔サファイ〕・〔レンド〕・〔モッタ〕の3領主と極秘会談し、協力を取り付ける。

 孤立したメインダリーを急襲し、セントリアに駐屯する敵軍への補給路を断つ。

 幸いにも。

 セントリアの領主が居る城は、国境沿いに在る為強固で。

 関所の役目も有って、直接は敵国からの物資は届かない。

 逆に敵軍へ兵糧攻めを仕掛け、更に【或る事】をして戦意を喪失させ壊滅を図る。

 これが大まかな作戦。




 果たして上手く行くかしら……?

 ラヴィはかなり不安だった。

 王の庇護ひごもと、外の世界をほとんど知らずに育ってきた。

 自分なりにこの世界へ尽くすつもりはあったが、こんな濁流に早くも飲まれるとは。

 そんな気持ちを察してか、セレナがラヴィの両手をギュッと握る。

 それは『どんな事が有ろうとも、ずっと付き従う』と言う、断固たる決意の表れでもあった。




 グズグズしている時間は無い。

 彼女達、いやこの世界を左右するであろう。

 時の歯車が、加速し始めた。

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