第66話 関所開放、とそれに纏(まつ)わる話
ハウロム卿就任の演説から後。
それぞれが報告の旅に出た。
ケンヅにはヘンが赴いた。
『ノウもそれが一番喜ぶだろう』と、ハウロム卿に勧められたのもあった。
何より、『それが償いであり、けじめである』とヘン自身が考えていた。
ハウロム卿をユシに任せ、2名の部下を連れて街道を進んだ。
途中であの森の傍まで来ると、ジッと立ち止まる。
ここで出会った。
ここから始まった。
でもここは終点では無い。
そう思い、森を回避してケンヅへと向かった。
ケンヅでは、シスターが出迎えてくれた。
近衛隊隊長が直々にお出ましになったので、何事かと町は騒ぎになった。
修道院へ招かれると、寂れた教会内で子供達が遊び回っていた。
ふとその中に、ノウの影を見た。
それはきっと気のせいでは無い。
『一緒になって戯れているのだろう』と、ヘンは思った。
新しい領主に援助を進言する事を、ヘンはシスターに約束した。
泣いて喜ぶシスター。
自分の為では無く子供達の為に泣くシスターを見て、ヘンはノウが成し遂げたかった事のほんの一部を垣間見た気がした。
皆が安らかな時を過ごせる様。
大地の精霊らしい思いだった。
子供達に見送られながら、関所に向かうヘン達。
『良い町でしたね』と部下に声を掛けられながら、足を進める。
関所に着くと、兵士が今か今かと待ち構えていた。
領主エレメン卿から、《王女様の使者が来る筈だから、その時は丁重にもてなせ》と命があったのだ。
「あなたが使者ですね。話は領主より伺っております。」
兵士が挨拶する。
早速、ヘンはラヴィからの親書を渡す。
家紋等を確認し、本物と判断した兵士は。
号令と共に関所の門を開けた。
そこには、開門の噂を聞きつけた荷車等がずらりと並んでいた。
兵士のチェックを受けながら、喜び勇んで通り過ぎる商人達。
皆笑顔だった。
それを見て、ヘンは大層喜んだ。
そして、ノウが何処かでこの光景を見ている事を望んだ。
「申し訳無い。検問に忙しく、もてなせそうにございません。」
「構わんよ。忙しい事は即ち活気がある事だからな。それにまだやる事があるのでな。」
やる事?
部下達が疑問を持ちながら、関所を後にするヘン。
再びケンヅの町へ行き、頭を下げて町民に頼んだ。
事情をシスターから聞かされていた信徒達は喜んで。
他の町民も、ノウに対する後ろめたさもあって全面協力した。
こうして、あの森の真ん中にハウロム卿の母親の墓が建てられた。
供養に訪れる人の為の道も整備された。
何時かその道は正式な街道となり、墓は供養塔に変わって旅人が道中の安全を祈る場となった。
そして誰が名付けたのか。
何時しかその森は、前向きな意味を込めて〔イエス・メモリー〕と呼ばれる様になった。
ロッシェは、ライの町を目指していた。
途中で何も無い場所に辿り着き、トワとの出会いを思い出す。
ついこないだの事なのに、遠い過去の様に感じた。
それだけ、旅が濃い物だったのだろう。
ライでは、心配していた町民がドッと集まる。
色々旅話をしたかったが、まず関所へ向かった。
ここでも兵士が、使者の到来を待ち構えていた。
ヘンと同様に親書を渡すロッシェ。
何処かでまだ、ラヴィがただの行商人ではないかと思っていた。
しかし関所を開いた兵士の言葉に、現実をまざまざと見せつけられた。
「領主リーフ卿のお言葉通りでした。王女様のお知り合いとは、凄いですね。」
こんなにあっさり関所が開くとは。
しかも聞く所によると、閉所はラヴィの命だったと言うではないか。
どれだけ凄いんだよ、あの一行は。
そう考え、一つの決意が心に浮かんだ。
ライへ戻ると、町民が嬉しそうに言った。
「お前さんのお陰だよ!見ろ、この荷車の数を!やっぱりこうじゃなきゃあな。」
通行する人が落として行く、お金と物資で潤う町中。
下を向いていた顔が、今や空を見上げている。
その様子が、ロッシェには誇らし気だった。
世話になった町長の所へ出向いたロッシェ。
そこでも歓待され、名誉町民の称号を受けた。
受けたと言うより、無理やり渡されたのだ。
そこでロッシェは切り出す。
「世話になってたのに悪いんだが、俺はまた旅に出ようと思う。」
「そんな!やっとあんたの居場所が出来たってのに……。」
町民の1人が寂しがる。
わざわざロッシェの家をこさえてくれたのだ。
「有り難いけど、決めたんだ。もっと強くなるって。家は、俺の様な冒険者の宿泊所にしてくれ。」
ロッシェの身の上を聞いていた町長は、意図を酌んで皆に言った。
「彼は十分この町に尽くしてくれた。これからは、彼が気軽に戻って来れる様にしようではないか。」
『姉探しをしたいのだろう』と思った町長。
その為に強くなろうとしているのだから。
今度こそ大事な人を守る、と。
「居着きたくなる様な町にしてやるからな。」
「たまには寄ってくれよ。」
掛けてくれる言葉の温かさに、涙を浮かべるロッシェ。
『泣くなよ』と肩組みする奴も居た。
優しさついでに、甘えて良いだろうか?
ロッシェは或る申し出をした。
「みんな、この町だけで無く《ここに来るまでの道》もお願い出来るだろうか……。」
頭を下げてお願いするロッシェ。
何も無い場所を突っ切るのは大変だ。
少しでも旅人の負担を和らげたい。
そこでロッシェは考えた。
相談の結果、町民は出来る事から始めた。
トワとの出会いの場。
そこにまず風の流れを受け流す様に、楔状に木の板を連続で打ち込む。
その内側に土を盛って行く。
木の板は、盛った土が風で飛ばされない為の工夫でもある。
盛った土の更に風下側に、木の板を同じ様に打ち込む。
その内側に、また土を盛る。
そうやって繰り返し、木の板が楔状に並ぶ小高い丘が形成された。
丘の風下側には。
盛る為に土を削ったくぼみを利用して、休憩所が作られた。
旅人はここでキツい風をやり過ごし、体力を取り戻してまた進む。
その丘は。
トワとロッシェとの出会いの秘話からか、自然に〔エンジェル・フォール〕と呼ばれる様になった。
イーソの町には、アンとセレナが向かった。
託されたのが一行だった事。
クライスとラヴィは、ハウロム卿に纏わる色々を手伝う為に残った事。
様々を加味した結果。
オズは、主人の魔法使いにこれ等の事を伝える為。
何処かへ飛んで行った。
クライスは、『旅をしていればまた会うだろう』と言っていたが。
ロール婆さんと孫の少年、そして町長が出迎えてくれた。
何やら関所の向こうから騒がしい音がする様になったので、ひょっとしてと思っていたらしい。
町長はロール変貌の理由を聞かされ、漸く安堵した。
「もう、あんな事にはならないですよね?」
アンに尋ねるが、使い魔は気まぐれなのでハイとは言い切れない。
歯切れを悪くするアンを見かねて、『困らせるんじゃないよ』と助け舟を出すロール。
『そうだそうだ』と少年も囃し出す。
それを見て頭を抱える町長。
心の中で『御免なさい』と謝りつつ、アンとセレナは関所へ向かった。
関所では、兵士が解放のスタンバイをしていた。
仕掛けた当人が戻って来たので、『作戦が成功したのだ』と兵士は大喜び。
早速開放する。
親書も見ずに。
途端に人がなだれ込んだ。
皆、特産のフルーツを売りたくてうずうずしていたのだ。
特にリンゴは、戦地に近い程高値で売れる。
皆パラウンドを目指して、街道は馬車や荷車が連なった。
『ご苦労様でした』と、兵士に労われる2人。
『この度は済みませんでした』と謝り回るセレナ。
『仕方無かったんだから、別に良いでしょ』と思いながら、セレナと一緒に謝るアン。
美少女2人に頭を下げられて、『いやややよして下さい、私が怒られます』と慌てる兵士達。
その顔はまんざらでも無かったが。
こうして、アンとセレナの謝罪行脚は終わった。
再びパラウンドに向かうヘン、ロッシェ、アンとセレナ。
その頃、セントリアでも動きがあった。
いよいよ……。




