第64話 領主、交代
「お、来たな。丁度良い、在庫処分しといてくれ。」
クライスは、リゼが便利屋か何かだと思っているのだろうか。
「何だい突然。そんな事言って、あたいが靡く訳が……。」
怒るリゼに、ヴェードを指差しながら言うクライス。
「こいつはメインダリーの実権を握ってた錬金術師。あんたの元雇い主さ。さぞ良い物を隠してる筈だぞ。」
「それは本当かい!」
喜ぶリゼ。
はしゃぐのを削ぐ様に、一応忠告しておく。
「中には、触るだけで命に関わる物も有るからな。物色するなら慎重に……。」
言い終わる前に『お前達、お宝を攫いに行くよ!』と言って、出て行ってしまった。
入って来たばかりのスティーラーズ残り2人は、とんぼ返りで慌ただしく。
流石のクライスも、2人に同情せざるを得なかった。
振り回されるのは御免だから。
でもまあリゼは物を見る目が有りそうだから、危ない目には会わないだろう。
彼等と入れ替わりに、ラヴィ達が到着。
「けりは付いたの?」
「ああ。尋問はまだだがな。」
「ふうん。で、どうするの?」
部屋の中を見回して、ラヴィが尋ねる。
怯えている元領主、悔しがる錬金術師。
後は……ん?
「あれ、あんた何処かで……。」
「ミセルだ!忘れたのか!」
「ああ、そんなの居たっけ。」
「貴族に対して、何たる侮辱!無礼者!」
ラヴィの態度が気に食わなくて、イライラするミセル。
良いのかしら、そんな事言って。
セレナは内心思う。
「こっちはこれから……。」
ラヴィがそう言いかけた時。
咄嗟に抱き付き、ラヴィの首を絞めようとする者。
何もかもに絶望して、自暴自棄なヴェード。
「誰でも良い!道連れに……。」
そこでヴェードの動きが止まった。
びっくりして、クライスの方へ身を寄せるラヴィ。
すぐにセレナがヴェードを取り押さえる。
アンは余裕の表情。
その他は唖然としていた。
何が起きたのか。
説明を待っていた。
「セレナ、寝かせておけば大丈夫だよ。」
クライスにそう言われて、ヴェードから離れるセレナ。
ヴェードは寝かされたまま、全身を引き攣らせている。
クライスはヴェードの頭を持ち上げ、首の裏を見せた。
皆が良く見ると、細い金の首輪をしている。
そこから何かが……。
「金の針を、首の神経節に打ち込んだ。こいつは今から、俺の肉奴隷みたいなもんだ。」
『本当はこんな事、したく無いんだがな』と付け加える。
それでも原理が分からない人達。
少女のトワ。
召使い人生のユシ。
筋肉だるまのロッシェ。
ヘンは、辛うじて理解した様だ。
「『操り人形の糸を掴んだ』と言う理解で宜しいか?」
ヘンがクライスに聞く。
「良い例えですね。今度から使わせて貰おうかな。」
感心するクライス。
的確な表現。
それは理解が早い事を意味する。
交渉相手には持って来いだが……。
クライスはアンの方を見るた。
察してか、アンは首を振る。
もっと相応しい相手が居る、と。
『なるほど』と、クライスは頷いた。
「領主は偽物と判明。なので早急に、正式な領主を決める必要がありますが。」
クライスは、この場で皆に提案。
ラヴィは既に交渉相手を決めていた。
「それなら、正当な血統のこの子が適任ね。トワだっけ?良いわよね。」
ラヴィが尋ねる。
トワは少し迷っていた。
自分にその様な大役が務まるかしら……。
その時、ユシが肩に手を添えて言う。
「大丈夫。私達が支えます。」
その言葉で、覚悟を決めた様だ。
トワは宣言した。
「これよりメインダリーは、この【トワイニング・エルス・ハウロム】が治めるわ!良いわね!」
一同拍手。
これにて承認完了。
ヘンが前に進み出る。
「ではあなたが、今から我が主【ハウロム卿】。宜しいですね?」
「お父さんの様にはなれないかも知れないけど、宜しくね。」
ヘンとトワ、今はもうハウロム卿、は堅い握手をした。
ユシも前に進み出る。
「私【ユシード・オレイム】も、全力でお支えします。」
握手を交わす人数は3人になった。
『これで漸く話を進められるわ』と安心するラヴィ。
でも事には順序がある。
クライスはトワに言う。
「ではハウロム卿、手始めに民衆への挨拶を。就任した事を、高らかに知らしめましょう。」
それは、民を安心させる為にどうしても必要な事。
ヘンもそれを勧める。
何て言おうか迷うハウロム卿。
展開が早くてまごまごしているロッシェに、ラヴィは言う。
「私達はまず、〔陳情書を確かに渡した〕事を町へ報告しないと。」
「そ、そうだったな。でも、根本的な解決が……。」
そう。
領主には知らせた。
しかし、それで関所が解放される訳では無い。
その事実がロッシェを躊躇わせるが。
ラヴィはあっけらかんと言う。
「それは気にしなくて良いわ。ね、クライス?」
「ああ。サファイ、レンド、モッタ、後はセントリアにも知らせないとな。」
「それはどう言う……?」
ロッシェがクライスに疑問を投げ掛けた時。
クライスの手から、4羽の燕が飛び立った。
黄金の燕が。
見た事も無い物体に、ロッシェだけでは無くヘンやハウロム卿も驚いた。
それに付け足したラヴィの言葉で、更に驚く事に。
「ちゃんと加えといて。《グスターキュ帝国第1王女〔マリアンナ・グスタ・アウラル〕、無事成し遂げました!》ってね。」




