第62話 大地に力が戻る時
輝く、輝く、ノウの体。
周りの目を引き付ける程に。
そしてふわりと宙へ浮いた。
地面から40センチ程の高さまで。
「力が戻った様です。良かった。」
ノウはそう呟いた。
その姿に皆びっくり。
普段早々驚かないアンさえも。
中でも一番だったのは、抜け殻の様になっていたヘンだった。
「き、記憶が戻ったのか?」
恐る恐るノウに尋ねるヘン。
「『戻った』と言うより、『制限が解除された』と言うべきでしょう。」
何故かノウが神々しく見える。
取り戻した力で、ノウはこの町に居る全員へこれまでの真実を見せた。
それはスライドショウの様に流れて行った。
トワはそこで、魔物に変わってしまった母親がヘンに打ち倒された事を知る。
その事実を知り、町全体が悲しみに包まれた。
しかし、ノウはヘンに告げる。
「彼女は感謝していましたよ。《人に危害を加える前に倒してくれて、ありがとう》と。」
「わ、分かるのか?」
「ええ。彼女の思いは、今も土の中を通り過ぎていますから。」
「き、君は一体……?」
誰もが思うその正体。
ゆっくりとノウは話し始めた。
私は、俗に言う【土の精霊】です。
精霊と言うのは例えで、そこにいらっしゃる錬金術師さんの言葉をお借りすると《土のエネルギーを概念化した物》と言った所でしょうか。
近年この辺りの土地から、無理やりエネルギーを吸い取られて弱っていました。
そこで元を辿ろうと実体化した訳です。
でもぼろを出して正体が発覚すると、厄介な事になりかねません。
ですので自ら記憶を制限したのです。
力が戻れば解除される様に。
先程土にエネルギーを注ぎ込まれた時、はっきりと分かりました。
『災いの元凶が取り除かれたのだ』と。
尽力してくれた方々には、感謝の言葉が足りません。
特に、屋敷の奥から感じる温かい心の持ち主に。
彼無くしては、力は戻らなかったでしょう。
どうか彼に祝福を。
そしてこれからのこの土地に、輝かしい未来があらん事を。
「ま、待ってくれ!まだ聞きたい事があるんだ!」
消えそうなノウを、必死で引き止め様とするヘン。
「森で会ったのも偶然か?」
「はい。全くの偶然です。」
「じゃあ、お前がケンヅの町に辿り着いたのは?」
「あの町には、大地の神なる者を信仰する集団がいました。それに惹かれたのかもしれませんね。」
「じゃあ、じゃあ……。」
質問を続け様とするヘン。
しかしノウは遮る。
「私の事はもう良いのです。目的は達しました。今は……。」
そう言って、トワの方を向いた。
「目の前に居る《守るべき人》を、しっかりと見てあげて下さい。」
「でも、俺は……罪を……。」
そう言ってうな垂れるヘンの顔を、『パシーン!』と叩くトワ。
「私も、前は自分の事ばかりしか考えてなかった。でももう嫌!大事な人を失うのは!だから……。」
続くトワの言葉は。
「力を貸して頂戴。あなたの力が必要なのよ。」
「しかしお嬢様、俺は……。」
パシーン!
またヘンの頬を叩く。
「この精霊さんが言うんだもの、母さんは恨んでいないわよ。私もね。憎むべきは他に居るって知ってるから。」
「申し訳……ございません……。」
頭が上がらなかった。
お嬢様やノウの言う通りだ。
前を向き大事な人を真っ直ぐ見据えねば、亡くなった方々に申し訳が立たないではないか。
それこそ、騎士道に反する。
近衛隊隊長の本分は……。
「許して下さるのなら、この命を賭して必ずや守ってみせましょう。」
幼い主君に、『今度こそ』と誓うのだった。
「だから言ってるじゃないの。宜しく頼むわよ。」
ヘンの肩に手を置いて労うトワ。
傍によるユシ。
ユシの肩にも手を置く。
しみじみとした後、ロッシェの方を向いて言う。
「ありがとう、ロッシェ。約束を守ってくれて。」
「おうよ。騎士を目指してるんだから、当然だろ。」
頭を掻いて照れ隠し。
人の役に立てて、本当に嬉しかった。
「あの、良かったら……。」
トワがそう言いかけた時、ノウが一際輝きを増した。
「もう大地に帰らねばなりません。お世話になりました。」
「あ、ああ!」
咄嗟に手を伸ばすヘン。
それも届かず。
『大丈夫です。地面に触れてみて下さい。そこに私は居ますから。何時でも。何時でも……。』
そう言うと、ノウは姿を消した。
ヘンは泣いていた。
別れの挨拶位、きちんと言いたかった。
たった少しの時間でも、一緒に過ごせて良かった。
ありがとう、と。
『きっと届いてるわよ』とトワは言う。
『そうだと良いのですが』と思い直し、ヘンは立ち上がる。
もう下を向いてばかりはいられない。
しっかりしないと。
その日以来、1日1回地面に触れるのが習慣となったヘンだった。
満足した顔のロッシェ。
これでまた、立派な騎士に一歩近付いたかな?
そんなロッシェにトワが声を掛ける。
「ロッシェさえ良かったら、これからも私を支えてくれないかしら……?」
騎士に憧れるのだから、一緒に居てくれる筈。
そう思っていた。
しかし、期待とは違う答えが返って来た。
「いや、今の俺じゃ役不足だ。」
「え……?」
「まだ修行が足りない。もっと強くならないと。今回の事で痛感したよ。騎士の道は遠いぜ。」
そう言って、遠くを見る目になるロッシェ。
「離れちゃうの……?」
寂しそうに呟くトワへ向かって、ユシが言う。
「ロッシェさんは確かにおっしゃいました。《今の》と。『永遠に、では無い』と言う事ですよ。」
「そんな所だ。何時かきっと力を付けてここに来るよ。その時は雇ってくれよな。」
ハハッと笑うロッシェ。
その思いに応えよう。
トワは思った。
ならば。
「私から、騎士の称号を贈るわ。それ位させて頂戴。」
「おいおい、だから俺はまだ未熟で……。」
ジッと見つめるトワに、根負けするロッシェ。
「じゃあ肩書だけな。」
ロッシェの言葉に頷くトワ。
とても嬉しそうだった。
「こっちは無事終わった様ね。後は……。」
「中のクライスね。何が起きたか問い質さないと。」
アンとラヴィがそう言って見つめ合っている時。
中には、とんだ客が紛れ込んでいた。




