第6話 或る小さな情報、だが……
「昨夜はぐっすり眠れましたかな?」
「ええ、お陰様で。」
「この様な事までして下さるとは……。主治医も『勉強になる』と申しております。」
「安心して旅立ちたいので。お役に立てて光栄です。」
主治医のサポートの下、リッター卿の怪我の具合を診ているアン。
老召使いは心から感謝していた。
アンの医学知識は生半可なレベルでは無く、錬金術を応用して人間の治癒能力を活性化させる為。
通常の何倍ものスピードで治りが早かった。
「元々、兄様を助けたい一心で学んだ技術です。『それを人の為に使って欲しい』と言うのが兄様の願いで有り、私の生き方でも有るんです。」
「それは高尚なお心構えですな。……ところで、他の方は?」
「それぞれ、何かを得ようと町を散策しています。旅の助けになる様な……。」
「そうですか。私達もお礼をせねばと相談していた所です。出来る限り協力させて下さいませ。」
「兄様達が聞いたら、さぞ喜ぶ事でしょう。ありがとうございます。」
思わぬ援助の申し出に、感謝するアンだった。
「近隣の町について、何か情報が欲しいわね。」
「クライス様が動いてらっしゃいますから、多少収穫は有るでしょう。」
「私達に出来る事と言えば、物資調達位ね……。」
「そうですね。せめて護身用の何かを、手に入れておきませんと。」
『その身なりで町中を動き回るには、少々面倒だろう』と。
リッター卿の好意で貰った、召使い用の衣服に袖を通し。
なるべく小声で言葉を交わしながら、ラヴィとセレナは市場らしき場所をうろうろしていた。
すると、セレナが小物店で奇妙な物を見つける。
「ご主人、これは何ですか?」
「ああ、これかい?これは余り使い道が無いんだけど、旅する時に便利なんだよ。」
「と言いますと?」
「ナイフになったりフォークになったり、色々な使い道の出来る機能をギュギュッと詰め込んだ物さ。」
「へえ、何か使えそう。1つ頂けるかしら?」
ラヴィが興味を示す。
そこをセレナが窘める。
「無駄遣いは禁物ですよ!」
「でもこれ、欲しいなあ……ねえねえ?」
「しょうが無いですね……。後でクライス様に説明して下さいよ?」
変な猫撫で声で擦り寄るラヴィに、渋々妥協するセレナ。
店の主人からブツを受け取るが、ラヴィがサッと横から奪い取る。
ご満悦な笑みを浮かべ、うっとりしながら眺めている。
「おまけにこれを付けとくよ!」
店の主人は。
布に包まれた手のひらサイズの物を、一緒に渡してくれた。
「中身は開けてのお楽しみ、ってね。ありがとよ!」
去る時に主人は何故か、ブンブン手を振ってくれた。
疑問に思いながらも、そんじょそこらの美貌の持ち主で無い事に気付かない2人だった。
「何か……変だな……。」
ラヴィ達とは反対方向に歩いていたクライス。
町の隅に、小汚い格好の人をちらほら見かける。
この町が、何か問題を抱えている様には思えないが。
領主が独りで猟に出かけられる位だし。
「お前なんか、町から出て行け!」
3人の子供から、石を投げられている男の子。
それを見つけたクライスは。
『放っては置けない』と、早速世話を焼く。
「どうしたんだい?何でそんな事を言うのかな?」
「こいつ、他の町からの流れ者なんだ。」
「邪魔なんだよ。」
「どうして?」
「不幸が移る!」
「そんな事無いやい!」
「でもお前の居るとこ、変な臭いするじゃねえか。怪しいんだよ!」
「それは……。」
言葉に詰まる男の子。
何か大変な目に会って、ここまで来たのだろう。
何か情報が掴めるかも知れない。
「じゃあ俺が確かめてやるよ。不幸になるかどうか。それで良いだろ?」
「あんちゃんに何が出来るんだよ!」
「そうだそうだ!」
口々に叫ぶ子供達に対し。
クライスは男の子に投げつけられた小石を拾い上げると、手の中に包む。
『こんな事位、かな』と言いながら手を開くと、小石は黄金色に輝いていた。
子供達は絶句。
それぞれ手に取って、まじまじと見る。
突いたり、叩いたり。
しかし中まで完全に、金へと変わっていた。
「わ、分かったよ。そこまで言うんなら……。」
「これは返さないぞ!証拠に持って帰るからな!」
「良いよ。じゃ、交渉成立だな。」
『べーだ!』と言う顔をして。
子供達は去っていった。
男の子はクライスに礼を言う。
「お兄ちゃん、ありがとう。でも良いの?僕のせいで今度は……。」
そう言ってうな垂れる男の子の頭を。
そろりと撫でるクライス。
「俺も良く似た事を味わってるからね。それに、さっきの【変な臭い】っての、覚えが有るんだよ。」
「……え?」
「それは、君の両親がやってる事に関係するんだろう?ひょっとすると、俺の仲間かもってね。俺が普通じゃ無いのは、さっき見せたろう?」
「うん……そうかあ、じゃあ付いて来てよ。お兄ちゃんなら、もしかして……。」
そう言って、男の子はクライスの手を引き。
町外れの方向へと歩き出した。
「やはりそうか……。」
男の子に連れられてクライスが到着した場所には、錬金術の道具一式が藁に隠されていた。
そして、藁の傍で守る様に座る2人。
ジッとクライスを見やると、プイッとそっぽを向く。
しかしクライスが〔宗主家の紋章入りブローチ〕を2人に見せると、態度が急変。
「まさか!あなた様は……!」
「お察しの通り、私はベルナルド家の者です。訳有って旅をしています。あなた方は、この町の方では有りませんよね?」
「はい、実は……。」
そう言って涙ぐむ2人。
そこから語られた事実。
内容に動揺せざるを得ないクライス。
早く何とかしないと……!
一通り話を聞き終え、リッター卿の元へ戻るクライス。
その足は、自然と早くなっていた。




