第54話 宿探しでの様子は……
町に入った直後の、クライスとオズとの会話。
『入った途端に、魔力が強くなって来たな。』
『ああ、気を付けた方が良さそうだぜ。何なら俺が探って来ようか?』
『いや、このままで良い。俺の予想通りなら、《奴》はオズに気付く筈だ。』
パラウンドの町は、国境にも関わらず規模が大きい。
東西に長い楕円状をしていた。
なので、大抵は町に入ると真っ先に宿を探す。
用事は次の日に、と言う訳だ。
使者達も例外では無かった。
「宿はどうするんだ?」
町に入って、ノウに尋ねるヘン。
「宿代位は持たせて貰えましたが、長居は出来ません。」
資金が乏しいとこぼすノウ。
『陳情書さえ渡せれば良い』と言う、まるで使い捨ての様な扱い。
気の毒に思うヘン。
「一緒に泊まってやる事は出来ないが、せめて明日迎えに来よう。俺が案内するよ。」
一度詰所に戻らなければならない為、一旦ここでお別れ。
宿屋まで案内すると、『また明日な』と言って去るヘン。
その後ろ姿にお辞儀で返すノウだった。
「ええと、医者は何処だ……?」
町に入って早速、治療の為にきょろきょろするロッシェ。
カモフラージュのつもりが、本当の患者になろうとは。
しかしこれ幸い。
トワを医者に見せて入院させれば、自分1人で動ける。
瓢箪から駒。
何処だ……?
「……あそこ。」
トワが指差す。
本当だ。
あった。
でもやけにあっさりだな。
「私達が通った橋は領主の屋敷に一番近いから、攻め込まれ易いんだ。そして傷付いた兵士が真っ先にここを通るから、医者はここが一番近いの。」
トワの説明を聞くと、『なるほど、そうなのか』と思ってしまう。
しかし、何で詳しい?
ずっと地下で捕らわれの身だったんだろ?
それとも、束縛されていたのはそんなに長い期間では無かったのだろうか?
そもそも、ここ出身だったのかさえ聞いていない。
それはトワの自主性に任せていたから。
何時か自分から話してくれると思っていたから。
それでも良い。
今自分に出来る事をするだけ。
すぐに医者へトワを診せる。
やはり腫れが酷い様だ。
『2、3日引くのに掛かる』と言われた。
なら、ここで預かってくれないか?
医者に相談すると、快く引き受けてくれた。
お金と引き換えに。
何でも、領主が変わってから怪しい診療医が屋敷に居座り。
たちどころにどんな病気も直してくれるとか。
それで商売あがったりなのだそうだ。
「住民が健康なら、医者として本望でしょうに。」
ロッシェが言うと、医者は首を振った。
「健康になったんじゃ無い。《意図的に病気をばら撒いて、治療を一手に請け負っている》と言う噂だ。」
『本当なら医者として許せん』と、怒りを露わにする医者。
『そんな事が出来る者など居るのだろうか』と勘繰りながら。
『じゃあ、明日確かめて来ますよ』と医者に言うロッシェ。
その服の裾を引っ張って、トワが囁く。
『何でも安易に引き受けるもんじゃ無いよ。』
『なあに、ついでさ。トワの件の様にな。』
呆れるトワ。
『その手で救えるなら、何でも救いたい』と貪欲なロッシェ。
それが裏目に出なければ良いが。
ロッシェは町へ出て、宿を探し始めた。
クライス達一行も、宿を探していた。
「簡単に見つかると思ったんだけど。」
「宮殿とは違うんですよ?そう簡単には無理でしょう。」
「でも今まではすぐ見つかったじゃない?」
「それは町の規模が小さかったからですよ。ここは広そうですから。」
ラヴィとセレナが話しながら歩く。
「あ、あれ!」
宿らしき看板を見つけて指を指すアン。
町に入ってウロウロする事30分。
漸く休める……。
ため息を付くラヴィ。
『早く行きましょ』と、途端に元気になる。
『はいはい』と言って付いて行くアン。
そしてセレナ。
クライスは、すれ違う人達の中に。
自分の左肩をじっと見てギョッとする顔を、見逃さなかった。
「いらっしゃい。何名様で?」
宿の主人がラヴィに話しかける。
「ええと……。」
「4名!あと3名追加で!」
カウンターにダンッと片手を付いて割り込む。
ゼエゼエ息を吐きながら、もう片方の手でガシッとラヴィの肩を掴み。
宿主に言い放つその声は。
「リゼ!」
「良いじゃないの。ハア、一蓮托生でしょ。ハア、あたい達。フゥ……。」
その後に、ドスドスと続いて宿に入って来る音。
「早いっすよー。」
「置いて行かないで下さいなー。」
息切れしたヘリックとボーンズ。
「良く渡れたわねえ。」
感心するアン。
『そこは触れないで』とばかりにギロッと睨むリゼ。
隠し通路で相当嫌な目に会ったらしい。
「仕方無いな。今回は奢ってやるよ、その意地に免じて。」
「全部で7名様ですね。少々お待ちを。」
そそくさと奥へ引っ込む宿主。
ホッとするもつかの間、傍から大きなため息が聞こえた。
ラヴィがその方を見ると、傭兵の様な恰好をした大男が立っていた。
かなり困った顔をしている。
興味をそそられた。
「どうかしました?」
悪い癖と知りながら、おずおずと尋ねるラヴィ。
男は答えた。
「やっと宿が見つかったのに、お金が足りないんだ……。」
「それは気の毒に。宿代が足りないとなると、食事代も無いのでは?」
「そうか!飯もあったな。困った……。」
うな垂れる姿を見て、助けたくなったラヴィ。
クライスはその様子を見ていた。
『ほとほと困ったお姫様だこと』と、心で思っていたかは分からない。
しかし、戻って来た宿主に言う。
「済みません、あの方の分も追加で。料金はこれで足りますか?」
ドサッとお金を置く。
宿主はびっくり。
10人が2週間貸し切り出来る位の金額。
『駄目なら他を当たりますが』と言うクライスの腕を掴んで、『さあさあこちらへ』と特別待遇。
他の宿に取られまいと強引な態度に、クライスはにんまり。
暫くは、ここを拠点に活動出来る。
流石と感心するアン。
『やっぱりこうなるんですね』と思うセレナ。
気前の良さに驚く男を、ラヴィが激励する。
「大丈夫。もう安心ですよ。私はラヴィ、行商人です。あなたは?」
男は答える。
「俺はロッシェ。領主様に陳情書を届けに来たんだ。いやあ助かったよ。」
調子に乗って、医者に宿代が足りなくなる位あげてしまったロッシェだった。
「へえ、それは奇遇ですね。私達も頼まれて、代理で陳情書を届けに来たんです。」
「本当か!」
凄い勢いで食いつくロッシェ。
両手で肩を掴んで、ゆさゆさと揺さぶる。
いきなりの態度豹変に、たじろぐラヴィ。
「え、ええ。イーソの町に頼まれまして……。」
「そうか、そっちもか。」
「と言いますと?」
「俺はライの町の代表で来たんだ。良かったら聞かせてくれないか?ひょっとすると同じ状況かも……。」
連れて行かれるクライスの方を向くと、こくんと頷いていた。
他の町の情報が得られるなら、それに越した事は無い。
『分かりました、情報交換しましょう』と応じるラヴィ。
宿泊する手続きをするクライス達を尻目に、早速風呂に向かうスティーラーズ。
そして、それぞれ夜を迎えた。
その一方で、領主の屋敷においてクライスの事を告げる者有り。
その相手こそ。
サファイ・レンド・モッタと荒らしては、ほくそ笑んでいた影。
襟の裏に、金の小人付き。
『ピコーン!』と言った顔付きになったのを見届けて。
またも小人から分身が分かれ、トコトコと歩いて行った。
悪知恵が回るさしもの影も、金の小人には気付いていなかった。
これが、これからの行方を左右するとは思いもせずに。




