第53話 使者、入城
ノウ達は、跳ね橋の袂まで来た。
各検問所には、衛士が2人常駐している。
その内の1人がヘンに近付いて来る。
「お帰りなさいませ。」
ヘンに向かってお辞儀をする。
「ご苦労。何か変わった事は?」
「特段ございません。……そちらの方は?」
「あ、ああ。領地境で異変があってな。領主様へご報告する為連れて来た証人だ。」
打ち合わせ通りの受け答えをするヘン。
自然に受け取られた様だ。
「それは急がれませんと!おい、対岸に連絡しろ!橋を降ろす様に!」
もう1人の衛士が、それを受け合図を送る。
ギギギイッと軋む様な音がして、跳ね橋が降ろされた。
「ささ、お通り下さい。」
「速やかな対処、感謝する。」
「お嬢さんも、お気を付けて。」
「ありがとうございます。」
衛士に一礼して、ヘンの後を付いて行くノウ。
2人が渡り終えると、また速やかに跳ね橋は上げられた。
石橋の袂の検問所に着く前。
自分の替えの服をトワに着せるロッシェ。
みすぼらしい服は反って目立つと考えた。
後は《トワが勝手にやった事》。
止めて置けとは言ったんだが……。
「どうしたんだ、その顔は?」
衛士が建屋から出て来てびっくりした。
そこには、〔男物の服を着た少女?〕が顔を膨らませて立っていた。
面が割れていると思い、一目では分からない様自分で自分の顔を殴ったのだ。
念入りに、何発も。
手加減無しに。
痛々しく思いながら、トワの覚悟を感じるロッシェ。
ここは上手く切り抜けないと。
「ここに来る途中で賊に出会ってな。何とか撃退したが、最後は素手の殴り合いになってこの様さ。」
呆れた様子で話すロッシェ。
やり過ぎてモゴモゴとしか話せないトワが、逆にリアル感を醸し出していた。
「そうか、大変だったな。早く医者に診て貰うと良い。」
そう言って、早く渡る様促す衛士。
「ありがとう。」
衛士にお辞儀する2人。
トワを庇いながら渡るロッシェ。
渡り終え振り返ると。
気の毒に思ったのだろうか、衛士が手を振っていた。
ロッシェは手を振り返し、町へと入って行った。
そしてトワにボソッと。
『さて、これからが正念場だぞ。お前さんをこのまま、領主の所へ連れて行く訳にはいかんからな。』
陳情書は届けなければならない。
それが本来の目的だから。
でもトワの力にもなりたい。
手助けをする事によって、境での異変と関わりが出て来るかも知れない。
そんな予感がしていた。
クライス達も、仮の橋に見える木組みまで来た。
鉄砲水で押し流されそうな簡単な造り。
『それも防衛の為なのだろう』とラヴィは思った。
検問所から、例の如く衛士が出て来た。
「何用か?」
行商人の格好をしているので、当然の反応。
クライスが紹介状を見せる。
『このまま行っても突っ返されるだろう』と、ロール婆さんがその場で書いてくれたのだ。
イーソに続く検問所なので、町の重役の名前は知っていた。
筆跡を2人で確認し、間違い無いと頷き合う衛士。
「通って良し。ところで……。」
「何か?」
衛士がラヴィに問い掛ける。
「良く紹介状を書いて貰えたな。かなり気難しい方だと聞いているが……。」
「いえ、とても温厚な方でしたよ。」
代わりに返事をして、左肩に留まる文鳥をギロッと睨むクライス。
涼しい顔をして横を向くオズ。
『やり過ぎた自覚はあるのね』とアンは思う。
さて、後はあいつ等を引き離すか。
そうクライスは思い直し、遠くの木陰を指差して言う。
「俺達の商品を狙ってか、賊らしき者達が付けて来ています。排除した方が宜しいかと。」
「何!本当か!」
それを聞いて。
もう1人の衛士が双眼鏡の様な物を持ち出し、指を指された辺りをジッと見る。
すると、何やら蠢いていた。
あれは、確か何処かで見た気が……。
……。
「あっ!」
「何か居たか!」
「間違い無い!手配書にある盗賊団だ!」
「本当か!おいお前達、さっさと渡ってくれ!」
「わ、分かりました……。」
急な圧力で戸惑うセレナ。
その肩を抱いて、橋を渡って行くアン。
ラヴィが続き、最後はクライス。
一行が渡り終えると、ピタリと付けていた衛士達が橋の中央を木槌で叩いた。
そして素早く渡る。
『しまった!』と気付いて駆け寄るリゼ達をよそに、『ガララアアッ』と崩れ落ちる橋。
対岸で悔しがるスティーラーズを見て、取り敢えず安心する衛士達。
町の入り口にも衛士が配置されているが。
一連の様子を見ていたのか、ため息を付いてこう言った。
「また作り直しか。業者に頼んでも、いつ通れる様になるか……。」
一方。
橋を切り崩されて、困り果てる盗賊団。
「どうします、姉御。渡れなくなっちゃいましたが……。」
頭を抱えオロオロするヘリック。
それとは対照的に、すぐに別のルートを探し始めるボーンズ。
無茶な注文はいつもボーンズの役目。
こう言う時ヘリックは役立たずだから。
自然と動いていた。
ジッと考え込むリゼ。
『甘いよ、これ位で逃げ果せるとでも?』
次に会う時には、何をしてくれよう……。
お返しを何にするか考えながら、不敵な笑みを浮かべるリゼ。
それを見て余計にオロオロするヘリック。
遠くからボーンズが呼んでいた。
どうやら、抜け道の様な物を発見したらしい。
万が一の隠し道。
早速そこを通る3人。
蜘蛛の巣を避けながら。
天然の要塞にそれぞれ入って行った使者。
それに付いているおまけ。
それぞれの思惑とは関係無く、影が……。




