第48話 現状から導き出される、恐ろしい推測
「事の起こりは、かなり前だったんじゃ。」
ジューが語り出した事。
その内容は、それだけで物語に出来る程だった。
ヘルメシア帝国がグスターキュ帝国への侵攻プランを立てたのは、先々代の皇帝の頃。
密かに、配下の者を国境付近の領地に潜り込ませた。
敵国の王に感づかれぬ様慎重を期する為、水面下でゆっくりと作戦を進行させた。
まずは何処かの村に紛れ込み、民衆と同化する。
次に、首都へ労働者の振りをして移動。
それなりの地位の者に取り入る。
同時に他の村や町にもスパイを送り込み、動向を探る。
それなりの地位を獲得したら、いよいよ撹乱に入る。
メインダリーから軍を侵攻させる折、その情報を中央に伝わらない様にする為の。
言わば隔壁である。
国境付近のみを作戦対象としたのは、敵国へと余りに深く潜り込むと反ってバレ易いと考えたから。
その前に、メインダリーには積極的に懐柔を促した。
ある時は金銀財宝を携え。
ある時は脅迫めいた文書を送り付け。
領主の心を揺さぶり続けた。
懐柔と時を同じくして、メインダリーと接するヘルメシア帝国の領地〔メンティ〕からトンネルを掘り始める。
懐柔に成功すると、メインダリー側からもトンネル工事を開始。
領内撹乱に乗じて、言葉巧みに騙して労働力として住民を連行。
一大プロジェクトと称し、トンネル堀りでは無く鉱山開発という名目で穴を掘らせた。
穴掘りの専門家として、小人族の者も何人か参加。
この時は、大叔父様も利益になると考え許諾していた。
勿論、本当の目的は知らされずに。
そこで、事態は大きく変わる。
幼いアリュースが、現場視察に来ていた先代皇帝に連れられてメインダリーへとやって来た。
父から工事の本当の目的を聞かされ、怖くなって夢中で走っている内。
気付くとセントリアに。
そこでホビイと出会い、気が落ち着くまでコボルで匿われた。
アリュースから工事の実態を聞いたホビイは、大叔父様に報告。
これは不味いと判断、すぐに作戦を立案する。
それを、穴掘りの現場監督をしていた小人達に通達した。
小人達は適当な理由を付けて、労働者として連行された人達をセントリア経由で逃がした。
労働力が減れば工事は遅れる。
なので、周りの領地からの連行が再び行われた。
少し工事をさせてから、小人達はまた逃がす。
また連行が行われる。
また逃がす。
そのいたちごっこが暫く続いた。
業を煮やした敵側は、小人族を解雇。
抹殺しようとするが、その前にずらかっていた。
現場付近に横穴を掘り潜伏していた小人達は、度々連行された人達を逃がし続け。
更に『この様な事を企んだ黒幕が、別に居るに違いない』と考えた。
時が流れ、今の皇帝が地位に付いた頃。
敵の中で怪しい動きが起こった。
正統後継者であるアリュースでは無く、兄が継いだ事で。
『これに異を唱え、皇帝の座から引き摺り降ろそうとする者が居る』との情報が、12貴族の近辺で流れた。
それに賛同する者、反対し皇帝及びアリュースを守ろうとする者。
どちらに付くかは、表向きには表明されていない。
しかしそれに加えて、中立を保つ者の三極が存在するのは間違い無かった。
そこへ偶々、トンネル完成の知らせが来た。
皇帝は一計を案じる。
アリュースから小人族の話を聞いていた皇帝は、これからの事を大叔父様に相談。
密に連携を取り、不穏分子を炙り出す事にした。
そしてセントリア侵攻を掲げ、アリュースを軍の大将に任命。
大将の周りを信頼出来る配下で固め、少数でメインダリーに行かせた。
少数で侵攻させる事を怪しむ連中には。
『トンネルを大勢で移動すると危険だ』とか『兵士はメインダリーで調達した方が敵の虚を付ける』だとか言い訳をして、適当に誤魔化した。
メインダリーに到着したアリュースは早速、常駐する12貴族と会談。
兵士の調達に入った。
調達とは名ばかりで。
事前の打ち合わせ通りに、『連行されてトンネルを完成させた後、口封じの為に抹殺され掛かっていた人々』を志願兵に仕立て上げ。
侵攻の名の下に、アリュース達とセントリアへ移動。
そのまま敵兵の振りをして待機。
アリュースとその配下も、戦っている振りをして村に駐屯。
作戦を事前に大叔父様から聞かされていたセントリアの領主は、攻め入る振りをしてやって来る偽装敵兵を首都テュオへ迎え入れた。
そこでお役御免。
解放された労働者を、そのまま今度は行商人に変装させ別の領地へ逃がした。
小人族は、各領地に見張りを派遣。
状況が変わっているか逐一報告させた。
そしてセントリアで膠着状態を演じてから、今に至る。
と言う訳だ。
つまりアリュースが言っていた《作戦》とは、【裏切り者の特定、及び自身の亡命】。
『グスターキュ帝国で暗躍している人間の中に、黒幕が居る』と考えていたのだ。
話し終えると、ジューはぐったりしていた。
これだけの量を話すのは、小人族にはかなりの負担。
でもきちんと話す必要があったので、この様な状態になるのは覚悟していた。
エミルは、ワクワクして待っていたのを少し後悔した。
申し訳無く思った。
お喋りの妖精とは訳が違う。
違うんだ……。
「お話し頂き、ありがとうございます。」
クライスは感謝の言葉を述べた。
「いや、慣れん事をしたもんですからな。私は大丈夫。」
ゆっくりと姿勢を戻すジュー。
「経緯は以上じゃ。お分かりになられたかの?」
クライスに問い掛ける。
正確には〔クライスの形をした金の彫像〕だが、はうんうんと頷いた後。
ある推測を立てた。
「黒幕はこちらでは無く、ヘルメシア帝国に居ますね。」
「何と!」
「当然でしょう。自ら敵国に乗り込むリスクを背負ってまで、暗殺まがいの事はやって来ないと考えるのが妥当です。」
「なるほど。」
「グスターキュ帝国の者が殺してくれるなら良し。失敗して自国に逃げ帰っても、責任を負い被せて公開処刑出来ますから。」
「ふむう。」
「それに今の話からして。周到に準備し、ヘルメシア帝国の乗っ取りを画策している様ですね。黒幕は恐らく、《先々代に敵国侵攻を提案した者の一族》でしょう。」
「それはどう言う事ですかな?」
流石にジューはその言葉が引っ掛かった様だ。
クライスは答える。
「『黒幕が貴族とは限らない』と言う事ですよ。例えば《側室》とか。」
「側室!それなら庶民の中から、その様な発想を持った者が皇帝に近付いてもおかしくは……!」
ジューは驚嘆の声を上げる。
何と言う洞察力。
そして何と恐ろしい発想力。
「側室なら、貴族に働きかける事も出来ますしね。相当の執念の持ち主ですが。」
「恐ろしい!ああ、恐ろしい!」
エミルは。
クライスがそう思い付くんだから、変わった人間の中にはそう言う奴も居るんじゃないの?
そう軽く考えていた。
ホビイとビットも同様。
しかし、ジューの考えは違っていた。
本人だけならともかく、一族となると事は重大。
その執念の行き着く先は、国の乗っ取りだけでは収まらない。
「余り考えたくは無いですが、そうなりますね。」
クライスは淡々と答えた。
その結論に、呑気に考えていた3人も流石に凍り付いた。
「一族の最終目的。そう、【この世界に生きとし生ける、全ての者の抹殺】。」




