表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/320

第44話 仮初の村

「こ奴等、どうしてくれよう……!」


 珍しくセレナが怒り狂っていた。

 大切な人を殺そうとしたのだから、当然ではあるが。

 それを防げなかった自分にも、腹を立てていた。




 盗賊団を返り討ちにしてから。

 アンが錬金術で3人を縛り上げ、リゼが使っていた睡眠薬を無理やり飲ませた。

 3人はそのままバタンキュー。

 一行はそれを見届け、ゆっくりと床に付いた。

 セレナがきちんと概要を聞いたのは翌日、朝ご飯を食べている時。

 アンに『落ち着いて』と言われて、その場は矛を収めたが。

 3人が目を覚ますと勢い良く飛び付き、リゼの喉元にナイフを突き立てる。

 後ろから抱え込んで引き離すラヴィ。

 抵抗するが、掴んでるのがラヴィと知り引き下がる。

 それからずっと怒りっ放し。

 家の中をうろうろ。



 しかしラヴィが取った行動については、アンとセレナには内緒。

 何しろボーンズを殴ったのは、《ラヴィの体を動かすキーリ》だったのだから。

 キーリは『緊急回避行動だ』と正当化しようとしたが。

 ラヴィは一連の動きを夢の中で見ていたので、ムキムキマッチョのイメージが付かないか不安だった。

『乙女なのよ』と、キーリにキツく申し付けて。

 護身術程度はラヴィも身に付けていたので、『体が良く動いて戦いは楽だった』とキーリは語った。

 褒められても良い気はしないラヴィ。

 なるべく、己の手で人を傷付けたくは無かったから。

 どんな理由があっても。




「何か騒がしいな……。」


 クライスが家の外を覗くと、開けた場所に人が集まっていた。

 人数は4、50人程。

 ほぼ全員が、人の親位の大人。

 気になって、『済みませーん』とセレナを行かせる。

 男より女の方が話し易いと思ったのだ。

 案の定、大人達は心配そうな顔で言う。


「どうしたい?大丈夫かい?」

「あの家から出て来たねえ。と言う事は……。」

「あんた、まさか被害に!」


 畳み掛ける様な言葉の連続で、セレナは返事が出来ないままジリジリ後退。


「今なら逃げられるよ!」

「早くお行き!」

「今の内に!」


 迫り来る人を両手で押さえる様に、『落ち着いて下さい』と言うのが精一杯のセレナ。

 そこに、ひょっこりと顔を覗かせるアン。

 こんな小さい子まで!

 群衆と化した大人は、最早止め様も無かった。

 家の中へなだれ込もうとする、その勢いを殺す様に。

 群衆の目の前に、グルグル巻きの盗賊団が投げ入れられた。

 そして、落ち着いた様子のクライスが家から出て来る。


「ご安心下さい。賊は捕らえました。」


 解きなさいったら!

 叫ぶリゼの声も空しく消える。

 群衆が『うおーーーっ!』と怒号を発したからだ。

 余程、盗賊団に恨みを持っていたらしい。

 殴り掛かろうとする人も居た。

 それをクライスが制する。


「駄目ですよ。殴ったら、あなたは〔こいつ等と同レベルの人間〕と格付けされてしまいます。それは不本意でしょう?」


 そう言われたら、引くに他無い。

 怒っている群衆の内、1人が言う。


「こいつ等は盗人を働く手間に、俺達を監視してたんだ。逃げない様にな!」


「逃げる?」


 クライスが疑問を投げる。


「ああ。俺達は全員、他所よその土地から連れて来られたんだ。『こちらの方が食い扶持が良い』と騙されてな。」


「それはこの領地外から、と言う事で?」


「〔モッテジン〕って町、知ってるか?元々は、そこでの労働力に駆り出されたんだ。」


「ノルミンの村で、良く似た話を聞いたわね。」


 横で話を聞いていたラヴィが口を挟む。

 すると、奥の女性が大声を上げる。


「ノルミン?ノルミンを知ってるの?」


 ラヴィに駆け寄り、しがみ付く。


「ロウムから領地モッタに入って、最初に訪れた村で出会った少年ですが……。」


 ラヴィは半信半疑。

 名も無かった村で会ったのだから、同一人物かは分からない。

 しかし女性の目はキラキラしていた。


「間違い無いわ!私達の子よ!ねえ、あなた!」


 女性は群衆の方を振り返る。

 或る男性が人混みを分け入って、こちらにやって来た。


「そうだ。俺達の村には名前が無いんだ。ここと同じ様に。」


「え?結構家が建っていますが……。」


 ラヴィは改めて村を見回したが、あの村よりも家の数が多い。

 名が無いとはおかしい。


「ここは。俺達の様に他所から連れて来られた労働者の、休憩所みたいなもんなんだ。」


 ノルミンの両親と思しき人達とは別の人物が、事情を話し出す。




 定期的に何処からか掻き集めては、無理やり働かせるんだ。

 何を作ってるか知らされずな。

 俺達は大型のプロジェクトが終わった後に連れて来られたから、その他雑用をさせられてるんだ。

 それまでに連行された奴等?

 さあ、分からんよ。

 口封じの為に、抹殺されたかもな。

 で、俺達の監視と。

 何も知らない他所者が迷い込んだ時の処理係として。

 盗賊団を雇った訳だ。

 誰が?

 さあ、領主様なんじゃねえの?

 何も無かった所に、こんな検問まがいの偽の村を作る位だからな。

 ただ、おかしいんだよなあ?

 一度パラウンドに連れてかれた時見たんだが、町の中を明らかに自軍じゃない兵士が歩いてたんだ。

 平気な顔をして。

 そんな事有り得るかい?

 それにしてもあんた等も災難だったな、こんな事に巻き込まれて。

 え?違う?解決しに来た?

 何だそりゃ?




 説明していた男から逆に質問され、何と言おうか迷うラヴィ。

 それにはクライスが答える。


「俺達は、現状を覆し正常に戻す為に旅をしています。」


「現状?」


「あなた方は聞く権利が有ります。お伝えしましょう。この辺り一帯は《戦争状態》です。」


 戦争状態。

 その言葉を聞いて、群衆が湧き立つ。


「そんなの聞いてないぞ!」

「どう言う事だ!」

「でもそれなら、敵軍兵士が闊歩していてもおかしくないな……。」

「一大事だぞ!」

「他の領地はどうなんだ!ここと同じなのか!」




「落ち着きなさーーーーーい!」




 ラヴィが大声を張り上げると、やっと収まった。

『これから話しますから』とラヴィが前置きして、クライスが続ける。


「メインダリーが裏切り、敵軍を引き入れ。それがセントリアに進軍しました。今の戦場は主にセントリアです。」


 ゴクリと唾を呑む群衆。


「そして敵軍は。援軍を寄越せない様、隣接した領地を混乱させていました。」


 で?

 その後は?

 群衆は続きを待つ。

 クライスの次の言葉に、皆拍子抜けした。


「しかし俺達が領地のごたごたを解決し、今は俺達と協力状態にあります。関所の封鎖は俺達の指示による物です。」


「君達、本気で言っているのか?」

「妄言としか思えないが……。」


 失望の顔に変わって行く。

『仕方無いな』と、クライスは群衆に尋ねる。


「あなた方は故郷へ帰りたいですか?」


「そりゃあ、まあ。」


「帰れるなら、もうこの村は必要有りませんよね?」


 有るわ!大有りよ!

 そうだそうだ!

 こっちはおまんまの食い上げだ!

 そう叫んだのは盗賊団の3人だけだった。

 群衆は下を向いたまま黙っている。

 そんな事が叶う訳無い。

 帰りたくても帰れない。

 そう言う気持ちだった。

 クライスは、帰る意志有りと受け取った。

 それまで何処かへ飛び去っていたオズが、示し合わせた様にクライスの左肩へ留まる。


「《あれ》をやるんだろ?なら俺が必要だな。」


 得意気なオズ。


「ああ、これはちと負担が掛かるからな。お前が居て良かったよ、今回だけはな。」


 そう言ってクライスはしゃがみ、右手を地面に付ける。

 静かに目を閉じ、念じる。

 するとオズが眩しい光を放った。

 この場に居る者が、皆びっくり。

 光はクライスの体を通り、町中に広がる。

 蜘蛛の巣の様に。

 あらゆる建物が金へと変わり、馬車とそれを引く馬が誕生した。

 それも何台も。

『ふう』と一息付いて、クライスは立ち上がる。


「全員分の馬車を用意しました。これに乗ってお帰り下さい。行先を馬に告げれば、何処までも走りますから。」


『後は馬車の補強を頼む』とアンに告げると、クライスはその場に座り込んだ。

 皆呆気に取られる。

 黄金の馬は、まるで生きている様に動く。

 馬を金に変えたと言っても差し支えない出来。

 アンは早速、錬金術で補強に入る。

 馬はともかく、大人数を乗せる馬車は金だけでは丈夫で無いからだ。

 手伝うセレナ。

 アンが生み出した合金板を馬車の中に敷いたり、屋根や壁に取り付けたり。

 それをアンが接合する。

 共同作業は手際良く行われた。

 少し顔が青いクライスを気遣い、ラヴィが寄り添う。


「大丈夫?結構力を使うの?あれ。」


「生み出すだけだと、そうでも無いんだがな。」


「作った物に意志を宿らせるには、結構な魔力が必要なんだぜ。俺が居て良かったな、ホント。」


 オズの言葉を聞いて、クライスがオズを肩から降ろさない理由が分かった。

 この使い魔は、魔力の供給源なのだ。

 辺りの物から魔力を集め、特定の物にその魔力を提供する。

 理に適ってはいるが、それでは錬金術と魔法が同じ物になってしまう。

 その違いって何だろう?

 ラヴィはふと思った。




『帰れる』と喜ぶ者。

 起きた事を受け入れられず、一心不乱に祈りを捧げる者。

 クライス達に感謝する者。

 人それぞれの反応の中で、リゼの目だけが爛々と輝いていた。

 とんでもない宝石を見つけたかの様に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ