第41話 老婆、使者に名乗りを
「大婆様!困ります!」
町長は慌てていた。
「儂が書いたんだから、儂じゃろ!お前等にはイライラするわ!」
怒鳴り散らしている老婆。
一行がメインダリーに入って最初の町、イーソ。
そこで目にした光景は、けったいな物だった。
ここでラヴィのお節介の虫が騒ぐ。
取り巻きの人に聞いてみる。
「どうしたんです?」
「あんた、見かけない顔だが……。」
「はい、旅の行商人です。」
「関所は?」
「私達が通った後に閉じたみたいです。ラッキーでした。」
「そうか、でもすぐに立ち去った方が良い。あれを見ただろ?」
「何か騒いでいる様ですが……。」
「隣の領地からの流通が滞り始めたと思ったら、いきなり関所閉鎖だろ?俺達も何が何だか。あんた達、何か知らないか?」
「いえ、町に着いても商売はすぐ終わるもので。流れ流れの生活で、詳しい事は……。」
ここは濁しておいた方が良さそうだ。
「済まねえな、こっちは不安で一杯なんだ。一体、どうなってるやら……。」
困惑する取り巻きに会釈して、クライス達の所へ戻ろうとするラヴィ。
しかし。
「あーーーーーっ!」
老婆はそう叫ぶと、『ズザザザアアアアッ!』とラヴィに近付いて来る。
年を取っているとは思えないスピードで。
両肩をガシッと掴まれるラヴィ。
老婆が言う。
「丁度良い!あんた、付き合っとくれ!」
え?
初対面でしょ?
何言い出すの?
呆気に取られるラヴィ。
「あ、あのー。何処かでお会いしましたっけ?」
「今会っとるじゃろう!こうして!」
凄く面倒臭そうだ。
適当に言って離れないと。
「ですから、面識無いでしょ、私達。礼節って物が……。」
「そんな事知らん!それに儂はボケ取らんわい!失礼な!」
勝手にプリプリ怒る老婆。
しかめっ面のラヴィ。
露骨な表情にも、老婆は動じない。
寧ろ、ぐいぐい迫って来る。
そこに町長がやって来た。
「大婆様!旅の人は関係有りません!離れて下さい!」
無理に、ラヴィから老婆を引き剥がそうとする。
しかし、中々力の強い老婆。
何処にそんな体力が?
困ったラヴィは、クライスに『助けて』といった顔をする。
いつもなら、さっさと割り込んで話を聞こうとするクライス。
今回は何故か無視。
と言うか、関わりたく無さそうな表情。
苦手な物を見る様な。
いつもと勝手が違うクライスに戸惑いながら、セレナが代わりに割り込む。
「あの!取り敢えず事情を話して下さいませんか!」
ラヴィと老婆の間に下からスポっと入ったセレナが、キツい目をして老婆を睨む。
老婆はニヤッと笑って、ラヴィの肩から手を放す。
「おいおいおい、聞いてくれるかい。儂の話を。」
「え、ええ。事情が分からない事には、こちらとしても……。」
「そうかいそうかい、トウヘンボクの町長とは違うねえ!ささ、こっちへ。」
セレナの手を引っ張って連れて行こうとする老婆。
大慌ての町長。
「ちょ、ちょっと!そっちは私の家では!困りますよ、勝手に何でも!」
オロオロする町長に続いて、ラヴィとアンが付いて行く。
クライスはその場を動こうとしない。
あざとくそれを見つける老婆。
「何してる!あんたも来るんだよ!全く最近の若いもんは……。」
『しまった』と、渋々クライスは歩き出す。
それを見て疑問が湧きまくりのラヴィとセレナ。
どうしてそこまで毛嫌いするんだろう?
その疑問も、老婆の行動力に掻き消された。
「そこに座っとくれ。」
「ですからここは私の家……。」
町長は言いかけて、止めた。
老婆に睨まれたのだ。
町長がタジタジ。
そこまでの権力者なのか、この老婆は?
「儂はこの町に住む、【ロール】と言うもんじゃ。」
『はあ……』と言った顔のラヴィ。
「ほれ!自己紹介せんかい!」
『何故怒られる?』と考えたが止めた。
その思考は多分無駄。
とっとと話を聞いた方がいい。
「旅の行商人で、ラヴィと申します。」
「同じく、セレナです。」
「アンです。どうも。」
クライスは黙ったまま。
ロールがギロッと睨むが、頑な態度。
『まあ良いわ』と言う顔をして、老婆が話し出す。
「あんた等行商人なら、町に来た時何か感じたじゃろう?」
「まあ、雰囲気が寂しいなとは……。」
相槌を打つセレナ。
「何かがこの領地で起こっとる。それは間違い無い。」
「でしょうね。」
「それも、領主が何かやらかしたからに決まっとる!そうじゃろ?」
「私達に聞かれても……。」
「そこでじゃ。使者を立てて、陳情書を手に直談判する事になったんじゃ。」
「はあ……。」
「儂が陳情書を書いた。だから、儂が一番上手く事情を話せる。そう思わんか?」
「確かにそうでしょうけど……。」
「待ったーーーー!」
無理やり町長が割り込んだ。
「話をややこしくしないで下さい!ただでさえややこしいのに!」
「それはお前のせいじゃろ。」
ケロッとした顔のロール。
「で・す・か・ら!お体に触るでしょう!それに御老体を行かせたとなれば、町の評判が……。」
「それだからお前は、何時まで経っても小者なんじゃ。そんなもん気にせんで良いわい。」
再びラヴィ達の方に向き直るロール。
「そこでじゃ。お前達、儂を連れてっとくれ。どうせ目的地は同じじゃろ?」
〔護衛代わりをゲット〕と言う所か。
確かに首都に行くつもりだが、作戦の邪魔にならないだろうか?
ラヴィは思う。
それを見透かす様にロールが言う。
「勿論、お荷物なんかになるつもりは無い。この通り元気じゃしの。」
その場でピョンピョン跳ねてみせる。
そう言う問題では無いと思うが。
「ああ、分かった!分かりましたよ!」
町長は渋々同意した。
「済まないが旅の人、大婆様を案内しては下さるまいか?勿論、精一杯のお礼は用意しますが。」
町長の余りの弄られっ振りに、ラヴィ達は同情せざるを得なかった。
「お礼は結構です。ロールさんをお送りしましょう。」
「そうですか!申し訳無い、何なら町からお付きの者を……。」
『余計な事をするな!』と言う顔で、またロールに睨まれる。
すっかり委縮した町長。
「安心して下さい。不測の事態は慣れてますから。行商人なので。」
慰めにもならないかも知れないが、ラヴィは声を掛けずにはいられなかった。
大人気無く涙を見せる町長。
セレナとアンも町長の肩に手を置く。
お守りの辛さを知っているから。
クライスは、最後まで話に加わろうとしなかった。
「では早速出発じゃ!」
『おー!』と手を上げるロール。
慌ててロールの家へ荷物を取りに行く取り巻き。
何度もラヴィ達に頭を下げる町長。
『大丈夫ですから』を連呼するラヴィ達。
と言う訳で、一行に一時的ながらも1人加わった。
常に憮然とした顔のクライス。
ロールと何か関係が?
そもそもロールは何者か?
嵐を呼ぶ筈が、逆に嵐に巻き込まれる一行だった。




