第39話 小さい影、それは愛くるしく
『……兄様、あれ。』
モッタでの交渉を終え、一息付いている一行。
町の変化を見ておく為に、ぐるっと外を巡っている時。
こそこそしている小さな影を見つけたアン。
人間の大きさには見えない。
「聞いた話と違うなあ。」
影はボヤく。
もっと面白い物が見れると思ったのに。
引き受けるんじゃなかった。
そう思った時。
肩をガッと掴まれる。
「!」
振り返ると、見知らぬ男が立っている。
良く見ると、さっき覗いた時にあっちで立ってた奴と似てるな……。
頭にそう浮かんだ瞬間。
警戒心が急に沸き立ち、力づくで暴れ始める。
「くっ!くそう!」
自分は力が自慢。
それは仲間の中でも一番を自負する程。
しかし、もがいてももがいても頑として動かない。
冷や汗が出始める。
更にジタバタしようとする時に、声が聞こえた。
「別に取って食いやしないよ。ただ珍しかっただけさ。」
「?」
急に力が緩んで、ゴロゴロ転がっていった。
家の壁にぶつかる瞬間、ファサッと何かが身を包む。
何かと思えば、金の網だった。
男が近付いて来て、手を差し出す。
「驚かせる気は無かったんだ。ごめんよ。俺はクライス、錬金術師だ。」
クライスから差し出された手を、そっと掴む。
小さな手が。
「へえ。小人族かあ。初めまして。」
小さな影は、小人族の少年だった。
初めて会う種族に、興味津々のラヴィ。
文献でしか知らなかったので、同じく興味を示すセレナ。
『困ってるじゃない』と、少年の頭を撫でるアン。
うっとおしかったのか。
それとも子供扱いが嫌なのか。
アンの手を無理やり振り解く。
「やいやいやい!おらにはちゃんと名前があるんだ!【ビット】様と呼べ!」
ビットと名乗る少年の横柄な態度に、ペシッと軽く頭を叩くセレナ。
「駄目よ。そんな事するんなら、勝手にあだ名を付けるわよ。」
「あだ名?」
「そう。あなたの名前なんて、誰も呼ばなくなる位なね。」
「えーーー、それは困るよう。」
急におろおろする。
その反応を見てクライスは考える。
人間慣れした様子。
度々来ているみたいだ。
ここの人達とも交流があるのだろうか。
いや。
余程の事が無い限り、小人族はセントリアから出ない。
何か訳が有るのだろう。
「ビット、だっけ?良かったら、何しに来たか教えてくれないか?」
「だーめ。秘密なんだ。」
プイッとそっぽを向くビット。
「良いじゃない、ねえ。」
擦り寄るラヴィ。
セレナも続く。
じゃあ私も、とアン。
3人の美女?にすりすりされ、満更でも無い顔。
でへへへ、おっといけない。
真顔に戻るビット。
でもすぐに顔が緩む。
それを何回か繰り返した末に、とうとう折れた。
「しょうが無いなあ。ここだけの秘密だよ?」
3人はコクンと頷いた。
それを黙って、少し離れた所で見ているクライスだった。
おらは探りに来たんだ。
何か変わった事が無いか。
『有ったらすぐに伝えろ』って、大叔父様に言いつけられたんだ。
あ、大叔父様ってのは《小人族の長》の事。
本当のおじさんじゃないからね。
で、何だっけ?
あ、そうそう。
その役目をおらが任されたんだ。
一番強いか、らね。
それで何回か来たんだけど、何処が変わったのか分かんなくて。
そしたら急に、ピカーッと光って。
『何だろ?』と思って町の中まで来てみたら、でっかい壁が綺麗に無くなってる。
今まで退屈してたからね。
『やっと、何か有ったのか』と思って、楽しみにしてたのに。
それだけなんだもん。
『どうしようかな?知らせようかな?』って迷ってる時に、肩をガッとさ。
酷くない?
おら、何もしてないのにさ。
あのあんちゃんに言っといてくれよ。
『乱暴者は嫌われる』ってさ。
一方的にペラペラ喋ったかと思うと、満足気な顔をして胸を張るビット。
『どうだ、凄いだろう』と言わんばかり。
秘密な割には、サービス満点。
「乱暴者だって。気を付けないとね、クライス。」
くすくす笑うラヴィ。
からかわれる兄が放っとけない妹。
『まあまあ』と宥めるセレナ。
改めて見ると。
こいつ等が一番変わった事で、面白い事かも知れない。
ビットは思い直す。
「ねえ、あんた等の事知らせても良い?『こんな奴等が居たよ』って。」
試しに聞いてみるビット。
『うーん』と考えるラヴィ。
「ちょっと待って。クライスに聞いて来る。」
クライスの所へ行き、『こう言う事なんだけど』と伺いを立てる。
クライスは条件付きでそれを認める。
それを聞いて戻って来るラヴィ。
ワクワクしているビット。
「あのね。私達、これからあっちに行くの。私達がこの町から居なくなって、2日後なら良いって。」
ラヴィはメインダリーの方を指差して言う。
「分かった。約束は守るよ。小人族の誇りに賭けて。」
ビットはドンッと胸を叩いて、蹲った。
加減が出来なかったらしい。
愛らしい姿を見て、ほっこりするラヴィ。
「ありがとう。それと、これを持って行きなさいって。」
ラヴィから《或る物》を渡される。
「これを大叔父様に渡せば、全て分かるって。」
ラヴィはにっこりと笑う。
釣られてビットも笑う。
そして、ラヴィはため息を付いた。
「また旅か……。もっとゆっくりしたかったけど。」
それは無理な注文と諦める。
それ以上に、やらなければいけない事があるから。
その空気を感じ取ったのか、ビットがラヴィの足をぎゅっと掴む。
「おらが力を分けてやる。元気出せ。」
「ありがとう。良い男ね。」
褒められて、デレデレするビット。
「これから旅の支度をするの。ビットはどうする?」
ラヴィに聞かれて、ビットは迷う。
約束は約束。
こいつ等が町を出るまで、知らせに行けない。
暇だ。
なら。
「おらも手伝うよ。これも何かの……何だっけ。」
「縁?」
「そうそう、それ。力持ちは居た方が良いだろ?」
「じゃあお願いするわ。宜しくね。」
「おう!」
何故か意気投合する、ラヴィとビットだった。




