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第37話 後片付けはアフターサービス

 裸にされた騎士達は、布の服を被せられ全員捕らえられた。

 自分達が仕組んで造り替えられた砦の牢に、自ら入る羽目になろうとは。

 それはヒューイも同じ。

 その最中さなか

 目の前で人間が金に変えられた。

 見せしめに。

 その有様を見て。

 怯える余り、気が狂いそうになる敵。

『次は誰が良い?』とクライスに問われ、全員に指を指されるヒューイ。

 部下にまで裏切られ、最早抵抗する意思を失っていた。

 そんな訳で、敵は皆進んで牢に入った。

『ああなりたく無い』と言う一心で、クライスの質問に皆淡々と答えていた。


「ヒューイとか言ったな。それ、偽名だろう?誰かが『イレ……』って言ってたもんな。」


 頷くだけのヒューイ。


「せめてもの情けだ。このままでは不本意だろう。名乗りを上げると良い。」


 クライスの言葉に、『殺される』と錯覚したのだろう。

 あっさりと白状した。


「私はヘルメシア帝国皇帝にお仕えする12貴族の末席、【ヨウフ・フェルト・イレイズ】だ。」


「12貴族……ミセルの仲間か。」


「……やはりあ奴も……。」


 ミセルは、レンドで煽動活動をしていた筈。

 それが急に、音沙汰が無くなった。

 そしてクライスが、ミセルの名を知っている。

 把握した。

 こちらの作戦が、急速に潰されている事を。


「お前達。」


『ヒッ!』と言う声が上がる。

 次は俺達か!

 ヤバい、どうする……?

 必死に考えるも、万策尽きてがっくり。

 その様子を見て、クライスが問う。


「こっちに付く気は無いか?そうしたら、命だけは保障してやるが。」


 〔命だけ〕の部分が引っ掛かるが、助かるなら仕方無い。

 皆、家族や大事な人を故郷に残して来た。

 生きていればまた会えるかも知れない。

 牢に居る者の内。

 うな垂れる元貴族以外は、クライスに従った。

『ではその旨を伝える』と言い残して、クライスは上へ上がった。




「どうして生かすのです?あれは敵でしょう?」


 錬金術師の宗主家の出と知って、エプドモは敬語になっていた。


「俺は、無闇に命を奪う事を良しとしません。軽々しく扱ってはいけないのです。」


『流石宗主家』と、エプドモは頷く。


「〔あれ〕がかなり効いている様ですな。」


「ええ。あれは元から金の人形です。場が混乱している隙に仕込みました。」


 そう、人間が金に変えられたのでは無い。

 金の人形を、『元は人間だ』と信じ込ませたのだ。

 それだけリアルに作られていた。


「精巧な技術、素早い判断。全く以ってお見事。」


 エプドモは、純粋に感心していた。

 戦闘になれば、意思決定1つ間違えるだけでやられかねない。

 それを防ぐ術を、クライスが持っていると認めているのだ。

 それも高いレベルで。

 騎士長だからこそ、その凄さが分かる。

 ネイク達は口をあんぐりするばかり。

 そこが、エプドモの器の違いを垣間見る箇所だろう。


「エプドモ様、我々にも分かる様説明を……。」


 戸惑うネイク達に、エプドモは言う。


「『全ては、クライス殿の手のひらの上だった』と言う事だ。これで察してくれ。」


 自分達が蒔いた種を、代わりに綺麗に刈り取ってくれる。

 恥ずかしいのはエプドモの方だった。


「さて、町の中心へと向かいましょうか。そこで話し合いをしましょう。」


 クライスに促され、エプドモは席を立つ。

『後は頼んだぞ』と、ネイクの肩を叩く。

 ネイク達は敬礼して、2人を見送った。




 町の中心。

 そこにそびえ立つレンガ壁。

 予めアン達に、時刻と場所を連絡しておいた。

 町の教会の鐘が鳴る。

 すると、向こう側からフチルベの声が聞こえた。


「エプドモ様!いらっしゃいますか!」


「ああ、待たせて済まん!」


 エプドモも大声で返す。




「申し訳ありませんでした!」「済まなかった!」




 同時に発せられた言葉。

 誤解が誤解を生み、届かなくなった言葉。

 やっと届いた。

 身分の違いはあれ、領地の事を思う気持ちは一緒だった。

 今更になって、『何故ここまでいがみ合っていたのだろう』とさえ思える。

 お互い、きちんと話しあえば分かり合える。

 今回、その事を思い知った。

 気付かされた。

 今度は我々が、ズベート卿の元へ赴き説得する番。

 顔は見えなかったが、両者笑っている様に感じた。




「さて、と。」


 クライスが壁に近付く。

 すると壁がえぐられ、階段が現れた。

 正確には《階段を作る為、余分な箇所を金の粒子に変えた》だ。

 粒子は、町全体に広がって行く。

 無駄に、金の粒子を放出した訳では無い。

 クライスは階段を登り、壁の上に出ると。

 胸の前でパンッと手を叩く。

 すると音が反響し、振動が町の隅々まで伝わった。

 振動が伝わるさまは、空気が煌めいた事で分かる。

 かすかな振動なので、一般人には感じられないが。

 それによってクライスは。

 何処にどんな家が建ちどんな人間が暮らしているのかを、瞬時に把握する。

 高感度レーダーと思って貰えれば良い。

 情報を得て。

 クライスは、自分を見上げるエプドモとフチルベに問い掛ける。


「この壁、もう要りませんよね?」


「「ええ。」」


 2人から返って来る答えは同じだった。

 クライスは頷く。

 それをジッと見るアン。

『何をするのかしら』と興味津々の、ラヴィとセレナ。

 クライスは再び、パンッと手を叩く。

 すると。




 ギラッ!




 壁が眩しく輝いた。

 その場に居た者は皆、目を伏せる。

 次に目を開けた時には、壁が綺麗に無くなっていた。

 その代わり、町中から歓声が上がる。


「何だ?この金の塊は!」


 クライスは、壁を金に変えて町中に配ったのだ。

 均等に分けて。

 粒子を撒いたのは、配分するのに必要な情報を得る為だった。

 金塊には、《領主様からの贈り物》との文字が刻まれていた。

 それからすぐ、町の両替商がてんやわんやになるのだが。




 顔を合わせたエプドモとフチルベは、お辞儀した後苦笑する。


「本当に、我等は何をやっていたのか……。」


「もう良いではありませんか。」


 互いを慰め合う。

 ここまで苦労したのに、解決する時はあっさり。

 全く骨折り損だ。

 しかしまだ終わってはいない。


「今すぐ、ズベート卿の元へ出立しよう。」


 エプドモが申し出る。

 しかし、クライスが止める。


「大丈夫です。知らせは送りました。お二方は領主様をお迎えする準備をなさって下さい。」


 フチルベはアンの方を見る。

 アンは無言で頷く。

『ならば』と、フチルベは動き出した。

 それを見て、エプドモも動く。

 町は慌ただしくなって来た。




「〔知らせ〕って、何時送ったの?」


 不思議に思ってクライスに尋ねるラヴィ。


「そうか、光った時目をつぶってたのか。見逃したんだな。」


 クライスはそう答える。

 アンは知っていた。

 クライスが生み出した、金の燕。

 それが真っ直ぐに、ヨーセの在る方角へ飛んで行ったのを。

 流石は兄様。

 私の自慢。

 私の全て。

 でも何時か、そうじゃ無くなるのかな……。

 ラヴィと話すクライスを見て。

 前より明るくなったのを感じ、そう思わずにはいられなかった。

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